SF界の文化戦争「パピーゲート事件」について

はじめに

ケン・バーンサイド(Ken Burnside)によるエッセイ The Hot Equations: Thermodynamics and Military SF を購入し、同人誌として翻訳を出すことを考え始めた際、この作品がヒューゴー賞関連作品部門で最終候補作となった2015年は、英語圏のSF界で「パピーゲート事件(パピーゲート騒動)」が問題となった年であることに気がついた。

この事件については当時からすでに日本語で伝えてくれている記事がいくつか存在し*1*2*3*4、その後現在までも多少出ているが*5*6*7、どれもダイジェスト的な内容である。そこで同人誌を出す前に、事件の経緯をもう少し詳しく把握しておきたいと思い、個人的に調べてまとめたものが本記事の基になっている。当初は同人誌の巻末解説にするつもりだったが、本文より長くなりそうだったのでやめた。その後はコミックマーケット98で翻訳本の新刊を出せなかったら代わりにこの文章を冊子にして出そうと目論んでいたが、当選したものの当のイベント自体が中止となってしまったため、ここに公開する。

なお The Hot Equations: Thermodynamics and Military SF については著者と契約して無事に翻訳権と日本語版出版権を取得できたので、邦題『熱い方程式:熱力学とミリタリーSF』として2019年末に開催されたコミックマーケット97で頒布することができた。現在は同人誌即売会のほかに「BOOTH」の通信販売でも頒布しているので、興味のある方はぜひどうぞ(宣伝)。

ヒューゴー賞についての基本

「ジャンルSFの父」ヒューゴー・ガーンズバック(Hugo Gernsback)にちなんで名付けられたヒューゴー賞は、SF・ファンタジー作品の有名な賞である。毎年、ワールドコン(世界SF大会)というイベントに登録したファンの投票によって決定され、ワールドコン会期中の授賞式において発表される。日本の星雲賞も毎年の日本SF大会に参加登録したファンの投票により決定されるが *8、これはヒューゴー賞を手本にして星雲賞が創設されたためである*9*10

なお、ヒューゴー賞の投票資格を持つ人には、最終候補作もしくはその抜粋をまとめた電子版の作品集(「Voter Packet(投票者パケット)」と呼ばれる)が事前配布されるため、皆が読んでから投票できるシステムになっている。

2019 Hugo Award

via Wikimedia Commons / Photo by Bastun / CC BY-SA 4.0

2019年の第77回世界SF大会(ワールドコン)で授与されたヒューゴー賞トロフィー。

2013年――始まり

そもそも騒動の始まりは、2013年1月、ファンタジー作家のラリイ・コレイア(Larry Correia)が、ブログで自分の作品をヒューゴー賞の最終候補に入れるよう呼びかけを行ったことだろう*11。彼はヒューゴー賞とジョン・W・キャンベル新人賞(現アスタウンディング賞。授賞式はヒューゴー賞と同時に行われる)、ひいてはSF・ファンタジー界がいわゆる「リベラルやポリティカルな思想」によって支配されつつあると考えていた。そこで「もっと(彼自身のような)世俗的・大衆的娯楽作品を書いている作家を推薦しよう」と呼びかけたのである。

「読者に何時間もの爆発的な楽しみを提供しているにもかかわらず、ほとんどのパルプ小説家は批評家に認められることはなく、その実、彼らは文学者エリートに罵倒される〔abused;「虐待される」の意も〕ことになる」と書いた彼は、そんな自分たち「パルプ作家」のことを、アメリカ動物虐待防止協会のCMからヒントを得て、虐待された「サッド・パピー(Sad Puppy;悲しい子犬)」になぞらえた*12*13*14

ヒューゴー賞はワールドコン自体に参加できなくても、日本円に換算して数千円の登録参加費(Supporting Membership)を払えば誰でも推薦・投票できるシステムとなっている。そして最終候補作が決まる時期まではそこまで大会登録者が多くないため、もしも一定数の組織票を集められれば、意図した作品を最終候補リストに載せることが可能となっていた。2013年のコレイアによる活動は結局失敗したものの*15、その後に続く騒動の始まりとなった。なお、この年に長編小説部門を受賞したのはジョン・スコルジー(John Scalz)の Redshirts(『レッドスーツ』ハヤカワ文庫SF)である。

コレイアは、いうなれば「リベラルやポリティカルな思想を好み、文学性や多様性ばかりを重視して作品を推す左派系SFファン」を自分たちの仮想敵として「SMOF」と呼んでいた*16。この「SMOF」という概念自体は昔から知られているジョークだ。「Secret Master Of Fandom(ファンダムの密かな支配者)」の略で、ファンダム(ファン界)を影から操って、SFジャンル内における人気を司るような影響力をもつファンのことをいう内輪のネタである*17。もちろん実際にそんな秘密結社めいた人々が存在するわけはないのだが、SFファンは冗談が好きなので、そこから派生して実際のSF大会運営用のメーリングリスト名に使われていたりする*18。コレイアはあたかもそのような一部の人間の好みで受賞作が決まっているかのような、陰謀論じみた主張をブログに書いている。

2014年――サッド・パピーズ2

翌2014年も「サッド・パピーズ2(Sad Puppies 2)」としてヒューゴー賞への組織的投票の呼びかけは続けられ*19、前年と違ってコレイアは、ヒューゴー賞とジョン・W・キャンベル新人賞の具体的な候補作リストをブログで公表した*20。後述する、悪名高いヴォックス・デイ(Vox Day)も、自身のブログでコレイアに協力している*21

前年とは違ってこの年の活動はそれなりに成功し、コレイアの出したヒューゴー賞候補リストには10本(+キャンベル新人賞2本)並んでいたが、そのうち7本が最終候補に残った*22。うち長編小説部門の最終候補にはコレイアの作品が、同じく中編小説(ノヴェレット)部門の最終候補にはデイの作品が入っていた。また、米陸軍予備役の上級准尉でもある保守派のSF作家ブラッド・R・トーガーセン(Brad R. Torgersen;トージャーセン名義で邦訳作品あり*23)が、中長編小説(ノヴェラ)部門と中編小説(ノヴェレット)部門の最終候補に残っている*24。ヒューゴー賞ノミネートに組織票が影響したという事態は大きな議論を呼び*25、コレイアに対して多くの批判が浴びせられ、トーガ―センはコレイアを擁護する論陣を張った*26*27*28

コレイア自身もブログで反論をしている。近年はSF・ファンタジー作家が白人以外の人種だったり、女性や同性愛者などであったりすることも当然あり、作品内容にも多様性や進歩的なテーマが盛り込まれたり、高い文学性を併せ持つものもある。保守派のコレイアは近年のヒューゴー賞が作品のクオリティではなく、そういった人種や性別、価値観などの多様性といった政治的な観点や文学性に偏って選ばれていると思いこんでいたようだ*29

