ダイソン球についての誤解とその広がり

はじめに

2015年に連星系KIC 8462852に関するニュースが話題となり、ダイソン球という用語をあちこちで目にした。

当時、このニュースに対する反応を色々と眺めながら、ダイソン球のイメージが当初からは異なった形で広まってしまっているのを実感したが、そもそもダイソン球の起源についての詳細な解説がWebに存在しないことも分かったので、改めて色々と調べた結果を記事にしておくことにする。

ダイソン球とは何か

人類を含む地球上の生命が利用しているエネルギーは、元をたどれば地球に降り注ぐ太陽エネルギーである(化石燃料も過去の太陽エネルギーの蓄積と考えられる)。しかし太陽は全方位にエネルギーを放射し続けており、地球に降り注ぐのはそのごくわずか。人類が利用できる量はさらにその一部となる。

そこで、もしも高度な宇宙文明が存在したら、彼らの恒星を取り囲んで、その全放射エネルギーを無駄なく利用するのではないだろうか。さらにそのような文明は最終的に廃熱を宇宙空間へ捨てているはずなので、その赤外線放射を観測すれば彼らの存在を確認できるだろう――と1960年にフリーマン・J・ダイソンが主張した。この構想から生まれた構造物を、彼の名を取って「ダイソン球(Dyson sphere)」と呼ぶ。この気宇壮大なアイデアはのちに多くの宇宙SFで使われたため、現在ではお馴染みのSFガジェットとなっている。

ひとつながりの球殻構造物という誤解

――と、まあここまではよく解説される話だが、おそらく多くの人はダイソン球について、一体となって恒星を完全に覆う堅固な球殻構造物をイメージしているのではないかと思う。ちなみに1992年のTVドラマ『新スタートレック』第130話「エンタープライズの面影(原題:Relics)」ではまさにそのように映像化されており、英語圏でもこのイメージが根付いていることが伺える。




しかし、そもそも提唱者のダイソンが想定していたのはこのような構造物ではなく、現在広まっている概念は誤解の産物なのだが、意外にもSFファンや宇宙ファンにすらあまり知られていない。では、どんな構造物だったのだろうか。

ダイソンの論文

まずはダイソンの論文を読んでみよう。題を訳すなら「赤外線放射による人工天体源の探索」か。誌面では1ページ強の短い論文である。

  • Dyson, Freeman J. "Search for Artificial Stellar Sources of Infrared Radiation." Science 131.3414 (1960): 1667-1668.

歴史的な前提知識として、SETI地球外知的生命探査)の始まりとされる、ジュゼッペ・コッコーニフィリップ・モリソンによる星間交信電波探索の可能性を示した論文が発表されたのが前年の1959年、そしてフランク・ドレイクオズマ計画を実施したのが1960年の春であることを記しておく。

以下、和訳にミスがあればご指摘を。最初にアブストラクト(要旨)。

If extraterrestrial intelligent beings exist and have reached a high level of technical development, one by-product of their energy metabolism is likely to be the large-scale conversion of starlight into far-infrared radiation. It is proposed that a search for sources of infrared radiation should accompany the recently initiated search for interstellar radio communications.

もし地球外知的生命が存在し、高い技術開発レベルに達しているならば、そのエネルギー代謝の副産物のひとつとして、星の光を大規模に変換した遠赤外線を放射している可能性が高い。このことから、最近始まった星間電波通信の探索と共に、赤外線放射源の探索も行うべきだと提案する。

続く本文でダイソンはまずコッコーニとモリソンの提案を挙げ、数百万年間も存続する地球外生物が人類を何桁をも上回る技術レベルに達しているなら、その生息地はマルサスの人口の原理から導かれる限界まで拡張されているだろうとする。そしてモデルとして太陽系における場合について、物質供給とエネルギー供給の面から考察している。

At present the material resources being exploited by the human species are roughly limited to the biosphere of the earth, a mass of the order of 5 × 1019 grams. Our present energy supply may be generously estimated at 1020 ergs per second. The quantities of matter and energy which might conceivably become accessible to us within the solar system are 2 × 1030 grams (the mass of Jupiter) and 4 × 1033 ergs per second (the total energy output of the sun).

現在、人類が利用する材料資源は地球生物圏にほぼ限定されており、およそ5 × 1019グラムの質量である。われわれの現在のエネルギー供給量は、多めに見積もって毎秒1020エルグと推定できる。おそらく太陽系内でわれわれが利用できるであろう物質とエネルギーの量は、2 × 1030グラム(木星質量)と毎秒4 × 1033エルグ(太陽の総エネルギー出力)だろう。

同時に、その根拠を述べている。

First of all, the time required for an expansion of population and industry by a factor of 1012 is quite short, say 3000 years if an average growth rate of 1 percent per year is maintained. Second, the energy required to disassemble and rearrange a planet the size of Jupiter is about 1044 ergs, equal to the energy radiated by the sun in 800 years. Third, the mass of Jupiter, if distributed in a spherical shell revolving around the sun at twice the Earth's distance from it, would have a thickness such that the mass is 200 grams per square centimeter of surface area (2 to 3 meters, depending on the density). A shell of this thickness could be made comfortably habitable, and could contain all the machinery required for exploiting the solar radiation falling onto it from the inside.

第一に、人口や工業を1012倍拡大するのに必要な時間は非常に短く、年1パーセントの平均成長率が維持されるなら3000年とされる。第二に、木星大の惑星を分解して再配置するのに必要なエネルギーは、800年間分の太陽放射エネルギーにほぼ等しい1044エルグである。第三に、太陽-地球距離の2倍の位置にて、太陽の周りを回転する球殻状に木星の質量を配置した場合、表面積1平方センチメートルあたりの質量が200グラムとなる厚さになるだろう(厚さは密度に応じて2-3メートル)。この厚みの殻なら快適に居住でき、内側から当たる日射の利用に必要となる全機構を内包できる。

さらにこういう記述があることも覚えておいてほしい。

One should expect that, within a few thousand years of its entering the stage of industrial development, any intelligent species should be found occupying an artificial biosphere which completely surrounds its parent star.

ここからひとつ期待すべきなのは、工業発展の段階に入ってから数千年以内に、その親星を完全に囲んだ人工生物圏を占める知的種族が発見されるはずだ。

そして、そういった生息地として最も可能性が高いのは、表面温度が200~300Kの地球軌道ほどもある暗い物体であり、これはその内部の恒星と同程度の放射をしているが、波長は約10ミクロン(=マイクロメートル)の遠赤外線域になるという。地球の大気の窓はこの波長域に対して開いており、地上の望遠鏡で観測可能なため、赤外線点光源を探索すべきだと提案している。最後に、放射エネルギーの全てまでは利用していない場合や、多重星の中のある星だけに人工生物圏が存在する可能性についても触れている。

さて、問題の形状についてだが、この中でダイソン自身は「an artificial biosphere which completely surrounds its parent star(その親星を完全に囲んだ人工生物圏)」と書いている。「biosphere(生物圏)」であって 「sphere(球)」ではない。全文を確認してみると、実はこの論文では構造物の形状や数について何も触れられておらず、「sphere」という単語も出てこない。ただ唯一、「distributed in a spherical shell revolving around the sun(太陽の周りを回転する球殻状に配置)」の箇所で「spherical shell」と表現している。

忘れ去られたダイソンの補足

ダイソン論文が掲載された翌月、Science 誌は論文に反応してきた3通の手紙と、さらにそれらに対するダイソンの返事を載せている。注目すべきは、このとき寄せられた手紙には明らかに「ひとつながりの球殻構造物」を想定した上での物理的なツッコミが記されている点である。剪断力、回転応力や重力応力を考えると無理だろうという話や、トーラス形状も考えたけどこれも安定ではないという話などである。もちろん前述したように、元論文では構造物の形状や数について何も触れられていなかったのだが、勝手に誤解した想像をしてしまった読者がいたという証左であろう。

そして、これらの手紙に対するダイソン本人からの返信の中で、形状について言及している箇所があるので抜粋する。

1) A solid shell or ring surrounding a star is mechanically impossible. The form of “biosphere” which I envisaged consists of a loose collection or swarm of objects traveling on independent orbits around the star. The size and shape of the individual objects would be chosen to suit the convenience of the inhabitants. I did not indulge in speculations concerning the constructional details of the biosphere, since the expected emission of infrared radiation is independent of such details.

