『ミッション:8ミニッツ』のラストについて

【警告】このエントリ(記事)では映画『ミッション:8ミニッツ』のオチについてネタバレをしています。




先日、SF好きな方々に好評のようなので気になって映画『ミッション:8ミニッツ』を見てきた。

古典的な時間ループネタをうまく料理していて素晴らしい作品だったのだが、この作品の感想をTwitterでちらほら読んでいたら、展開が分かりづらい、ラストがよく分からないというような声がいくつもあった。

そんな中、独自に解釈を試みて記事を書いている方がいた。

つまり、こちらの世界(現実)でも例のアクシデントは起きていないのだ。

職員は犯人の名前を言う

「名前はデリック・フロスト」(グッドウィンも犯人の名前を一緒に口ずさむ)←つまりグッドウィンは犯人の名前を知っていた。

そして博士が一言、「ソースコード(スティーブン大尉が使ったシステム)が活躍する日がくるだろう」と言う。

そう。つまり、まだここでは、システムが使われていないのだ。

グッドウィンだけが今まで起こった一部始終を知っているということが、ここからうかがえる。

なるほどこういう捉え方をする人もいるのかと思ったが、しかしこの解釈には異を唱えたい。

スティーヴンスからのメールを受け取ったグッドウィンがいる世界は「こちらの世界」ではなく「パラレルワールド」だろう。少なくとも自分は見ていて、このシーンから元の世界に戻ったなどとは思わなかった。

また、「グッドウィンは犯人の名前を知っていた」というのは、スティーヴンスからのメールに書いてあったからだと考えればよい。だからこのシーンのグッドウィンは「今まで起こった一部始終を知っている」わけではない。いきなり妙なメールが届いて困惑している(が、どういうことなのか薄々察しつつある)だけだ。わざわざ元の世界が改変されたなどというネタを持ち出さなくともこれで説明はつく。

ソースコードは全く新しい世界を作り出していたため、8分間の中で事故を阻止した事により”現実”(グッドウィンたちがいた世界)の出来事も書き換えられてしまった。

(中略)

現実と並行している世界(パラレルワールド)が存在し、スティーブン大尉が異世界において列車の事故をとめたので、現実の世界でも事故はおこらなかった。

でもここで一つ疑問が、パラレルワールドから現実の世界にメールを送信することは可能なのか?ということだ。

この記事を書いた方は、メールを受け取ったグッドウィンの属している世界を誤解しているため、論理が飛躍してしまっている。作中では明確な説明をしないので無理もないかもしれない。ヒントはスティーヴンスからのメールだ。

このソースコードは君が思っている以上に働く。君らは過去の8分間を創造していたと思っているかもしれないが、それは違う、君たちは全く新しい世界を作り出していたのだ。

この「君たちは全く新しい世界を作り出していた」というのがこの作品最大のSFネタで、これは現実世界の改変のことではなく、システムを稼働させる度に新たな並行世界を創造していたと取るのが自然である。量子論の観点から言えばエヴェレットの多世界解釈をSF的に使ったということ。自分は見ながらホーガン『量子宇宙干渉機』やイーガン『宇宙消失』を思い出した。

つまりスティーヴンスが試行錯誤を繰り返した数多の挑戦は、本当に存在する並行世界をその挑戦の数だけ創り出していたわけである。だから2回目だったか3回目だったかのループで「毎回少し違うんだ」というような台詞があったが、あれは「実は毎回少し違う世界にいる」というオチへの伏線である。

また、こちらも参照のこと。

この映画の矛盾点はただひとつ、スティーヴンスがシステムを使う度に銀色のオブジェ(クラウド・ゲート)が見えた理由の説明がつかないことだけ。これを説明できる方はぜひお願いしたい。

ともあれ、時間ループSF映画として非常によく出来た作品だった。

量子宇宙干渉機 (創元SF文庫)

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宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

追記(2011-11-24)

上で取り上げたブログの記事(http://movieaddictkoji.blogspot.com/2011/11/2.html)だが、さきほど見に行ったらタイトルが変更され、同時に本文も(どうやらこちらの指摘を踏まえた内容に)大幅に書き直されており、ここで引用した部分が無くなっていた。そのため、こちらを読んであちらのエントリを読みに行くと該当部分が存在せず分かりにくくなってしまっている。残念。

追記(2012-12-30)

以下の「復習編」で町山智浩氏が気になる箇所の解説をしてくれている。この作品に対する英語圏での評価や考察、インタビューなどはほとんど追っていなかったので、その辺を把握した上で色々とまとめてくれているのが良かった。やはり最も不幸なキャラクターはあの人か……。

それとは別に、作中における過去のSF作品に対する引用・オマージュと、また本作がラブストーリーでもあることについて的確な解説をしているブログ記事を見つけた。

特にオブジェの謎についての解釈には感心。

多分、シカゴの学校で働くコールが、クリスティーナとよく散歩するコースにあるオブジェなのだろう。
これは、コールがショーンの脳内に侵入する度に彼の記憶が転写されていくことを表している。それはまた、コールがクリスティーナに抱く想いが深まることでもあった。

ただもはや内容の詳細まで覚えていないので、クリスティーナがそこまでショーンと親密な関係だったのかについては確信が持てないが。