結局この年コレイアのリストにあった候補は、彼自身の作も含めて受賞にまで至らなかった*30。なお、このとき長編小説部門を受賞したのがアン・レッキー(Ann Leckie)の Ancillary Justice(『叛逆航路』創元SF文庫)である。

2014年――ゲーマーゲートと「SJW」

ところで同年の夏ごろから、ゲーム界隈において「ゲーマーゲート」騒動が勃発する。この詳細までは踏み込まないが、コンピュータゲーム文化における腐敗、女性差別と進歩主義についての論争から、嫌がらせの果てに虚偽通報で相手の家に警察の部隊を送り込んだり(スワッティング)、はたまたイベントが爆破テロ予告されたりもした騒動である。

この騒動により「SJW」なる言葉が広く知られるようになった。SJWとは「ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー(Social Justice Warrior)」の略で、訳すと「社会正義闘士」となる。これはフェミニズムや人権、文化的多様性などの考えを広める人々のことだが、彼らをいわば「正義の味方気取り」と揶揄する言葉である。攻撃的な表現規制論者に対しても使われることがある。この年以降、「サッド・パピーズ」を自称するコレイア陣営も、対立する人々について「SJW」とも呼ぶようになった*31*32

2014年――「悪の同盟」とジョン・C・ライト

2014年半ば頃、コレイアはヴォックス・デイやジョン・C・ライト(John C. Wright)、サラ・A・ホイト(Sarah A. Hoyt)といったSF作家らと、「Evil League of Evil(悪の同盟)」という内輪グループを半ば冗談で結成した*33*34*35。これはミュージカルコメディドラマ Dr. Horrible's Sing-Along Blog に出てくる悪役同盟の名からきている。また、その少し前、2014年4月にライトはSFWA(Science Fiction and Fantasy Writers of America;アメリカSFファンタジー作家協会)から脱退しており、それに続いてトーガーセンも脱退している*36*37*38*39

余談だが、邦訳された〈ゴールデン・エイジ〉三部作(ハヤカワ文庫SF)で知られるジョン・C・ライトについて、日本ではあまり知られていない話がある。2003年、彼は心臓発作に襲われ、バイパス手術のために入院した病床で神秘体験をして、無神論者からキリスト教へと回心している*40*41。彼によれば「聖霊が体に入るのを感じ、己の魂に気づき、そして聖母マリア、彼女の息子、彼の父など数日に渡って様々な霊がやって来て、宇宙の神秘的な合一性について覚醒する」恍惚的な体験をしたそうだ*42。ちなみに〈ゴールデン・エイジ〉三部作が書かれた頃はまだ回心前である。

彼は現在アンチ同性愛*43*44*45かつ性差別主義で知られているが*46*47*48*49、回心前後で思想が変化したのか気になったのでブログの過去記事を(念のため Wayback Machine で当時の状態に遡って)読んでみたが、回心前から反左派、反フェミニスト、中絶反対派であったようだ。また回心後にはテッド・チャン(Ted Chiang)の短編SF "Hell Is the Absence of God"(「地獄とは神の不在なり」)に対して「つまらない反キリスト教のプロパガンダ」だと批判している*50*51

2015年――サッド・パピーズ3とラビッド・パピーズの登場

さて2015年、ブラッド・R・トーガーセンがコレイアの後を継ぐかたちでサッド・パピーズのまとめ役となり、一般から募ったという形でヒューゴー賞候補作リストを発表し、組織的投票の呼びかけをした*52*53*54*55。これが「サッド・パピーズ3(Sad Puppies 3)」である*56。彼によれば、偏ったイデオロギーによって無視されてしまうが、実際売れている作品や注目に値する作品をまとめたものであり、絶対的なものではなくあくまで「おすすめ(recommendation)」でしかないそうだ。そしてリストの長編小説部門にはコレイアの作品が、中長編小説(ノヴェラ)部門にはジョン・C・ライトの作品が並んでいた。しかしどうやらこのリストの下地として、「Evil League of Evil」内での話し合いがあったことを伺わせる記述をコレイアがブログに書いている*57*58

コレイアが「SMOF」と呼んだ人々について、トーガーセンはこれに替わる言葉「CHORF」を作り出した*59*60。これは「Cliquish Holier-than-thou Obnoxious Reactionary Fanatic(派閥を組んでいかにも聖人ぶった醜悪な反動的狂信者)」の略で、ニュアンスとしては「SJW」とほぼ同じである。彼によれば「CHORFはファン政治にまつわるすべての人のことであり、誰かがファンかそうでないか、誰がファン派閥を支配するか、誰が流行を作る人なのか等を決定する人々」だそうで、こちらもやはり陰謀じみた考えである。

そして、トーガーセンが「サッド・パピーズ3」のリストを発表した翌日のことである。作家兼編集者でゲームデザイナーでもあるヴォックス・デイが、突然ブログでサッド・パピーズ同様に候補作リストを発表し、「ラビッド・パピーズ(Rabid Puppies;狂える子犬たち)」だとして新勢力の名乗りを上げた*61。ラビッド・パピーズのリスト内容はサッド・パピーズのリストとほぼ重なっており、長編小説部門にはコレイアに加えてトーガーセンの作品も入っていた。デイは「SF・ファンタジーに関して私の意見を認める人々に、これらをそのまま推薦することを奨励する」と書いた。このラビッド・パピーズの登場によって、騒動はさらなる拡大をみせた。

ヴォックス・デイについて

ヴォックス・デイこと本名セオドア・ビール(Theodore Beale)は、1990年代に有名テクノバンド「Psykosonik(サイコソニック)」のメンバーだったが、その後ビデオゲームや文筆分野に活動の場を移した*62。彼は極端な思想で知られており、人種差別主義者*63、女性蔑視者(ミソジニスト)*64、オルタナ右翼*65、反ユダヤ主義者、インテリジェント・デザイン支持者などとされる*66*67。2015年にウォール・ストリート・ジャーナルは彼のことを「the most despised man in science fiction(SF界で最も軽蔑される男)」と表現した*68。アメリカ先住民の血を引くと自ら語っているデイだが、その実は白人優越主義者で、この2年前の2013年には人種差別的言動がきっかけでSFWA(アメリカSFファンタジー作家協会)から追放されている。

2013年――SFWA性差別論争とデイの除名

ここで、少し遡ってその2013年に起きたSFWA会報にまつわる性差別論争とデイの追放劇について触れておきたい。パピーゲート事件の前兆というか、そこへゆるやかに繋がる騒動だからだ。

SFWAの発行している会報があるのだが*69、その199号と200号に載ったマイク・レズニック(Mike Resnick)とバリイ・N・マルツバーグ(Barry N. Malzberg)による連載コラムの内容が性差別的だったのに加え*70。これらへの批判が湧き上がったのをきっかけに、SF・ファンタジー業界における性差別について声を上げる作家が続出して論争となった*71*72。レズニックとマルツバーグは202号のコラムで、これらの批判を検閲だとして批判者を「リベラル・ファシスト」と呼び、さらなる批判を受けた*73*74。最終的に、当時会長だったジョン・スコルジーは謝罪し*75、会報の編集長だった作家ジーン・レイブ(Jean Rabe)は辞任した*76