1) 星を取り巻く固い殻やリングは、機械的に不可能である。私が想定していた「生物圏」の形状は、星の周りの独立した軌道を巡る物体の、緩やかなまとまり、または群れから構成される。個々の物体のサイズおよび形状は、居住者の利便性に合うように選ばれるだろう。私が生物圏の構造的な詳細に関する憶測に入れこまなかったのは、赤外線の予想排出量がそういった詳細に依存しないからである。
Dyson, F. J., Maddox, J., Anderson, P., and Sloane, E. A. "Artificial Biosphere (Letters)." Science 132.3421 (1960): 250-253.

ここから、現在世間に広まっている「ダイソン球」のイメージとは少し違う構造物であることが明確にわかる。おそらく最初の論文に「球殻状」「完全に囲んだ」とあったため、恒星を覆い尽くす巨大な球体の姿を皆が思い浮かべてしまったのだろう。そして木星質量を半径2天文単位の球殻状に配置するというくだりも、あくまで参考用にまんべんなく星を覆った場合の厚みを概算で把握するためで、そのままの構造で建造することは考えていなかったのではないだろうか。加えて、論文自体は広く知られても、少し後に掲載されたこの補足まで把握した人は多くなかったと思われる。

ところで、実は手紙を送ってきた中に、主に経済的な面からのツッコミを入れている Poul Anderson という人物がいるのだが、これは『タイム・パトロール』や『タウ・ゼロ』で知られるSF作家のポール・アンダースンである。

近年の記事

次に、スカラーペディア(専門家が執筆する査読付きオンライン事典)にあるダイソン球の記事(2009年)を読んでみよう。

"A shell of this thickness", he wrote, "could be made comfortably habitable, and could contain all the machinery required for exploiting the solar radiation falling onto it from the inside". This remark gave to readers the misleading impression that the habitat of an alien civilization would be a big round ball with a star at the center. Various science-fiction writers adopted this notion of a big round ball inhabited by aliens and gave it the name "Dyson Sphere". Dyson used the phrase "artificial biosphere" to describe the habitat of an alien civilization. He was well aware that the artificial biosphere could not be a big round ball. A big round ball, whether rotating or not, would be mechanically too weak to support its own weight against the gravity of the star. He imagined the artificial biosphere to be a cloud of inhabited objects orbiting a star, surrounding the star densely enough to absorb all the starlight, but with the orbits carefully arranged so as to avoid collisions.

「この厚みの殻なら」と彼は書いた。「快適に居住でき、内側から当たる日射の利用に必要となる全機構を内包できる」と。この記述が読者に与えたのは、異星文明の生息地がその中心に星をもつ大きな丸いボールになるという誤った印象である。さまざまなSF作家が、異星人の住む大きな丸いボールにこの概念を採用して「ダイソン球」と名付けた。異星文明の生息地を記述するのにダイソンは「人工生物圏」という語を使っている。彼は人工生物圏が大きな丸いボールになれないことをよく理解していた。大きな丸いボールでは、回転していようがいまいが、星の重力に逆らって自重を支持するには機械的に弱すぎるだろう。彼が想像した人工生物圏は星を周回する無数の居住物体で、すべての光を吸収するのに十分な密度で星を取り囲み、その軌道は衝突を避けるよう慎重に配置されているというものである。

Freeman J. Dyson and Richard Carrigan (2009) Dyson sphere. Scholarpedia, 4(5):6647.

この記事の著者はダイソンとなっているが、履歴を見ると実際に書いたのは共著者の Carrigan で、ダイソン本人は記事立項直後に招待を受けているだけだ。しかし自分の名で出されている学術的な記事に事実誤認があれば訂正を入れないはずもないので、やはり本人からするとこの記事の認識は大きく間違っていないのだろう。

ダイソンのインタビュー動画

そして極めつけ、ダイソン本人がダイソン球について語っている動画がある。ジャーナリストのロバート・ライトによるダイソンへのインタビュー動画で、ダイソン球の話は21:07頃から。このインタビュー動画の初出はおそらくGoogle Video 2001年6月30日で、動画内でもダイソン本人が上記の論文を発表した時期について「40年前のこと」だと言っているので、インタビュー時期は2000年頃と思われる。

動画はYouTubeにも分割されて上がっており、こちらだとダイソン球の話は1:05頃から。


Well, it was really a joke which is completely misunderstood, but anyway what really happened was 40 years ago, I published a one-page note in the Journal of Science, which was called, “Search for Artificial Sources of Infrared Radiation”. The idea was that, you might have intelligent people in the sky or intelligent creatures who are actually pursuing a vigorous life but won’t interested in communicating. We had just a year before that, Frank Drake had started listening for radio signals from aliens and that was fine as long as the aliens were trying to communicate. But it occurred to me that you might want to detect aliens, even if they were not communicating and there was a way to do it and that would be to look for infrared radiation, which is essentially waste heat. So if there is a society who has suffered a population explosion and is growing very large or has just a very highly developed industry, it is compelled by the laws of thermodynamics to get rid of the waste heat. You can't exist without getting rid of waste heat and that has to be radiated into space. So you will see that heat radiation was infrared. So I suggested that people actually start looking in the sky with infrared telescopes as well as radio telescopes, so that was the proposal. But unfortunately, I added to the end of that the remark that, what we are looking for is an artificial biosphere, meaning by biosphere just a habitat that something that could be in orbit around the neighboring star where the aliens might be living. And so the word biosphere didn't imply any particular shape; however, the science fiction writers then got hold of this and imagined that biosphere means a “sphere”, it has to be some big round ball and so out of that, they came with these weird notions which ended up on Star Trek.

まあ、それは実のところ完全に誤解された冗談なのですが、とにかく実際に起こったのは40年前のことです。Science 誌に「赤外線放射による人工天体源の探索」という1ページのメモを発表しました。そのアイデアというのはこういうものです。天にいる知的宇宙人や、実際に活発な生命を追っている知的生物がいても、通信には関心を持っていないかもしれない。その1年前にフランク・ドレイクが異星人からの無線信号を受信しようと始めましたが、これは異星人側が交信しようとしているなら問題ないのです。しかし私は、たとえ通信していなくても、異星人を見つける方法を思いつきました。本質的に廃熱である赤外線放射を探すのです。つまり、人口爆発を経験し、非常に大きく成長していたり、あるいはとても高度に発展した産業を抱えた社会がもし存在したなら、熱力学の法則によって、廃熱の除去を強制されるのです。廃熱を捨てずにいることはできず、それは宇宙に放射されねばなりません。熱放射が赤外線なのはよくご存じでしょう。だから私は、人々が実際に電波望遠鏡だけでなく赤外線望遠鏡でも空を見てみるよう提案しました。しかし不運にも、私はその最後に、われわれが探すのは「人工生物圏(an artificial biosphere)」であるという意見を加えました。「生物圏」が意味するのは、恒星近傍をまわる軌道に乗る、異星人が生活している生息地ということだけです。そして、生物圏という言葉は特別な形を意味するものではないのです。しかし、SF作家はこれを捉えて、生物圏(biosphere)は「球体(sphere)」を意味するのだと想像しました。元〔論文の意味〕からは離れ、それは大きな丸いボールであるはずだとされました。彼らはこの奇妙な観念を抱き続け、ついには『スタートレック』にまで行き着いたのです。

——Oh, yes, yes. In fact just based on secondary counts, I had imagined some giant sphere whose function was to capture all of the energy of the sun, so that none would go to waste, is that completely erroneous?

――ああ、なるほど。実際、二次的な論拠に基づいて私が想像していたのは、太陽の全エネルギーを無駄なく捕える機能を持った巨大な球体でした。それは全くもって間違いなんですか?

Well, except it shouldn't be a sphere of course, it should have been, but I imagined in fact a swarm of objects surrounding a star and that would be the way to use all the starlight and so it would look essentially from the outside rather like a dust cloud and actually this was invented not by me, but by Olaf Stapledon, the science fiction writer who wrote in the 1930s. So indeed if you really want to give a name to it, it should be the Stapledon Sphere rather the Dyson Spheres.

