ロナルド・ブレイスウェル『謎の宇宙交信』(佑学社)

はじめに

ブレイスウェル探査機という概念がある(ブレイスウェル・プローブ、ブレイスウェル・マシンとも)。高度な人工知能を搭載して恒星間を渡り、異星技術文明の探索、および発見した異星文明との交信を独自におこなえる自律型恒星間探査機のことである。SFであれば、たとえばアーサー・C・クラーク楽園の泉』に出てくるスターグライダーなどが該当するだろうか。

このアイディアを提唱したのはロナルド・N・ブレイスウェルという電波天文学者で、1960年のこちらの論文が元らしい(未読)。

彼は1974年に The Galactic Club: Intelligent Life in Outer Space という本を出しており、これが1976年に『謎の宇宙交信』(訳=西俣総平)というタイトルで邦訳出版されている。

古い本なのでその内容についてはWeb上にあまり情報がないのだが、今回入手したので少し紹介してみる。

目次

第1章 人間は一人ぼっちか?

第2章 ベリコフスキーの宇宙仮説

第3章 人間はユニークな存在か?

第4章 宇宙交信の実際

第5章 サイクロプス計画

第6章 電波による宇宙交信

第7章 惑星文明はどこにあるか?

第8章 宇宙に送るメッセージ

第9章 宇宙人への呼びかけ

第10章 宇宙人は地球を訪れたか?

第11章 古代の神々の足跡

第12章 恒星間飛行は可能か?

第13章 技術発展と人間の前途

第14章 宇宙への植民

第15章 人間の未来

※漢数字をアラビア数字に変更。

各章の内容

第1章は太陽系の形成と生命の誕生について。

第2章でいきなりイマヌエル・ヴェリコフスキー衝突する宇宙』の紹介になるので身構えてしまった。ただしヴェリコフスキーの説を紹介しつつ、各界から出ている反論についても挙げているため、ブレイスウェル自身はあの壮大な法螺話に魅力を感じつつも完全に信用しているわけではないのが伺える。

第3章は知的生物への進化について軽く触れている。

第4章で電波望遠鏡の仕組みや電波の周波数などの概要を解説。

第5章は水素原子が発する周波数など、SETIでおなじみのマジック・フリークエンシー(魔法周波数)やウォーターホール (Water Hole) についてと、サイクロプス計画の紹介。ちなみにサイクロプス計画はその後頓挫した。

第6章では地球から漏れ出るアナログTV電波についてや、ETI(地球外知的生命)からのメッセージを受信した際のアメリカ議会での想定問答などが書かれている。

第7章で惑星文明についての考察をしている。惑星文明の寿命や、銀河系内の静的安定人口などの考えかたと見積もりがされており、今読んでも面白い。現在の知見からすると古くなっている箇所が多々あるだろうが。

第8章で、のちにブレイスウェル探査機と呼ばれることになる、自律型宇宙探査機の概念が披露される。地球にこのような探査機が飛来した場合の、ラジオのエコーを利用した最初の交信の予想などが詳しく書かれており、なかなか興味深い。そして原題にもある「銀河系クラブ」の話題になる。これは一種の惑星連合で、恒星間交信により交流している惑星文明が集まったものとされる。

第9章はETIの形態などについて。

第10章ではETI(の探査機)が過去に地球を訪れていた可能性について。

第11章でエーリッヒ・フォン・デニケンのいわゆる古代宇宙飛行士説に触れているが、併せて反論もきちんと紹介し、デニケンの著書を「想像力豊かなロマンチストが描いたフィクションにすぎない」と切り捨てている。

第12章は恒星間航行における物理的・技術的問題について。近光速航行時の時間の遅れや、反物質推進、オライオン計画にも少し触れている。

第13章は増大する人口とそれを維持するエネルギーについて。ダイソン球についても。

第14章では宇宙植民ということで、ジェラード・K・オニールスペースコロニー案を紹介。

第15章で将来への期待と展望を軽く書いて終わる。

補足

ちなみにこのブレイスウェル探査機、たとえば比較的最近の本では、スティーヴン・ウェッブ『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』(青土社)で「ブレイスウェル=フォン・ノイマン探査機」として紹介されている。ただしブレイスウェル本人は自己複製機能については何も触れておらず、ブレイスウェル探査機と言った場合、必ずしもフォン・ノイマン型(自己複製機能搭載)である必要はない。

広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス

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