そしてこのとき、デイはブログでSFWAを「Seriously Fascist Women’s Association(真面目なファシスト女性協会)」と呼び、性差別に批判的なブログ記事やツイートへのリンクを一覧にして晒していた*77*78

そんなさなかの2013年6月、アメリカの黒人女性作家N・K・ジェミシン(N. K. Jemisin)が、オーストラリアのフィクション&ポップカルチャーの大会「コンティニアム(Continuum)」にゲスト・オブ・オナー(主賓)として招かれ、そのスピーチ内で以下のように話した。

「さて、こういう〔訳注:SFWAの性差別論争の〕状況下で、最近SFWAの会員も新会長選挙に投票しました。2人の候補者がいて――そのうち1人は自称ミソジニストで人種差別主義者、反ユダヤ主義者等のクソ野郎です。この選挙で彼は大敗したのですが……それでも投票の10%を獲得しました。SFWAは小さく、合計で約500人しか投票していないので、だからこれは50人以下ということになります。しかし、また規模を大きくして考えてみてください。この国の人口の10%が、ただの特権ではなく、尊厳でもなくて、あなたの最も基本的な権利を剥奪するため積極的に勤しんでいるのを想像してください。あなたと接した人々の10%が、日常的にあなたを人間とみなしていないのを想像してください」*79

名前こそ出していないが、ここでジェミシンが非難している候補者はデイである。このスピーチに対し、デイは自分のブログで彼女について「we simply do not view her as being fully civilized for the obvious historical reason that she is not.(我々は明白な歴史的理由で、彼女を完全に文明化された存在だとはみなしていない)」と書き、「educated, but ignorant half-savage(教育を受けたが無知な半野蛮人)」とまで呼んだ*80。彼はSFWA会員が宣伝などの目的で利用できる共用Twitterアカウント「@SFWAauthors」を使ってこのブログ記事へのリンクを張ったツイートを投稿したため、記事の内容からこれが規約違反として問われ*81*82*83、8月にSFWA理事会は満場一致でデイの除名を採決した*84*85*86*87*88*89

ちなみにジェミシンがスピーチで触れた選挙で、SFWA会長はスコルジーからスティーヴン・グールド(Steven Gould)へ交代している。会長職にあったスコルジーだが、実は以前からデイと対立しており、自身のブログでは彼のことを名前でなく「Racist Sexist Homophobic Dipshit(人種差別主義・性差別主義・同性愛嫌悪のバカ)」と呼んでいる*90*91

2015年――ヒューゴー賞最終候補への影響

ということで、2013年に始まったサッド・パピーズ騒動はこういった下地のもとで続いていたわけである。2015年はそこにトラブルメーカーかつネットトロール(煽り屋)として知られるデイ本人が、ラビッド・パピーズと称する新勢力を興し、ゲーマーゲート騒動で集めた支持者を扇動したため、インターネット上では激烈な論争が巻き起こった*92

ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』原作の〈氷と炎の歌〉シリーズでいまや大御所となったジョージ・R・R・マーティン(George R. R. Martin)も、いくつものブログ記事でこの騒動に言及している*93。特にラビッド・パピーズについては「ヒューゴー賞をぶち壊し、リベラル派を怒らせ、そしてすべてのファンダムを争いに突入させる」のが目的に思えると書いた*94。また、左派寄りのマーティンだが、騒動の中でコレイアとトーガーセンに対して行われた匿名電話、誹謗中傷、悪質なメール、殺害の脅しといった行為に対しては強い懸念を表明している*95

そして4月4日、ヒューゴー賞の最終候補が発表された*96*97*98。結果、なんと最終候補全85件のうち60件ほどが両パピーズのリストにある作品で占められていたのである*99。この最終候補者のうち、望まずしてパピーズのリストに掲載された何名かは候補を辞退した*100*101*102*103。加えて長編小説部門の候補に挙がったサッド・パピーズ陣営のコレイアも、自分がいると反対派がキャンペーン全体を退けようとするだろうとして候補を辞退した*104

この直後のサッド・パピーズ陣営(特にトーガーセン)は浴びせられる数多の批判への対応に迫られたようで、いくつもの記事を出している*105*106*107*108。コレイアは「I’m not Vox Day(私はヴォックス・デイじゃない)」と題するブログ記事で「サッド・パピーズ3」にデイは参加していなかったと書き、デイの主張の数々には同意しないと述べた*109。トーガーセンもブログで「We are not Rabid Puppies(我々はラビッド・パピーズではない)」と書き、ラビッド陣営について、「We’re driving on the same freeway, but our destinations appear to be drastically different. Different cars. Different driving styles.(同じ高速道路を走っているが、目的地はまったく違う。違う車、違う運転スタイルだ)」と述べた*110。また、トーガーセンは妻がアフリカ系アメリカ人であり、自らを人種差別主義者でも性差別主義者でもないと主張している*111

サッド・パピーズのリスト掲載を承諾し、短編部門とキャンベル新人賞の最終候補に挙がった女性作家ケリイ・イングリッシュ(Kary English)はこの時期、デイと同一視されて自動的に女性差別主義者・人種差別主義者・同性愛嫌悪者などとされ、いわれのない非難を浴びせられることに対して怒りや困惑を表明していた*112*113

だが結果として、両派はひとくくりに「保守派の白人男性を中心とし、SF・ファンタジーにおける人種や性別、価値観などの多様性に反対しているグループ」と見なされてしまい、まとめて「パピーズ」と呼ばれた。そしてこの騒動を「Culture Wars(文化戦争)」などと表現するニュース記事も出た*114*115*116

このような状況のなか、ワールドコン参加登録者は本投票前に数を増やし、その多くが本投票で「該当作なし(No Award)」へ投票することで抵抗の意思を示したのである。これは、最終候補発表前後にインターネット上のSF関係者とファンの間で提案されていたパピーズへの対抗策であった*117。ワールドコンおよびヒューゴー賞を管理している世界SF協会(World Science Fiction Society;WSFS)が出しているデータによると、この年の最終的な参加登録者数は11,742人で、ワールドコン史上最大の数となった*118

2015年――「該当作なし」が続出した授賞式

そして8月。この年の8月15日からは米西部ワシントン州でのちに「オウカノガン複合火災」と呼ばれる記録的な森林火災が発生しており*119*120、その煙に覆われた同州スポケーンにおいて*121*122、19~23日に渡って第73回ワールドコン(Sasquan)が開催された*123*124。そこでは22日に各部門の受賞作が発表されたのだが、結果として全16部門中5部門が「該当作なし」となる異常事態となった*125。授賞式のプレゼンターを打診されていたコニー・ウィリス(Connie Willis)は、パピーズの活動、特にデイによるヒューゴー賞への脅迫的なコメントに抗議してこれを辞退すると4月のうちにブログで発表していたのだが*126*127、そんな彼女が登壇してスピーチをする驚きの一幕もあった。