まあ、それが存在したなら、もちろん球体ではないはずですね。私は星を囲んだ複数の物体の群れを想像していました。それは星の光すべてを使う方法になるので、外部からは実質、むしろ塵の雲のように見えるでしょう。実際これは私の発明ではなくて、SF作家のオラフ・ステープルドンが1930年代に書いた作品によるものです。だから本当にこれに名前をつけたければ、ダイソン球ではなく「ステープルドン球」でなければなりません。

——I think it is too late to make that change. I am afraid that your legacy is inextricably intertwined with…

――それを変えるのは遅すぎですよ。懸念するのは、あなたの遺産がこんがらがることです。

I am sort of stuck with it.

私は多少こだわりますよ。

——In any event, it certainly got your name far and wide, right?

――いずれにせよ、それは間違いなくあなたの名前を大いに広めましたよね?

Yes.

ええ。

——Did they actually use the phrase Dyson Sphere on Star Trek?

――実際に「ダイソン球」というフレーズが『スタートレック』で使われたのですか?

Oh, yes.

ええ、そうです。

——Did they really?

――本当ですか?

One of my daughters sent me a tape of that program afterwards and so I watched it. Oh, yes, it is very clearly labelled and actually it was sort of fun to watch it, but it is all nonsense but it is quite a good piece of cinema.

後日、娘のひとりが番組のテープを送ってくれたので見ました。そう、それは非常にはっきりと名前が付けられていて、実はそこそこ楽しんで見ました。まるっきり荒唐無稽ではありますが、映像作品としてはなかなか良いものです。
Robert Wright interviews: Freeman Dyson - complete interview - MeaningofLife.tv.

誤訳による紛らわしい記述

調べていて、ひとつ気になることがあった。ダイソンの自伝(1979年)の邦訳ではこういう下りがある。

これらの資源を十分に利用するのには、技術的生物は、手にはいるかぎりの物質を使って、恒星の光を十分利用できるように恒星のまわりを回る球殻と、その中に収められた生物学的生活空間と産業設備とを建設せねばならない。土星のような大きさと化学組織をもつ惑星には、太陽と同程度の大きさの恒星の光を十分に利用できる人工の生物圏をつくるのにたりるだけの物質がある。銀河系全体のなかには、すべての恒星のまわりに生物圏をつくるのにたりるだけの惑星はないかもしれないが、この目的にとって十分なだけの利用できる物質資源が他にある。たとえば、赤色巨星の膨張した外皮は、採鉱のため利用することができ、惑星に含まれているよりはるかに多量の物質を供給してくれる。人工生物圏をつくりだすのに必要な機械類を製作することが技術的に実行可能かどうかの疑問は残るが、時間が十分にあれば、それは可能だろう。私は、それが実行可能だという確信を得るために、次のような作業をするのに必要な機械の工学的設計をしてみた。すなわち、地球程度の大きさの惑星を解体し、それを材料にして、太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻を組み立てるという作業である。
フリーマン・ダイソン, 鎮目恭夫 訳, 『宇宙をかき乱すべきか ダイソン自伝』下巻 pp. 138-139, ちくま学芸文庫, 2006.

恒星の外層も材料として考えているのは興味深いのだが、それはさておき、紛らわしいことに「恒星の光を十分利用できるように恒星のまわりを回る球殻」となっている。これでは邦訳を読むと太陽を包み込む球体を想像してしまいがちだろう。そして「太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻」という記述。この文脈だと太陽を中心にそれを覆う球殻が二重三重に多数重なった姿を想像しがちだが、論文にそんな描写はなかったのでおかしい。ついでながら、土星の質量は論文にあった木星に比べるとそこまで大きくないはず。どうも変だと思い原書を買って確認してみたら、疑問が氷解した。以下がこの箇所の原文。

To exploit these resources fully, a technological species must convert the available matter into biological living space and industrial machinery arranged in orbiting shells around the stars so as to utilize all the starlight. There is enough matter in a planet of the size and chemical composition of Jupiter to form an artificial biosphere exploiting fully the light from a star of the size of our sun. In the galaxy as a whole there may not be enough planets to make biospheres around all the stars, but there are other sources of accessible matter which are sufficient for this purpose. For example, the distended envelopes of red-giant stars are accessible to mining operations and provide matter in quantity far more abundant than that contained in planets. The question remains whether it is technically feasible to build the necessary machinery to create artificial biospheres. Given sufficient time, the job can be done. To convince myself that it is feasible, I have made some rough engineering designs of the machinery required to take apart a planet of the size of the earth and to reassemble it into a collection of habitable balloons orbiting around the sun.

Dyson, Freeman J. Disturbing The Universe. Sloan Foundation Science, Basic Books, p.211, 1979.

「恒星のまわりを回る球殻」は「orbiting shells around the stars」で、球という意味は入っていないはずの「shells」が「球殻」と訳されてしまっている。そして「太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻」は「a collection of habitable balloons orbiting around the sun」なので、こちらでは「habitable balloons」が「球殻」に訳されている。そして案の定、「土星」ではなく「Jupiter(木星)」だった……。

どうやら訳者は構造物が無数の群れになっているとは思わずに、星の周りをひとつながりの球殻が入れ子状に複数重なったかたちを想像してしまったのではないだろうか。だから「shells」をひとまとめに「球殻」と訳し、「habitable balloons」もこれを見立てた表現として同じ「球殻」と訳してしまったと考えられる。しかし、これまで見てきたダイソンの説明を踏まえると、ここは球殻状に分布した「shell」の群れのひとつひとつが「habitable balloon」になっていると考えるべきだろう。

宇宙をかき乱すべきか〈下〉 (ちくま学芸文庫)

宇宙をかき乱すべきか〈下〉 (ちくま学芸文庫)

Disturbing The Universe (Sloan Foundation Science)

Disturbing The Universe (Sloan Foundation Science)

発想源はステープルドン

前述のインタビューでも本人が語っていたが、ダイソンの「人工生物圏」という発想の基になったのは、オラフ・ステープルドンのSF『スターメイカー』Star Maker(1937年)だったという。論文には書かれていないが、自伝にはこうある。

Some science fiction writers have wrongly given me the credit for inventing the idea of an artificial biosphere. In fact, I took the idea from Olaf Stapledon, one of their own colleagues

SF作家たちの一部は、人工生物圏というアイデアを発明した名誉を、誤って私に帰しているが、じつは私はこのアイデアを、彼らの仲間の一人であるオラフ・ステープルドンから得たのである。
フリーマン・ダイソン, 鎮目恭夫 訳, 『宇宙をかき乱すべきか ダイソン自伝』下巻 p. 139, ちくま学芸文庫, 2006.
Dyson, Freeman J. Disturbing The Universe. Sloan Foundation Science, Basic Books, p.211, 1979.

ダイソンは1945年、ロンドンのバディントン駅でボロボロになったこの本を拾ったそうだ。この『スターメイカー』作中には、はるかな距離から眺めた遠未来の銀河の姿が出てくる。

Not only was every solar system now surrounded by a gauze of light traps, which focused the escaping solar energy for intelligent use, so that the whole galaxy was dimmed, but many stars that were not suited to be suns were disintegrated, and rifled of their prodigious stores of sub-atomic energy.

今やすべての太陽系が、知的な利用のために、逃げていく太陽エネルギーを、銀河全体の光量が減退するくらい集中させる光捕獲用の網(ネット)に囲まれていたし、また太陽としては適さない多くの星は解体され、核エネルギーの驚嘆すべき蓄えを奪われたのだった
オラフ・ステープルドン, 浜口稔 訳『スターメイカー国書刊行会, p. 254, 2004.