なお、この年の長編小説部門にはケン・リュウ(Ken Liu)が英訳を担当した中国作家・劉慈欣(リウ・ツーシン)の The Three Body Problem(『三体』早川書房)が選ばれ、これが長編小説部門におけるアジア人初の受賞、かつ翻訳作品で初の受賞となった。皮肉なことに、Lines of Departure(『強行偵察 宇宙兵志願2』ハヤカワ文庫SF)が最終候補に入っていたマルコ・クロウス(Marko Kloos)が、ラビッド・パピーズのリストへの掲載を受けて最終候補から辞退した結果*128、『三体』が繰り上がって最終候補に入っていたのである(クロウスはサッド・パピーズについては問題ないとしているらしい*129*130*131

このときのワールドコン会場には日本から参加していたSF作家の藤井太洋氏もいたのだが*132*133、藤井氏は「長編部門のプレゼンテーターが『三体』の英題『スリー・ボディ・プロブレム!』と発言したとき会場は歓喜の声に満たされた」と当時の様子を書いている*134

受賞者である劉慈欣自身は一連の流れを受けて、「『パピーズ』は、ヒューゴー賞の信頼性を著しく傷つけた。今年受賞したことは幸せだが、『不運』でもあったと感じている」と環球時報(Global Times)のインタビューに語っている*135

ちなみに『三体』が繰り上がって最終候補になった後の5月時点で、ラビッド・パピーズのデイはブログで自身が投票する長編部門作品を公表しており、そこでは『三体』を1位にしていた*136。7月にはその他の部門への投票先も公表しており、そこでも長編部門で『三体』は1位のままだった*137。そしてヒューゴー賞授賞式後には「very good hard SF novel(とても良いハードSF小説)」と『三体』を評しているが*138、それと同時に、『三体』が偶然にも最終候補に上がって受賞したのは(自らの戦術的な)ミスだったとも書いている*139。このデイの姿勢が『三体』受賞にどれだけ影響を与えたのかは不明である。

なおライトは前述した劉慈欣へのインタビュー記事を読み、劉について「彼に投票した我々が非白人に対する人種嫌悪に突き動かされているということを信じてしまうほど騙されやすい」と評した。そして「我々が非白人に投票したのは、彼の本が良かったからであって、彼の肌の色が正しかったからではない。なぜなら我々はこの賞を、SF小説のストーリーテリングへの評価のためにあるかのように扱ったわけで、極左派にとって一番役立ったものに与えられる政治的な賞であるかのようには扱わなかったからだ。人種は無視した」と自らのブログで反論している*140

また、ヒューゴー賞には長編編集者部門と短編編集者部門がある。デイは2014年になぜかフィンランドで「カスタリアハウス(Castalia House)」なる出版社を立ち上げ、その主編集者でもあるのだが、彼はラビッド・パピーズのリストの両編集者部門で自らの名前を載せ、まんまと最終候補に挙がった。そもそもカスタリアハウス社から出ている作品がラビッド・パピーズのリストには多数載せられていて、キャンペーンの結果として彼は自社刊行作を最終候補に8作も送り込んでいる。

細かいことを書くと、最終候補作のうちカスタリアハウス社の作品は当初9作入っていたが、うちライトによる中編1作が、初出刊行年の問題で受賞資格無しだと判明して候補から外された*141。これにより中編部門で繰り上がったトマス・オルディ・フーヴェルト(Thomas Olde Heuvelt)の翻訳作品 ”The Day the World Turned Upside Down”(原題"De Vis in de Fles"、「天地がひっくり返った日」SFマガジン2016年6月号訳載)が、同部門で唯一パピーズが推薦しなかった最終候補作となり、結果として受賞している。

三体

三体

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2015年――アルフィー賞、木星賞、不時着賞

授賞式当日夜に開催された恒例の「ヒューゴー落選者(ルーザーズ)パーティー」にて、ジョージ・R・R・マーティンは個人的に設けた「アルフィー賞(The Alfie Awards)」という賞を、パピーズの組織票がなければ最終候補に残っていたと思われる人へ授与している*142*143*144。例えば関連作品部門で最終候補のすぐ下である6位に読書エッセイ本が挙がっていたジョー・ウォルトン(Jo Walton)、中長編小説(ノヴェラ)部門で同じく6位だったパトリック・ロスファス(Patrick Rothfuss)、短編編集者部門で同じく6位だったジョン・ジョゼフ・アダムズ(John Joseph Adams)など、そして最終候補を辞退したマルコ・クロウスやアニー・ベレット(Annie Bellet)にはアルフィー特別賞を、といった具合である。このアルフィー賞の名は第1回ヒューゴー賞長編部門受賞者のアルフレッド・ベスター(Alfred Bester)から取られている*145

そしてヒューゴー賞の授賞式後もしばらく、この騒動についての論評や論争は続いていた*146*147*148*149*150*151*152*153*154*155*156。中には公式が発表した参加者と投票の統計*157から、さまざまな分析を行うファンも出てきた*158*159*160

同年末には、ファンの匿名有志グループが「Jovian Award(木星賞)」なるものを勝手に作り、ヒューゴー賞の「該当作なし」となった部門の次点候補で不幸にも受賞できなかった面々にトロフィーを贈呈したという、ちょっとした事件があった*161*162*163*164。結局、この匿名グループの正体は不明である。

その一方、関連作品部門で次点だったケン・バーンサイドは、ヒューゴー賞のトロフィーが銀色のロケットなことから、大地に墜落してぐしゃりと曲がったロケット像を依頼して3Dプリントで作成し「Crashlander Award(不時着賞)」と名付け、自らと同様に「該当作なし」となった部門の次点候補たち――マイク・レズニック、アーラン・アンドリューズ(Arlan Andrews)、ケリイ・イングリッシュ、トニ・ウェイスコフ(Toni Weisskopf)――へ贈った*165*166*167

あるパピーの視点から

関連作品部門で最終候補となり、「該当作なし」に敗れて次点となったゲームデザイナーのケン・バーンサイドは、一連の騒動についてサッド・パピーズ側から語ったエッセイを発表している*168。タイトルは ”How the Hugos Crashed (aka ’The Diary of a Self-Deploying Human Sandbag In The Culture War’)” で、訳すなら「ヒューゴー賞がいかに壊れたか(または『文化戦争における自己展開人間サンドバッグの日記』)」というものだ。多少のツッコミどころはあるものの、全体的には冷静な語り口である。他に出す機会もなさそうなので、このエッセイの内容をかいつまんで紹介しよう。

前半はヒューゴー賞までの経緯とSF大会での体験が詳しく語られている。それによると、バーンサイドがサッド・パピーズのリスト掲載を承諾したのは、保守と自由至上主義(リバタリニズム)寄りの作家をヒューゴー賞の選考へ送るためだと言われたからで、同時に自作品の宣伝になるとも考えたからだそうだ。その時点では、まさか最終候補に入るとは考えもしなかったという。