Star Maker - Olaf Stapledon - Google ブックス

ということで、ステープルドン『スターメイカー』の「a gauze of light traps(光を捕える網〔ガーゼ〕)」という記述がダイソン球の――正確にはダイソン論文のアイデアの――元ネタである。

スターメイカー

スターメイカー

本来のダイソン球の姿

これまでの記述から考えるに、本来のダイソン球は以下のようなものである。

「その内部に生活空間と産業施設を備えて大気を閉じ込めた居住構造物が、恒星を公転する軌道を無数に独立して巡っている。構造物は緩やかなまとまりや群れとして星を取り囲む球殻状に分布し、全体が人工生物圏として、その星の放射エネルギーを最大限利用している。また、個々の構造物の大きさや形状は居住者の利便性に合わせたものとなっている」

これではダイソン球というより、「ダイソン群(Dyson swarm)」などと呼んだほうが的確かもしれない。

ちなみに、1964年に出版されたフリッツ・ライバー『放浪惑星』The Wanderer 作中に、銀河内の星の光が、その周囲を巡る無数の人工惑星のせいで遮られる光景について登場人物が言及する場面がある。これがダイソン論文以降に出たフィクションのうち、本来の構想に類似したものを最初に描いた作品かもしれない。

“In the galaxy where the Wanderer grew in orbit, the planets are so thick around each sun they shroud its light and make a slum of space, a teeming city of a galaxy. It is the boast of our engineers, ‘Wherever a sunbeam escapes, we place a planet.’ Or they moor a field , to turn the sunlight back.

“Tens of thousands of planets around each sun, troubling each other with ten thousand tides, so that tidal harmonizing is half our civil engineering. Planets following each other so closely in the same orbit that they make elliptical necklaces, each pearl a world. You know those filigree nests of balls your Chinese carve of ivory, so that you peer and peer to find the center, and end with the feeling that there's a little of infinity locked in there? That's how solar systems look, most places.

“You haven't yet heard this news, simply because of the snaily slowness with which light travels. If you could wait a billion years, you'd see the galaxies grow dim, not by the death of stars, but by the masking and miserly hoarding of their light by the stars' owners.

“All but a tiny remainder of the star-shrouding planets are artificial. Billions of trillions of dead suns and cold moons and planetary gas giants have been mined to get the matter to make them-your Egyptian pyramids multiplied by infinity. Throughout the universe, natural planets are as rare as young thoughts.

“Your own galaxy of the Milky Way is no exception. Planet-choked suns chiefly make the great dark central cloud which puzzles your astronomers.

“A pond can fill with infusoria almost as quickly as a ditch-water puddle. A continent can fill with rabbits almost as swiftly as a single field. And intelligent life can spread to the ends of the universe——those ends which are everywhere——as swiftly as it grows to maturity on a single planet.

[...]

She pointed a claw toward the thick stars. “Those diamonds you see out there are lies. The suns that sent that bright light now are masked.”

「《放浪者》が軌道上で成長した銀河系では、それぞれの太陽のまわりにあまりに多くの惑星が混み合っているために、惑星群が太陽の光をさえぎって、宇宙のスラム街、銀河系の過密都市を作りあげている始末なの。〈太陽光線が洩れているところには残らず惑星を置く〉というのが、わたしたちのエンジニアたちの自慢なのよ。でなければ彼らは太陽光線を追いかえすために、ひとつの場を係留するわ。

「個々の太陽のまわりには何千何万という惑星があって、それぞれの潮汐でたがいに迷惑をかけ合っているために、潮汐の調和がわたしたちの土木工学の半分を占めている状態なのよ。惑星同士が極端に接近して同じ軌道上を回っているので、まるで星ひとつが一粒の真珠に当たる楕円形の首飾りといったところだわ。ほとんどの太陽系がそんなふうになっているのよ。

「あなた方の耳にまだこのニュースが届いていないのは、まるでカタツムリの歩みのようにのろい光の速度のせいなの。もしもあなた方が十億年間待てるなら、星の死滅のせいではなく、星の所有者たちがその光をさえぎってけちけちと貯めこむために、銀河系が暗くなるのが見えるはずよ。

「太陽を覆う惑星群は、ごく一部を除いてすべて人工惑星なの。何兆もの死滅した太陽や冷えきった月や巨大な惑星のガスが、人工惑星の製造原料として使われた――それは地球のエジプトのピラミッドを無限に倍加したほどの量だわ。宇宙全体を通じて、自然惑星はきわめてまれな存在なのよ。

「あなた方の銀河系もその例外じゃないわ。惑星に覆いつくされた太陽群が地球の天文学者たちを惑わす巨大な黒い中心の雲を主として作っている。

「池はどぶの水と同じように、たちまち滴虫類でいっぱいになってしまう。大陸はひとつの野原と同じように、たちまち兎でいっぱいになってしまう。そして知的生命も、ひとつの惑星上で成熟に達するように、たちまち宇宙の果て――いたるところにある宇宙の果てまで拡がってしまうわ。

(中略)

彼女は手をあげて星の群れを指さした。「あすこに見えているおびただしい数のダイヤモンド、あれはみんな嘘なのよ。あの輝かしい光を送りだした太陽は、今はみなマスクで光をさえぎられているんだわ」
フリッツ・ライバー, 永井淳 訳『放浪惑星東京創元社, 創元SF文庫, pp.405-407, 1973.

The Wanderer - Fritz Leiber - Google ブックス

放浪惑星 (創元SF文庫)

放浪惑星 (創元SF文庫)

名称の誕生と誤解の広がり

Dyson sphere」という名称の誕生と広がりについて気になったので、Google がスキャンした書籍データから英語句の頻度を調べられる Google Ngram Viewer を使い、"Dyson sphere" を1960年(ダイソン論文の掲載年)から上限の2008年までの期間で検索してみた結果が以下。

Google ScholarGoogle Books で検索すると、初期には英語圏のいくつかの媒体で「Dyson's sphere」という表記も多少使われていたことが分かる。

そしてニコライ・カルダシェフによる1964年の、いわゆるカルダシェフ・スケールについての論文の英訳版にこの「Dyson sphere」という表現が出ていることが判明した。ロシア語で書かれた元の論文も入手。

II — цивилизация, овладевшая энергией, излучаемой своей звездой (например, этап построения «сферы Дайсона» [6]); энергопотребленне ∼4⋅1033 эрг/сек.

II — a civilization capable of harnessing the energy radiated by its own star (for example, the stage of successful construction of a "Dyson sphere"[6]); energy consumption at ≈4 × 1033 erg/sec.
II — 自らの星の放射エネルギーを利用できる文明(例えば「ダイソン球」建造の成功段階[6]); エネルギー消費量は約4×1033エルグ/秒である。
Kardashev, N. S. "Transmission of Information by Extraterrestrial Civilizations." Soviet Astronomy 8 (1964): 217-221.
Кардашев Н.С. «Передача информации внеземными цивилизациями» // Астрономический журнал. 1964. Т. 41. Вып. 2. С. 282-287.

ということで、いわゆるタイプII文明について書かれた文の「сферы Дайсона」という表記に行き着く。これが英訳されて「Dyson sphere」と表記されたものが、現在確認できる限りは英語圏における初出と考えられる。なお、原文だと「сфера」の語尾が「-ы」となっていて複数形なので、律儀に英訳すると「Dyson spheres」となるような気がする(が、いかんせんロシア語はからきし駄目なので、間違っていればご指摘を)。

こののち、1966年のカール・セーガンヨシフ・シクロフスキーの共著 Intelligent Life in the Universe にて「Dyson sphere」と表記されて紹介されたことが、一般にも大きく広まったきっかけではないかと考えられる。なお、この本はもともとシクロフスキーが1962年にロシア語で出した単著を英訳し、セーガンを共著者に加え加筆改訂して英語圏で出版された経緯をもつ。

ではさらに、ひとつながりの球殻構造物として最初に描写したフィクションは何だったのだろうか。星を囲んだ固体の殻とその内壁の居住面という構造を最初に描写したSFは、一説によるとロバート・シルヴァーバーグAcross a Billion Years(1969年)だとされ、作中に「Dyson sphere」という台詞も出てくる。ただし、発表がダイソンの元論文から9年後なので、これ以前のフィクションに遡れる可能性もあることは付言しておく。

“[...] According to communications received on this planet 13,595,486 years ago, the Mirt Korp Ahm embarked on a project at that time for the transformation of their home system into an enclosed sphere permitting full utilization of the solar energy. An uninhabited planet of the system was used as the source of mass for this project. The enterprise was successfully completed within a period of 150 years after receipt of first notice here. Thereafter, naturally, the home star of the Mirt Korp Ahm ceased to be detectible by conventional optical means.”