そしてサッド・パピーズの出したリストについては、おすすめを並べただけの推奨読書リスト(recommended reading list)であり、そのままの推薦を促していたラビッド・パピーズのような組織票リスト(slate)ではないのだとバーンサイドは主張している。彼は推奨読書リストなら支持するが、組織票リストには反対だといい、基本的な筆致としてトーガーセンには同情的だが、ヴォックス・デイ及びラビッド・パピーズにはかなり批判的である。

【注:ただし、トーガーセンのブログでリストが公表された際の記事タイトルは「SAD PUPPIES 3: the 2015 Hugo slate(サッド・パピーズ3:2015年ヒューゴー賞組織票リスト)」である。後になって「推奨読書リスト」だったと主張しても、リーダー格だったトーガーセン自身が「slate(組織票リスト)」と書いているわけで、この点において説得力は落ちる。】

最終候補の発表から投票終了まで、両パピーズはインターネット上でかなり厳しい批判にさらされ続けたため、このままでは物理的に攻撃されかねないとまでバーンサイドは感じていたようだ。そしてノミネートされた関連作品部門が「該当作なし」となるのを予期しつつも、ワールドコンへの参加を決意する。大会期間中はいくつかの企画に出て、さらには自社のゲームを売るためのデモを披露していた。

続けて、ヒューゴー賞授賞式前のレセプション(歓迎会)では周囲から敬遠されがちだった話や、当の授賞式では、発表される各部門が次々と「該当作なし」になるたびに場内から歓声が上がった状況が描写されている。彼は自分のノミネートされた部門が「該当作なし」になったのは想定していたが、各部門の「該当作なし」の発表で上がるこの歓声については、無作法で無礼に感じていた。編集者部門など、他の部門には明らかに功績を認められてしかるべき候補者もいたのに、パピーズのリストに載せられていたからといってそれを一律に「該当作なし」で落としてしまってよいのかと疑問を呈している。

【注:この点については、彼以外にも同様のことを指摘している人間はいる。】

エッセイの後半では、推奨読書リストが出たらその推奨作品についてはポジティブに捉えて、誹謗中傷や、またそれに対抗しようと誹謗中傷し返すのは控えようと呼びかけている。また、あらゆるリストはバイアスがかかっているとも述べる。さらに過去15年間で、ファンダムは常にリベラルで変わっていないが、賞や候補に上がる作品は「文学的」SFに偏ってきていると書いている。同時に、それを揶揄するわけではないとも。

そして、彼の言うSFのサブジャンル「ヒロイック・エンジニア・ストーリー」、別名「コンピテンス・ポルノ」の話が出てくる。優れた適性をもって困難な任務をこなす有能キャラクター(達)が主役となる作品のことで、 Analog 誌や Baen Books 社から出ている作品に多いとされる。文学的なキャラクターの掘り下げではなく、話における問題解決に重点を置いた作品で、良くも悪くもパルプ雑誌時代から続くひとつの潮流だ。このサブジャンルが売上を伸ばしていて、その読者は主に男性で、傾向としては保守寄りだと指摘する。そしてこういった作品はヒューゴー賞にほとんど挙がらない。そして彼は2015年の『三体』受賞について、「この手の作品にとっては久々なのだ」という旨を書いている。

【注:コンピテンス・ポルノというのは、近年ではたとえばデニス・E・テイラー〈われらはレギオン〉シリーズ(ハヤカワ文庫SF)や、2016年のキャンベル新人賞受賞作で映画化もされたアンディ・ウィアー『火星の人』(ハヤカワ文庫SF)のような作品と言えば分かりやすいだろうか。そして個人的見解だが『三体』の内容がこのサブジャンルに該当するかというと、いささか迷ってしまう……。】

また、SF情報誌 Locus が公表している毎年の推薦読書リストでは、大衆向けSF作品を多数出している Baen Books 社の作品がほとんど挙がらない傾向があるといった、SFにおける文学的な分断について述べている。陰謀などありえないが不均衡はあり、こういった不均衡に立ち向かうのがパピーズになった理由だと書いている。

それから組織票の防止対策に触れた後、作品の質よりも政治が優先されたことに関連して、その作品を読まずに「該当作なし」へ投票した人々は、パピーズのリーダーたちを懲らしめたと思っていたのかもしれないが、実際は候補者(彼曰く「人間サンドバッグ」)を虐げていたのだと綴っている。

事件に対する評など

さて、肝心のデイであるが、授賞式前になされたWired.comのインタビューに「I love chaos(混沌が大好きだ)」「I wanted to leave a big smoking hole where the Hugo Awards were(ヒューゴー賞がある場所にでかい煙穴を残したかった〔=焦土と化したかった〕のさ)」と話しており、記事内で「オタクの中には、世界が燃えるのを見たいだけの輩もいるのだ」と評されている*169*170

邦訳版『三体』翻訳者のひとりでもある大森望氏は、「二十世紀のワールドコンはおおむね白人のものだったんですよね。黒人やヒスパニックやアジア系はほとんど見かけなかった。彼らが仲間に投票するからヒューゴー賞受賞者も白人の男性が中心だったのに、どんどん女性やエスニックマイノリティの受賞が増えてきたので、保守派が逆の運動をはじめた」と藤井太洋氏とのトークイベントで語っている*171

エッセイストで洋書レビュアーの渡辺由佳里氏は、この事件について述べたブログ記事で、「アメリカには、現代社会に定着しつつある多様性やリベラルな姿勢に被害者意識を持つ白人男性がけっこういる。彼らは、女性や肌の色が異なる人種や同性愛者が自分たちにとって安泰だった世界を壊していくことへの鬱憤をためている。パピーズは、そんな読者にターゲットを絞り、ネットで情熱的なキャンペーンを繰り広げた」と分析している*172

その後のヒューゴー賞

その後についても書いておこう。ラビッド・パピーズのデイは「continue to liberate a literary genre from the small collection of creepy left-wing monsters, rape enthusiasts, and social justice warriors who have made it their home for decades.(何十年間もそこに巣食ってきた、キモい左翼モンスター、レイプ狂、社会正義闘士によるちっぽけなコレクションから文学ジャンルを解放し続ける)」と述べ*173、翌年も候補作リストを発表して活動を継続した*174

一方のサッド・パピーズは、サラ・A・ホイト、アマンダ・S・グリーン(Amanda S. Green)、ケイト・ポーク(Kate Paulk)の3人が新たなリーダーとなり「サッド・パピーズ4(Sad Puppies 4)」として活動を続けたが、専用サイトにて可視化する形で候補作品を一般から募る方式へと移り、思想的な対立志向は影を潜めた*175*176*177*178*179

とはいえやはり前年から続いて問題は多く*180、一例としては、両パピーズのリストに中長編小説(ノヴェラ)作品が載ってしまった英国のSF作家アレステア・レナルズ(Alastair Reynolds)が、リストから外すよう要求するものの無視されるということも起こっている*181*182