I pondered the meaning of that set of cloudy phrases without much immediate success. But to Saul Shahmoon the robot’s explanation was lucidity itself. “Of course!” Saul cried. “A Dyson sphere!”

[...]

A really thrifty civilization, Dyson said, would catch all of its sun’s energy before it was squandered. One way to do it, he suggested, was to demolish Jupiter and use its mass to build a shell surrounding the sun at approximately the distance of Earth’s orbit from the center of the solar system. Smashing up the biggest planet and rearranging its pieces this way would take a fair amount of energy all by itself: roughly as much as the sun’s total output for eight hundred years. But once the job was finished, the shell would intercept every photon of energy coming from the sun; this could be put to use as an all-purpose power source.

「(中略)13,595,486年前にこの惑星から受け取った通信によると、マート・コープ・アームは当時、太陽エネルギーを完全利用できる球で故郷の星系を閉じ込めるよう改造する計画に着手しました。その星系の無人惑星が、この計画の質量供給源として利用されました。この事業はこちらが最初の知らせを受信してから150年のうちに無事完了しました。その後、当然ですが、マート・コープ・アームの故郷の星は、従来の光学的手段では検出されなくなりました」

僕はそのはっきりしない言い回しの意味がすぐに分からず考えた。しかし、サウル・シャームーンにとってロボットの説明は明快だった。「そうか!」サウルは叫んだ。「ダイソン球だ!」

(中略)

ダイソンが言うには、本当に倹約的な文明は、浪費される前に太陽の全エネルギーを捕えるのだ。彼が提案したひとつの方法は、木星を破壊し、その質量を使って太陽系の中心から地球軌道まで距離がある、太陽を囲んだ殻を作るというものだ。最大の惑星を砕いてそのように配置を変えるのは、それだけでかなりエネルギーを使うことになる。だいたい太陽の総出力のおよそ800年間ぶんだ。しかしその作業が終われば、殻は太陽から来るエネルギー光子すべてを遮断する。これは多目的なエネルギー源として利用できる。

Silverberg, Robert Across a Billion Years. Open Road Media Sci-Fi & Fantasy, 2013.

Across a Billion Years

Across a Billion Years

翌1970年にはラリイ・ニーヴンの代表作となる『リングワールドRingworld が出版され、ダイソン球に対する新たなアプローチが世に広まるわけだが、それはまた別の話となる。

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))

『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』掲載リスト

再突入服一枚リ・エントリー・スーツで時速28,000キロの世界へ!

宇宙と大地の狭間に展開される極限のダイナミズム。2021年の極超音速成層圏ハイパーソニックストラトアドベンチャー

“オービット・ダイビング”それは頂点に立つ者達だけの究極のハイテック・スポーツだ。

宮武一貴+L.CAt。『THE ADVANCED APSARAS』STAGE1「THE DUO ON LITTLE PLACE OF HIGH」コミックノイズィ1988年12月号(Vol.1)p.146

宮武一貴氏による『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』という作品がある。軌道上からパワードスーツで大気圏へ再突入する架空の未来競技を描いたイラストノベルで、大日本絵画が一時期出していた雑誌コミックノイズィ(COMIC NOIZY)の創刊号から休刊号まで全10回連載された。単行本等には収録されていないので、以下に掲載情報をまとめておく。

宮武一貴+L. CAt。『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』月刊コミックノイズィ1988年12月号-1989年10月号(Vol.1-10)

  • STAGE1「THE DUO ON LITTLE PLACE OF HIGH」1988年12月号(Vol.1/創刊号)pp.146-149(資料提供:江藤巌
  • STAGE2「LADY TOIVONEN」1989年1月号(Vol.2)pp.131-135(資料提供:江藤巌
  • STAGE3「HOW MANY MILES TO VIZEENA?」1989年2月号(Vol.3)pp.118-121(資料提供:江藤巌
  • STAGE4「A BOUQUET FOR IL SIG·LUPO」1989年3月号(Vol.4)pp.128-132(資料提供:浜田裕子)
  • STAGE5「AVINION」1989年4・5月合併号(Vol.5)pp.154-157(資料提供:浜田裕子)
  • STAGE6「A PÖLLÖ ON THE MERIDIAN」1989年6月号(Vol.6)pp.144-148(資料提供:江藤巌
  • STAGE7「AS A PÖLLÖ BLEW OFF IN MERRILY THE EYE OF THE TYPHOON」1989年7月号(Vol.7)pp.10-13(資料提供:江藤巌
  • STAGE8「AS A PÖLLÖ BLEW OFF IN MERRILY THE EYE OF THE TYPHOON II」1989年8月号(Vol.8)pp.6-10(資料提供:江藤巌
  • STAGE9「MICHELE, WITH THE WINGS」1989年9月号(Vol.9)pp.5-9(資料提供:江藤巌
  • STAGE10「'SERPENTE' GALLERIA DEL VENT」1989年10月号(Vol.10/休刊号)pp.5-9(資料提供:江藤巌

作者として共に名前を連ね、作中の一部イラストも手がけている「L. CAt。」氏というのは宮武氏の奥方だという話を見かけたが、未確認。そして資料提供の浜田氏は江藤氏の奥方。

なお、この作品に使われた画のいくつかは、2017年に出た『MIYATAKE KAZUTAKA MEGA DESIGNER CREATED MEGA STRUCTURES 宮武一貴画集』に収録されている。その説明書きによれば、当時はメカデザインやストーリーだけでなく、誌面レイアウトまで宮武氏本人が手がけていたらしい。

ちなみに月刊コミックノイズィは国会図書館に所蔵なし(参考)。現代マンガ図書館には所蔵されているようだが、この記事執筆時点では閲覧ができない状態(参考)。入手するにはヤフオク駿河屋まんだらけあたりに出るのを待つしかないか。

漫画版『雲のむこう、約束の場所』掲載リスト

新海誠監督の短編アニメーション映画『ほしのこえ』を漫画化した佐原ミズ氏は、続けて2作目の劇場用アニメーション映画『雲のむこう、約束の場所』の漫画化も手がけていた。しかしながら、月刊アフタヌーンで始まった連載は第8話まで掲載されたもののなぜか休載、そのまま未完に終わり、現在に至るまで単行本にも収録されていない。そこで、ここに雑誌掲載情報をまとめておく。

漫画:佐原ミズ&原作:新海誠雲のむこう、約束の場所月刊アフタヌーン2006年2月号-10月号(4月号休載)

ちなみに月刊アフタヌーン2006年11・12月の各号には目次欄で休載の告知あり。以後は音沙汰なく未完となっている。

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)

『機神兵団 APOCALYPSE NOW』リスト

山田正紀氏の『機神兵団』を原作とした漫画版の岡昌平『機神兵団』は、全3巻の単行本が「第1部 完」として終わっている。雑誌連載時に原作とは異なる展開の「第2部」が企画されていたが、実現せず連載が終了してしまったらしい。最終回が載った号の目次コメントには「機神兵団第1部も今回で終わり、第2部があったらまたお会いしましょう。」とある。ちなみに連載されていたのは、開始前の予告編を含めると『少年キャプテン』1993年4月号-1995年3月号。

そして岡氏は連載終了後、『機神兵団 APOCALYPSE NOW』と題し、この「第2部」の第3話から第5話までを同人作品として発表し完結させた。なお、第2部の第1話と第2話については描かれておらず、おそらく岡氏の構想のみで作品としては存在しない模様。

――1945年7月16日、アメリカ合衆国ニューメキシコ州アラモゴード砂漠。トライポッドの群れが防衛する異種知性体の拠点要塞に対し、試作原子爆弾「トリニティ」が弾頭に据えられた対要塞零距離爆破塔を構える「雷神」が、人類の戦闘部隊連合と共に突入攻撃をかける展開で幕を開ける。

この同人誌版は何冊にもわたって出ているが、振られたナンバリングも独特であり、そのため全体が把握しづらくなってしまっているので、ここにまとめておく。発行日などいくつか判明しない点もあるので、詳細を知っている方がいたら教えていただきたい。

以下、すべての発行元サークルは「黒汐物産」。基本の判型はB5判だが、総集編である『1&2』と『2.0χ(改)』の判型はA5判となっている(なお、商業作品として出た第1部の単行本はA5判)。

  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW』 発行日不明(1997年という情報あり), B5判, 本文142p. 駿河屋/まんだらけ
    • サブタイトル:第2部 第3話「ペトロヴィッチ条約機構」※この記事では「無印」と呼称する。
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW II』 発行日不明(1997年という情報あり), B5判, 本文96p. 駿河屋
    • サブタイトル:第2部 第4話「DAMNATION ALLEY -世界が燃え尽きる日-」※次号予告に冬コミ発行予定とあるので、これが出たのは夏コミ?
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 2.5』 2000-12-30(C59)発行, B5判, 本文64p. 駿河屋/まんだらけ/とらのあな
    • サブタイトル:最終話「われらが約束の地」(前編)
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 2.7』 発行日不明(2001-08-? C60?), B5判, 本文64p. 駿河屋/まんだらけ
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 2.9』 2001-12-30(C61)発行, B5判, 本文64p. 駿河屋/まんだらけ/とらのあな
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 2.99』 2002-08-10(C62)発行, B5判, 本文56p. 駿河屋/まんだらけ/とらのあな
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 1&2』 2003-11-16(COMITIA66)発行, A5判, 本文232p. 駿河屋/とらのあな
    • ※無印とIIの合本。
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 1&2 [軽装版]』
    • ※未所有・未確認のため発行日・判型・ページ数不明。情報がなさすぎて、本当に存在しているのか謎。
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 2.0χ(改)』 2004-12-30(C67)発行, A5判, 本文248p. 駿河屋/まんだらけ/とらのあな
    • ※2.5、2.7、2.9、2.99の合本。時系列では最後に出た本。
  • 『機神兵団 APOCALYPSE NOW 3&FINAL』 2003-08-16(C64)発行, B5判, 本文120p. 駿河屋/まんだらけ/とらのあな
    • ※最終巻。サブタイトルの記載がないが、付けるとしたらおそらく『最終話「われらが約束の地」(後編)』になると思われる。

無印が第2部の第3話、『II』は同じく第4話、『2.5』『2.7』『2.9』『2.99』『3&FINAL』で同第5話を構成する。『1&2』『2.0χ(改)』『3&FINAL』の3冊を揃えられれば最良か。なお、合本の内容は加筆修正されているらしい(未確認)。

ところで『機神兵団 APOCALYPSE NOW』の内容は大変素晴らしいのだが、端的にこの魅力を伝えるにはどうすればよいかと考えた結果、戯れにこんな画像を作ってみた。

蛇足

  • 当時、新刊を落とした時には『APOなし』という楽屋落ちタイトルのギャグ同人誌が出ていたらしい。
  • 岡昌平氏は「黒汐物産」以外に「HILL 4 FLATS」というサークル名でも同人イベントに参加していた模様。
  • レモンピープル』1998年4月号(第17巻第7号)の「必見! 同人探偵団」内にて、『機神兵団 APOCALYPSE NOW』が取り上げられているらしい(文=沖由佳雄)。

「【至急】エイリアンの宇宙船ってどうやって動くんですか?」映画『メッセージ』スティーブン・ウルフラムのSF考証裏話

はじめに

テッド・チャンの短編SF「あなたの人生の物語」を原作とした映画『メッセージ』(原題:Arrival)が2017年5月に日本でも公開されるが、物理学者のスティーブン・ウルフラム氏がこの映画で科学考証(クレジット表記は「consulting scientist」)を担当しており、自身のブログでその仕事内容の解説をしているので、ここに和訳してみた。

ウルフラム氏は数式処理ソフト「Mathematica」の考案者として有名で、現在はウルフラム・リサーチ社のCEO。同社はオンラインの質問・計算応答システム「Wolfram Alpha」でも知られている。

なお、本記事についてはきちんと申請して翻訳・公開の許可を得ている。先方からの要請に基づき、この翻訳記事では元記事にある画像は転載せず、代わりに元記事と同じ位置に画像へのテキストリンクを置いてある(ので、それをクリックすれば元記事と同じ画像が見られる)。また、こちらでいくつか訳註を加えた。初期の訳文にあった誤りを多数指摘していただいたS. N.氏と、物理学関連の表記を中心に色々とチェックしていただいたSatoru Inoue氏(id:hundun2 / @Inoueian)の両名には深く感謝する。

ところで、ウルフラム氏本人は冒頭に「映画のネタバレはない」と書いているが、人によってはネタバレと感じるかもしれない内容なので(元記事のコメント欄にもそういう方がいた)、念のため警告はしておく。


翻訳元記事:Quick, How Might the Alien Spacecraft Work?—Stephen Wolfram Blog

【至急】エイリアンの宇宙船ってどうやって動くんですか?

2016年11月10日

[この記事は映画『メッセージ』(原題:Arrival)についてのものだが、映画のネタバレはない。]

ハリウッドとの接触

「これは面白い脚本ですよ」とうちの広報の誰かが言った。図表やポスターや本を映画に出したいと、制作者からお願いされるのは結構よくあることだ。だけど今回の要請は違っていた。「ハリウッドの大作SF映画に出てくる、現実的なモニターグラフィックス表示を至急作っていただけないでしょうか? 撮影が始まりそうなんです」

さて、私たちの会社では、珍しい問題については最終的に私の受信箱に届く。そしてこの件もそうだった。ところで偶然にも、娯楽と職業的な興味から、私はおそらく過去数十年に渡りほとんどの主流SF映画を見ている。だが、この作品の制作中の仮題(“Story of Your Life”〔『あなたの人生の物語』〕)からでは、この映画がSFなのか何なのか、まったくわからなかった。

しかしそれがエイリアンとのファーストコンタクトものだと聞いたので、「じゃあ、脚本を読んでみるよ」と私は答えた。そして、そう、面白い脚本だった。複雑だが興味深い。実際の映画がSF中心になるのか、ラブストーリー中心になるのかはわからなかった。それでも、意味をなさないものと混ざっていて細かな科学的ミスがたくさんあるにもかかわらず、そこに興味深い科学関連のテーマがあるのは間違いなかった。

SF映画を見るとき、私はかなり頻繁にげんなりしていると言わざるをえない。「この映画には1億ドル〔100億円〕が費やされているのに、それでもまだ、詳しい人に尋ねればすぐに修正できたような、いらない科学的ミスがいくつもあるなぁ」などとよく思う。だから大変忙しい時期だったが、現在では『メッセージ』(原題:Arrival)と題されたこの作品に関わり、自分ができうる限り最高の科学を盛り込むという個人的な挑戦をしてみようと決意した。

思うに、多くのハリウッド映画で科学がうまく盛り込めていない理由はいくつか考えられる。ひとつは、映画制作者がふつう、映画の「科学感」に敏感ではないということだ。彼らは、物事が人間的なレベルで変な場合であれば分かるのだが、一般的にいって科学的に何が足りてないのかについては分からない。時には地元の大学に協力を求めることもあるが、彼らはあまりにもしょっちゅう、その物語全体が間違っているとは言わないような、過度に専門に特化した学者へ投げてくる。もちろん公平のために言っておくが、科学的な内容というのは通常、映画を作ったり壊したりはしないものだ。しかし、いわば良いセットのデザインみたいに良質の科学的内容が盛り込まれていれば、良い映画を偉大なものにする一助となるだろう。

会社としては、ハリウッドと仕事をした経験もある。たとえば、テレビドラマ『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』では、全6シーズンにおける数学描写をすべて考えている。私は個人的に関わったことがないが、映画を手伝ったことのある科学者の友人は多くいる。『ジュラシック・パーク』に関わったジャック・ホーナーは、(自身でも語っているが)最終的にかなり彼の古生物学理論を映画に盛り込んだ(間違っていることが判明したものも含まれているが)。そしてキップ・ソーン(最近、重力波の検出に成功したことで有名)は、その80年代のセカンドキャリアが『インターステラー』の企画のもとになった*1。彼は Mathematica を使ってオリジナルのブラックホールの視覚効果も制作している。もっと昔の時代には、『2001年宇宙の旅』でAIに関する相談を受けたマービン・ミンスキーがいたり、エドワード・フレドキンが、『ウォー・ゲーム』のいくぶん奇抜なフォルケン博士のモデルとなったりしている。そして最近では、マンジュル・バルガヴァがいる。彼は10年に渡り『奇蹟がくれた数式』を監修し*2、最後は編集期間の数週間で注意深く「数学描写のチェック」をした。