最終的に2016年ヒューゴー賞では、関連作品部門とファンキャスト部門(音声・動画形式のファンジンが対象となる)の2部門が「該当作なし」となったが、それ以外の部門ではパピーズの影響があまり及ばなかったとされている*183*184*185。この年は長編部門がN・K・ジェミシンの The Fifth Season (『第五の季節』創元SF文庫)に決まり、彼女は黒人初のヒューゴー賞受賞者となった。そして中編小説部門では、またもやケン・リュウが英訳した、中国若手女性作家の郝景芳(ハオ・ジンファン)による "Folding Beijing"(原題「北京折叠」、邦題「折りたたみ北京」または「北京 折りたたみの都市」)が受賞している。

2017年以降は、投票システムに組織票対策が取り入れられたり*186、パピーズ陣営の勢いも低下したりしたため、比較的落ち着いた状況となっているようだ。ラビッド・パピーズは相変わらずのようだが*187。なお、ジェミシンは2017年に The Obelisk Gate、2018年に The Stone Sky が受賞したことで、史上初の長編部門3年連続受賞を成し遂げている(The Fifth Season も含めたこれらは合わせて三部作を成す)*188

ドラゴン賞

ヒューゴー賞からは外れるが、毎年アメリカのジョージア州アトランタで開催されるポップカルチャーの祭典「ドラゴン・コン」が2016年に「ドラゴン賞」を創設した*189*190。これはEメールアドレスを登録すれば誰でもオンライン投票できる賞である。パピーゲート事件の影響で、パピーズ陣営とされる個人出版や大衆系作家の支持者がこの賞へ流れたためか*191*192*193、それらの作品が多くノミネートされ*194*195、2016年の最優秀SF小説部門はライトのカスタリアハウス刊行作、最優秀ファンタジー小説部門はコレイアの作品が受賞している*196。このドラゴン賞は投票数やその内訳を公表しておらず、プロセスが不透明だと批判されている。さらに当初は候補となった作家による辞退を認めなかったため*197*198、2017年には候補に挙がったジェミシンが辞退し*199、スコルジーも一度は候補を辞退した後にそれを撤回するなどの騒ぎが生じた*200*201*202*203

コミックスゲートとデイ

そして、2017年頃からはアメリカン・コミックス業界においても多様性を否定する「コミックスゲート」騒動が発生している*204。コミック出版も手掛けているデイは、このコミックスゲートに賛同するクリエーターの作品を発表するための新レーベル「コミックスゲート・コミックス」を立ち上げると発表し、そのロゴでは「100% SJW-FREE(完全にSJW抜き)」を謳っていた*205。しかしこれで取り込もうとした陣営から逆に「コミックスゲート」という名称を独占しようとする行為だと受け止められて非難され、当初の思惑が外れたためか、この構想は実現していない*206*207*208*209

キャンベル新人賞の改名

さらに2019年8月には、ジョン・W・キャンベル新人賞を受賞したジャネット・ン(Jeannette Ng)が、ワールドコンの受賞スピーチでキャンベルを「ファシスト」であると批判したため議論が起こった*210*211*212*213。数多くの作家を発掘し、かつてSFの黄金時代を築いた名編集者として知られるジョン・W・キャンベルJr.(John W. Campbell Jr.)だが、人種差別主義的言動なども伝えられていた*214。結果、この賞を主催する Analog 誌は、賞の名前を「アスタウンディング賞」へと変更する旨を発表した*215*216。(以下追記)翌2020年には、このきっかけとなったジャネット・ンによる「2019年ジョン・W・キャンベル新人賞受賞スピーチ」がなんとヒューゴー賞の関連作品部門を受賞するに至っている*217

おわりに――SFF読者と作家の男女比など

自分は普段から英語圏のSF業界情報を追っているわけでもないので、パピーゲート事件について調べ始めたものの、全体像を把握するために抑えるべき事柄があまりにも多すぎて困惑した。そして一番つらかったのは、調べていても全然楽しくならないということだった。

ちなみに、アメリカではこの手の「陰謀」にはウォーターゲート事件からもじった名称が付けられやすく、各騒動が「~ゲート」と呼ばれているのはそこから来ている。

ところで、ふと多様性という観点から一連の騒動に関連しているかもしれないと思い、英語圏におけるSF・ファンタジー(まとめて「SFF」と呼ばれる)読者の性別比について、いくつかの調査結果を読んでみた。すると、確かに半世紀前は男性が9割を占めていたものの、時代を経るにつれて女性の割合が上昇、現在では男女がほぼ半々に近づいてきており、男性の方がやや多い程度、というのが実情のようである*218*219。たとえばオンライン雑誌の Lightspeed による読者データでは、男女でおおよそ6対4という割合だった(この調査では性別に男女だけでなくトランスジェンダーやジェンダークィアという選択項目もあってとてもよい)*220。もちろんSFFのサブジャンルごとにかなり違いがあると思われ、ファンタジーよりもSFの方が男女比の偏りが大きい(男性が多い)という記事もある*221

興味深いことに、英国のSF作家チャールズ・ストロス(Charles Stross)は2019年のツイートで「SFの最もマッチョな男性優位のサブジャンル(ミリタリーSFなど)でさえ、35〜45%は女性が読者だ」と述べている*222*223。これは典拠が不明なので確かなことは言えないが、現役作家が数字を出して語っているので、販売データなどから把握できている現実的な情報である可能性が高い。

英語圏における作家側の男女比についても触れておく。出版されている作品のうちジャンルSFのみに限定すると男性作家の作品が7割というデータがあったが、ただし広義のSFまで含めると男女比は6対4程度となり、ジャンルの混合領域では男女比の偏りが小さくなっているようだ。なお、Strange Horizons 誌では女性作家の方が男性作家よりも多く掲載されており、逆に Analog 誌では男性作家の方が多いといった具合に、雑誌によって全く異なる傾向があるらしい*224。さらに、賞を獲得するのは男性作家の方が女性作家よりも傾向としては多いというデータもあった*225。他にも、たとえばSF雑誌における書評家は男性が圧倒的で、取り上げられるものも女性作家より男性作家の作品が多く、また有色人種の作家の作品は少ないことが指摘されていたが、これらの傾向は緩やかに改善されつつあるという*226

このあたりは面白そうなのだが、深堀りするとまた長くなりそうな話である。個人的な意見としては、そもそも性別や人種で分けること自体がもはやナンセンスであると思っている。ただ、パピーズが喧伝していたように、もしも受け入れられる作品や受賞する作品の傾向が昔と変わってきているというのが本当なのであれば、その背景にはこういった、業界全体における多様性の増加という要素が絡んでいる可能性は大きいのかもしれない。それらを端的にまとめるなら「時代の変化」だとしか言いようがないだろう。