これらの人々は皆、映画制作のずっと早い段階から関わっていた。だが私は、関わるのが撮影開始の時期からであることに対して、映画が実際に作られるのが判明しているという利点があると考えた(そう、ハリウッドではN/S比〔雑音対信号比;ここでは雑音を強調している〕が非常に大きいことがよくある)。それはまた、私の役割がはっきりしていることを意味していた。私にできるのは、科学描写を改善して滑らかにすることだった。プロット内で重要な点を変更することなど考える必要がなかった。

この映画の構想は、テッド・チャンによる1998年の面白い短編小説を基にしている。だがこれは概念的に複雑な物語で、数理物理学のかなり技術的なアイデアをネタにしていた*3。それだけに、こんなものを誰がどうやれば映画化できるのかと思ったのは私だけではなかっただろう。それでも、これを基にした120ページの脚本があった。科学描写は原作ストーリーにあるいくつかと、そこにかなり足されていたが、ほとんどがまだ「Lorem ipsum〔=意味不明な文のこと〕」状態だった。それで私は仕事としてコメントしたり、修正案を提案したりなどした。

数週間後……

数週間後までカットしよう。息子のクリストファーと私はモントリオールに到着する。隣にある巨大な撮影所では最新の『X-MEN』映画が撮影されている。『メッセージ』はもっと小さな撮影所だ。そこに着いたのは、映画中盤にあるヘリコプター内のシーンの撮影中である。俳優は見られないが、「ビデオビレッジ」〔撮影中に映像をチェックしている一角のこと〕にあるモニターで、数人のプロデューサーらと一緒に見ている。

私が聞く最初の台詞がこれだ。「いくつかの二進数列から始まる、(エイリアンに対する)質問リストを用意しました……」ここで私は「おお、提案したやつだ! 素晴らしい!」と感じる。だが、すぐ後に別テイクとなる。そこで台詞が変わる。そうやってさらにテイクが増える。そして、まあ、会話はスムーズに聞こえる。だけどその意味が正しくないのだ。「こいつは思っていたより難題だぞ」と私は悟る。たくさんの妥協。多くのややこしさ(幸いなことに、完成した映画では正しい意味が混ざり合って、良い会話となっている)。

しばらくすると、撮影中に休憩がある。私たちはエイミー・アダムスと話す。彼女はエイリアンとのコミュニケーションをはかるため任命された言語学者を演じている。彼女は以前、地元の言語学の教授に張り付いてしばらく過ごしており、言語によって思考がどの程度決まってしまうのかという問題について熱心に話したがる。それは私が計算機言語の設計者として長いあいだ関心を持ってきた話題だ。しかしプロデューサーが本当に望むのは、映画内の物理学者を演じるジェレミー・レナーと私が話すことだ。彼の機嫌が悪そうだったので、彼らが作った「科学テント」のセットを見て、そのビジュアルからどのように機能するかを考えようとする。

〔画像リンク〕セットにて、私とクリストファー

コードを書く

脚本からは、興味深いビジュアル素材がたくさん出てくることがわかった。面白そうだったが、私には個人的にそれを作る時間がなかった。でも幸いなことに、非常に速く創造的なプログラマーである息子のクリストファーが、この仕事に興味を持っていた。彼を撮影現場に1〜2週間預かってもらおうとしたのだが、まだ若すぎると判断されたので、在宅で作業に取りかかった*4

彼の基本的な戦略は簡単だった。「実際にこれをやるなら、どのような分析や計算を行うのか?」と問うだけだ。エイリアンの着陸地の一覧があるが、そのパターンは何なのか? 宇宙船の形状に関する幾何学的なデータがあるが、それが意味するものは何なのか? エイリアンの「筆跡」があるが、これは何を意味するのか?

〔画像リンク〕ビジュアル素材のコラージュ

映画の制作側はクリストファーに生データを現実のそれと同じように渡しており、彼はそれを分析しようとしていた。それぞれの質問をあらゆる種類のWolfram言語コードに変換し、ビジュアル化した。

クリストファーは、他の映画に出てくるコードがしばしば意味をなしてないのをよく知っていた(余談だが、お気に入りはLinuxnmap.cのソースコードらしい)。しかし、彼は意味をなすコードを作りたいと思っていたし、映画内で行われている分析を実際にしようとした。

〔画像リンク〕近隣の着陸地点どうしを結んだパターン

〔画像リンク〕「筆跡」から検出された角を結んだパターン

完成した映画におけるモニターグラフィックスは、クリストファーが作ったものと、彼の作成物を元にしたもの、そして別個に入れられたものが混ざっている。場合によってはコードを見ることができる。エイリアンの「筆跡」を並べ替えるという素晴らしいショットのように。そこでは、やや洗練されたWolfram言語のコードが書かれたWolframノートブック*5の画面が映る。そう、このコードはWolframノートブック内で実際に変換できるのだ。これは本当に、計算が実際に行われている。

恒星間航行の理論

初めて映画の脚本に目を通し始めてすぐに気づいたのは、筋の通った提案をするために、作中を通して具体的な科学理論を考え出す必要があることだ。残念なことに、時間はあまりなかった。結局、恒星間航行がどのようなものになるかを考えるのに、ほぼ一晩しかなかった。これが、その晩思いついたことについて、私が映画制作陣のために書いたものの冒頭だ(ネタバレを避けるためこれ以上は出さない)。

〔画像リンク〕恒星間宇宙船についての(空想)科学

当然、こういった物理的な詳細はすべて映画に直接必要とはならなかった。それでも、これをじっくり考えたことは、脚本に関して一貫した提案をする上で本当に役立った。そして、あらゆる話し合いのためのSFアイデア的なものにつながった。ここには、最終的な脚本に取り入れられなかった(おそらくその方がよかった)ものがいくつかある。「船全体が、ひとつの巨大な量子のように宇宙を渡る」「エイリアンはプランクスケール時空間ネットワークを直接操作する必要がある」「船体の周囲には時空の乱れが発生する」「それは船体表面が既知の115元素だけでなく、無限の種類の原子からなるようなものである」(船を単色レーザーで照らすと、虹色のように反射するはずだろう)……こういったことを私のような「実際の科学者」が提案するのは楽しい。ある種の解放だ。特に、議論の中のこれらSF的な断片はすべて、長くて深い物理学の議論につながる可能性があるからだ。

映画のために、私は恒星間航行用の特別な理論が欲しかった。もしかしたら遠い未来のある日、それが正しいと判明するかもしれない。しかし、今のところはもちろん分からない。事実、知られている範囲において、現存する物理学には単純な「抜け穴」があり、これが恒星間航行を直接可能にする。たとえば、私が1982年にやったいくつかの研究でさえ、標準的な場の量子論においては、〔常識に対して〕まったく矛盾しているようだが、真空から「零点エネルギー」を連続的に取り出せなければならないことをほのめかしている。この基本的な仕組みは、恒星間航行に使える可能性のある推進源として、長年に渡りおそらく最も多く引用され続けている。たとえ私自身が実際にそれを信じていなくてもだ(材料の理想化がはなはだしいように思える)。

ひょっとしたら、(最近広く知られるようになったように*6)せめて小さな宇宙船を、レーザーによる放射圧で最低でも近くの星へ撃ち出すという、はるかに平凡な方法で推進しているかもしれない。あるいは、標準的なアインシュタインの重力理論の範疇ですら、時空の適切な歪みを設定するために「ブラックホール工学」を用いる方法がいくつかある。もし物理学の基礎理論が判明したとしても(いつになる?)、たとえばこの宇宙で超光速航行が可能かどうかなどは、すぐに判断できることではないかもしれないと認識するのは重要だ。量子場やブラックホールとかその類のものの構造を、ちょうどうまい感じに設定する方法はあるだろうか? (決定不可能性ゲーデルの不完全性定理、停止性問題などに関連してくる)計算の非簡約性(computational irreducibility)は、構造の設定がどれほど精緻で難しいかについての上限がないことを示している。そして最終的に、宇宙の歴史の中で実行可能なすべての計算がやり尽くされるだろう。そうなったら、必要となる構造を考えても、それが不可能であるかどうかは決して確かめることができない。

物理学者とは何か?