謝辞

最後に、この文章全体をチェックしていただいた橋本輝幸氏(@biotit / @rikka_zine)に感謝いたします。もしも内容について事実誤認や間違い等がありましたら、すべて筆者の責に帰するものです。何かあった場合はご連絡いただけると幸いです。

注釈に載せた以外の参照先

追記1

2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ニュージーランドで開催予定だったワールドコン「CoNZealand」がオンライン開催となった。そしてそのヒューゴー賞授賞式で司会を務めたジョージ・R・R・マーティンが失態を演じるという出来事があった*227*228*229。このマーティンの言動を批判したナタリー・ラーズ(Natalie Luhrs)によるWeb記事が、その後2021年ヒューゴー賞関連作品部門で最終候補作となった*230*231

ヒューゴー賞授賞式の司会を務めたジョージ・R・R・マーティンは数々のヒューゴー賞受賞者や候補者に言及するよりも長い時間を人種差別主義者として知られるジョン・W・キャンベルに言及することに費やした。またジョージ・R・R・マーティンは受賞者や候補者の紹介に当たって、黒人や有色人種の名前のみを繰り返し間違えた。候補者は事前に名前の発音を提出することを求められているため、ジョージ・R・R・マーティンが有色人種のみこの情報を確認しなかったことは確かである。『FIYAH』の発音を誤り、トランス嫌悪発言も繰り返された。

L.D.ルイスの活躍—嵐のなかの港、消えることのない火— |VG+ (バゴプラ)

追記2

2021年にオーストラリアのSFファンライターであるキャメストロス・フェラプトン(Camestros Felapton)が*232*233、パピーゲート事件の前史~後史を含んだ Debarkle というノンフィクションを公表しており、以下より全文が公開されている。元々はブログに発表された一連の記事をまとめたもので、電子書籍となったものが2022年ヒューゴー賞関連作品部門の最終候補作となった*234。なおタイトルは造語だが、「barkle」が bark + circle で「(特に犬が)旋回しながら吠えること」を指すらしく(barkは無論パピーズを指す)、それに否定や脱却を意味する接頭辞の「de-」を付けたのだと思われる。


最終更新日:2024-01-29

*1:http://naruniwa.hatenadiary.jp/entry/2015/06/08/035717

*2:http://wanzee.seesaa.net/article/424761201.html

*3:https://youshofanclub.com/2015/09/06/hugo-sad-puppies/

*4:巽孝之「煙が目にしみる――第73回世界SF大会サスコン報告」『SFマガジン』2015年12月号, 早川書房, pp. 302-308.

*5:https://virtualgorillaplus.com/nobel/the-hugo-awards-puppygate/

*6:https://realsound.jp/book/2019/09/post-421244.html

*7:藤井太洋「ルポ『三体』が変えた中国」『文藝』2020年春号, 河出書房新社, pp. 78-84.

*8:http://www.sf-fan.gr.jp/awards/index.html

*9:https://shimirubon.jp/columns/1681186

*10:https://shimirubon.jp/columns/1696129

*11:https://larrycorreia.wordpress.com/2013/01/08/how-to-get-correia-nominated-for-a-hugo/

*12:https://larrycorreia.wordpress.com/2013/01/16/how-to-get-correia-nominated-for-a-hugo-part-2-a-very-special-message/

*13:https://larrycorreia.wordpress.com/2013/01/23/how-to-get-correia-nominated-for-a-hugo-part-3-wont-somebody-please-think-of-the-children/

*14:https://larrycorreia.wordpress.com/2013/01/30/how-to-get-correia-nominated-for-a-hugo-part-4-ten-ways-im-different-than-stephen-king-and-thus-deserve-a-hugo-nomination/

*15:http://www.thehugoawards.org/hugo-history/2013-hugo-awards/

*16:https://larrycorreia.wordpress.com/2013/04/01/the-sad-puppies-hugo-campaign-sorta-successful-for-everybody-but-me/

*17:https://en.wikipedia.org/wiki/SMOF

*18:https://listsmgt.sflovers.org/mailman/listinfo/smofs

*19:https://larrycorreia.wordpress.com/2014/01/14/sad-puppies-2-the-illustrated-edition/

*20:https://larrycorreia.wordpress.com/2014/03/25/my-hugo-slate/

*21:https://voxday.blogspot.com/2014/03/the-sad-puppy-hugo-slate.html

*22:http://file770.com/somewhere-puppies-are-smiling/

*23:ブラッド・R・トージャーセン「アウトバウンド」”Outbound”『SFマガジン』2012年3月号, 早川書房, pp.61-91.

*24:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2014/04/24/fear-and-loathing-at-the-awards-table-3/

*25:https://farbeyondreality.com/2014/04/19/2014-hugo-nominations-the-reactions/

*26:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2014/04/28/larry-correia-deserves-a-break/

*27:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2014/04/29/fear-and-loathing-at-the-awards-table-4/

*28:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2014/08/21/fear-and-loathing-at-the-awards-table-5-sad-puppies-2-post-mortem/

*29:https://larrycorreia.wordpress.com/2014/04/24/an-explanation-about-the-hugo-awards-controversy/

*30:http://www.thehugoawards.org/hugo-history/2014-hugo-awards/

*31:https://larrycorreia.wordpress.com/2014/11/10/sjw-cannibal-feeding-frenzy/

*32:https://larrycorreia.wordpress.com/2014/11/14/why-i-dont-like-social-justice-warriors/

*33:http://www.scifiwright.com/2014/06/the-evil-league-of-evil-is-given-pious-advice/

*34:http://www.scifiwright.com/2014/06/united-underworld-literary-movement-manifesto/

*35:https://accordingtohoyt.com/2014/08/03/friendly-fire-in-the-science-fiction-wars/

*36:http://www.scifiwright.com/2014/04/an-open-letter-to-the-science-fiction-writers-of-america/

*37:http://www.scifiwright.com/2014/04/an-open-letter-to-the-science-fiction-writers-of-america/comment-page-1/#comment-2691562328

*38:http://file770.com/wright-quits-sfwa-torgersen-to-follow/

*39:http://eatourbrains.com/steve/?p=1219

*40:http://www.scifiwright.com/2003/12/total-conversion/

*41:https://strangenotions.com/wright-conversion/

*42:http://www.scifiwright.com/2011/09/a-question-i-never-tire-of-answering/

*43:http://www.scifiwright.com/2012/06/the-disabled-hardly-even-mentioned/

*44:https://web.archive.org/web/20141229160245/http:/www.scifiwright.com/2014/12/the-perversion-of-a-legend/

*45:http://www.jimchines.com/2014/12/john-wright-legend-of-korra/

*46:https://failfandomanon.fandom.com/wiki/John_C_Wright

*47:http://www.scifiwright.com/2013/11/saving-science-fiction-from-strong-female-characters-part-1/

*48:https://katsudon.net/?p=2477

*49:https://web.archive.org/web/20161226075056/http:/www.scifiwright.com/xabout/transhuman-and-subhuman/#_Toc384557552

*50:https://johncwright.livejournal.com/38983.html

*51:http://www.scifiwright.com/2009/11/book-review-story-of-your-life-and-others-by-ted-chiang/

*52:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/01/07/announcing-sad-puppies-3/

*53:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/01/16/why-sad-puppies-3-is-going-to-destroy-science-fiction/

*54:https://larrycorreia.wordpress.com/2015/01/26/sad-puppies-3-the-ensaddening/

*55:https://accordingtohoyt.com/2015/01/27/puppy-sadness-has-a-cure/

*56:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/02/01/sad-puppies-3-the-2015-hugo-slate/

*57:https://larrycorreia.wordpress.com/2015/02/02/sad-puppies-3-the-slatening/

*58:https://naomikritzer.com/2015/04/13/vox-days-involvement-in-the-sad-puppies-slate/

*59:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/03/30/former-tor-editor-still-longs-to-gatekeep-the-field/

*60:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/03/31/chorf-its-a-word-now/

*61:https://voxday.blogspot.com/2015/02/rabid-puppies-2015.html

*62:https://en.wikipedia.org/wiki/Vox_Day

*63:http://voxday.blogspot.com/2016/05/the-milright-is-inevitable.html

*64:https://www.wnd.com/2005/08/31677/

*65:https://www.adl.org/resources/backgrounders/from-alt-right-to-alt-lite-naming-the-hate

*66:https://rationalwiki.org/wiki/Theodore_Beale

*67:https://failfandomanon.fandom.com/wiki/Vox_Day

*68:https://web.archive.org/web/20150515164244/http://www.wsj.com/articles/the-culture-wars-invade-science-fiction-1431707195

*69:http://sfwa.org/bulletin-index/t18.htm

*70:))、200号では倒れた巨人にまたがるビキニアーマーの女戦士の画が表紙を飾っていた((https://web.archive.org/web/20130610000312/http://silviamoreno-garcia.com/blog/2013/05/oh-sfwa/

*71:https://web.archive.org/web/20131009214752/http:/www.cheryl-morgan.com/?p=15788

*72:http://ecatherine.com/dear-sfwa/

*73:https://web.archive.org/web/20130610013458/http://radishreviews.com/2013/05/31/linkspam-53113-edition/

*74:https://web.archive.org/web/20130925095031/http:/www.jasonsanford.com/jason/2013/05/feeling-heat-for-your-ideas-is-not-censorship.html

*75:http://www.sfwa.org/2013/06/presidential-statement-on-the-sfwa-bulletin/

*76:https://io9.gizmodo.com/the-editor-of-sfwas-bulletin-resigns-over-sexist-artic-511752239

*77:http://voxday.blogspot.com/2013/06/seriously-fascist-womens-association.html

*78:https://theodoresezdonotreadthese.tumblr.com/post/53009185635/theo-ignores-seriously-fascist-womens-association

*79:http://nkjemisin.com/2013/06/continuum-goh-speech/

*80:https://voxday.blogspot.com/2013/06/a-black-female-fantasist.html

*81:https://amalelmohtar.com/2013/06/13/calling-for-the-expulsion-of-theodore-beale-from-sfwa/

*82:http://www.jimchines.com/2013/06/racist-takes-dump-in-sfwa-twitter-stream-news-at-11/

*83:http://file770.com/sfwa-discipline/

*84:http://voxday.blogspot.com/2013/08/the-sfwa-board-decides.html

*85:http://voxday.blogspot.com/2013/08/on-advice-of-counsel.html

*86:http://www.sfwa.org/2013/08/board-communication-on-member-expulsion/

*87:https://locusmag.com/2013/08/beale-expelled-from-sfwa/

*88:http://nkjemisin.com/2013/08/time-to-pick-a-side/

*89:http://corabuhlert.com/2013/08/16/sfwa-drama-comes-to-a-conclusion/

*90:https://whatever.scalzi.com/2013/02/02/solving-my-racist-sexist-homophobic-dipshit-problem/

*91:https://www.theguardian.com/books/2013/feb/05/trolls-prompt-author-charity-donation

*92:http://file770.com/the-compleat-litter-of-puppy-roundup-titles/

*93:https://grrm.livejournal.com/418285.html

*94:https://grrm.livejournal.com/422311.html

*95:https://grrm.livejournal.com/419232.html

*96:http://www.thehugoawards.org/2015/04/2015-hugo-award-finalists-announced/

*97:https://www.tor.com/2015/04/04/2015-hugo-award-nominees/

*98:http://sasquan.org/hugo-awards/nominations/

*99:http://file770.com/entering-the-lists-2/

*100:http://file770.com/how-many-sad-puppies-declined-a-hugo/

*101:http://file770.com/two-hugo-nominees-withdraw-their-stories/

*102:http://www.thehugoawards.org/2015/04/black-gate-announces-withdrawal-hugo-ballot-frozen/

*103:http://www.thehugoawards.org/2015/04/edmund-schubert-withdraws-from-2015-hugo-awards/

*104:http://monsterhunternation.com/2015/04/04/sad-puppies-update-the-nominees-announced-and-why-i-refused-my-nomination/

*105:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/05/peasants/

*106:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/09/vox-plays-chicken-with-worldcon/

*107:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/13/unpersoning/

*108:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/14/tribalism-is-as-tribalism-does/

*109:http://monsterhunternation.com/2015/04/16/im-not-vox-day/

*110:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/16/we-are-not-rabid/

*111:https://bradrtorgersen.wordpress.com/2015/04/07/fort-living-room/

*112:http://karyenglish.com/2015/04/the-disavowal/

*113:http://karyenglish.com/2015/04/on-anger-power-and-displacement-in-the-hugos-part-one-of-possibly-several/

*114:https://www.popsci.com/culture-wars-raging-within-science-fiction-fandom/

*115:https://newrepublic.com/article/121554/2015-hugo-awards-and-history-science-fiction-culture-wars

*116:https://www.wsj.com/articles/the-culture-wars-invade-science-fiction-1431707195

*117:https://amazingstories.com/2015/04/ill-casting-final-hugo-vote/

*118:http://smofinfo.com/wsfs/Numbers/WorldconMembershipSizeDetails.xls via http://smofinfo.com/

*119:https://en.wikipedia.org/wiki/Okanogan_Complex_Fire

*120:https://www.afpbb.com/articles/-/3058293

*121:https://twitter.com/t_trace/status/634845892206419968

*122:https://twitter.com/t_trace/status/634944015847178240

*123:https://en.wikipedia.org/wiki/73rd_World_Science_Fiction_Convention

*124:http://sasquan.org/program/schedule/

*125:http://www.thehugoawards.org/2015/08/2014-hugo-award-winners-announced/

*126:http://azsf.net/cwblog/?p=116

*127:http://file770.com/all-the-colors-of-kibble-48/comment-page-1/#comment-250236

*128:https://www.markokloos.com/?p=1387

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