セットを訪問するときに、私たちは最終的にジェレミー・レナーと会う。彼がトレーラーのステップに座りタバコをくゆらせているのを見つけると、どうみても勇ましいアクション冒険家に見えてしまい、私は映画のように彼を見てしまったのが分かった。私は、物理学者がどんなものなのかを伝える最も効率的な方法について思案している。私は物理学について話し始めるべきだと判断する。そこで、私は映画に関連する物理の理論について説明し始める。私たちは、空間と時間、量子力学、超光速航行などについて話す。マンハッタン計画の「現場で物理学をやる」ことについてリチャード・ファインマンから聞いたいくつかの話を散りばめてみる。それは活発な議論だが、私はどんな振る舞いを見せているだろうか。典型的な物理学者のようなのかもしれないし、そうでないかもしれない(私はオリバー・サックスが話してくれたことを思い出さざるをえない。少しだけ接したロビン・ウィリアムズが、『レナードの朝』のために彼の振る舞いをいかに参考にしたか、それを見た彼がどれほど薄気味悪さを感じたかというものだ。だから、これらの数時間でジェレミーが私から何かを参考にするのだろうかと思っている)。

ジェレミーは、科学が映画のストーリーの横糸にどう関係しているのかや、人間だけでなくエイリアンがさまざまな点で何を感じているはずだろうかと理解したがっている。私は科学において物事を把握するのがどのようなものかということを話そうとしている。その後、少しだがWolfram言語のコードを生で書くのを実際に見せるのが最善の方法であるのに気づく。そして、脚本に書かれている方法が正しいと分かったので、ジェレミーは実際に自身でWolfram言語を使っているのをカメラで撮影されるはずだ(多くの現実の物理学者が言っているように――こう言えて嬉しい)。

クリストファーは彼が映画のために書いたコードの一部と、Dynamic関数で組んだコントロールオブジェクトがどうはたらくかを説明する。次に、コードを理解する方法について説明する。私たちはいくつかの準備をしている。それから、私たちは生でコードを書きはじめる。ここでは、SETIや『コンタクト』(書籍版)などと関連させながら議論してきたπ〔円周率〕の数字に基づいて作成した最初の例を示す。

〔画像リンク〕円周率

エイリアンと何を話すのか

『メッセージ』は、部分的には恒星間航行についての話だ。だがより大きくは、エイリアンが一旦ここに現れたときに、どうやってコミュニケーションをはかるのかという話だ。私は実際に地球外知性についてかなり考えてきた。とはいえ、そのほとんどは『メッセージ』よりも難しいケースだ。それにはエイリアンや宇宙船など出てこなくて、唯一得られるのは、無線伝送されたかぼそいデータの流れだ。そこからは、われわれが常に「知性」の証拠とみなすべきものの存在を知るのさえ困難である(たとえば、複雑になる気象について「心がある」ように思えることがよくあるのを覚えておいてほしい)。

ところが、『メッセージ』にはエイリアンがいる。では、どうやって彼らとコミュニケーションを始めるべきか? 人類の言語や歴史の細かい経緯に依存しない、普遍的なものが必要だ。さて、あなたがエイリアンと一緒にいたとして、指すべき物理的な物体があるとしよう(そう、ここではエイリアンが、物体を単なる連続体ではなく個々に捉えると仮定しているが、これは宇宙船などを持っている時点で実に安全な賭けに思える)。しかし、より抽象的にしたい場合はどうすればよいだろうか?

それについては、いつも数学を使うのだとされている。だが数学は実際に普遍的なのだろうか? 宇宙船を建造する存在は、必ず素数積分フーリエ級数について知らないといけないのか? これが人類の技術開発においてなら、理解する必要があるのは確かだ。しかしながら、テクノロジーへと至る他の(そして、たぶんもっと良い)道はないのだろうか? 私はそう思う。

私の意見では、この宇宙の働きに関わりそうな最も一般的な抽象化は、全ての作成可能なプログラムを含む「計算宇宙(computational universe)」を見ることで得られる*7。そこには人類が扱ってきた数学が現れる。そしてそれだけでなく、他の抽象的規則の無限の多様性も現れる。私がしばらく前に気づいたのは、この多くがテクノロジーの誕生と非常に関連していて、実際にとても関わりが大きいということだ。

それでは、作成可能なプログラムの計算宇宙全体を見られたとして、われわれを訪ねにやって来たエイリアンとの抽象的な議論を始めるために、合理的な普遍性として何を選べばよいのか?

個別の物体を指すことができれば、最初は一進法、それから二進法で数について会話し始める可能性がある。これは、私が映画のために作ったWolframノートブックの冒頭だ。言葉とコードは人類が使うものである。エイリアン用には、主要なグラフィックスの「単語帳(フラッシュカード)」があるだけだ。

〔画像リンク〕コミュニケーションの確立

では、基本的な数や、それにたぶんいくつか算数をやったとして、次は何だろう? 興味深いことに、これまで議論したものは、人類の数学の歴史を反映していないことに気づく。どれほど(『易経』のような伝統書にも出てくるように)根本的であっても、二進数はかなり最近になってから、多くの説明が難しい数学的概念が延々と登場したのちに手にしたものだ。

だから人類の数学や科学についての歴史など、つまりは人々に教えられている順序に従う必要はない。しかし、われわれは外部の知識や言葉なしに、直接的に理解できるものを探す必要がある。たとえば考古学的な発掘においては、その背景状況を知らずとも、掘り出すことさえできれば、われわれはその物を認識するだろう。

そして、それは私が数十年にわたり研究していたコンピュータシステムの分野で起こっていて、とてもよく当てはまっていると思うのがセル・オートマトンだ。これは視覚的に示しやすい簡単なルールに基づいている。また、そのルールを繰り返し適用してうごくときに複雑なパターンを生成することもあり、あらゆる種類の興味深いテクノロジーの基盤として使えることが知られている。

〔画像リンク〕セル・オートマトン

セル・オートマトンを見ることで、実際に世界全体を見る視点、すなわち『新しい種類の科学(A New Kind of Science)』――私の本の題名がこれだ――を構築していくことができる。 しかし、人類の科学や数学にある伝統的なアイデアを伝えたいのであればどうだろう? われわれはどうすればよいだろうか?

〔画像リンク〕ピタゴラスの定理

たぶん、2次元の幾何学図形を見せることから始まるだろう。ガウス1820年頃、地球外の存在から視認できるように、シベリアの森林を切り開いてピタゴラスの定理の標準的な図を描こうと提案した*8

とはいえ、厄介なことになるのは容易に想像できる。われわれはプラトン立体を見せようと考えるかもしれない。そしてそう、3Dプリントが使えるはずだ。だが二次元の透視図法の描画表現は、われわれの特殊な視覚系に関するたくさんの仕組みに依存している。ネットワークはもっとだめだ。節点(ノード)を繋ぐ線が接続を抽象的に表現していることを、どうやって知るというのか?

論理について考えてみると、おそらく論理的に真とされる定理を示そうとするだろう。けれども、どのようにして示すのか? ともかくも、テキストや二分木などといった記号的な表現方法をもっていなければならない。われわれが現在知る計算知識からいえば、論理は一般的な概念を表現するための特段良い全体的な出発点にはならない。だがそれは1950年代には明らかではなかったし、この魅力的な本〔LINCOS〕では、エイリアンとの論理を使ったコミュニケーション方法を全面的に作り上げようとしていた(私の持っている本は『メッセージ』のセットに置かれることとなった)*9

〔画像リンク〕LINCOSの書影

それでは、数そのものについてはどうだろう? 映画『コンタクト』では素数が鍵となる。まあ、素数は人類の数学の歴史では重要だが、現在のテクノロジーには実際あまり使われない。使われているものについては(公開鍵暗号システムのように)、大抵なんとなくたまたまというだけにみえる。

無線信号で素数を使っていれば、最初はよい「知性の証拠」のように思えるかもしれない。もちろん、素数はプログラムから生成できる。実際にはたとえばセル・オートマトンなど、かなり単純なもので生成できる。そして素数列が出てきたとしても、その背後に精巧な文明があるという直接的な証拠にはならない。何らかの形で「自然に生まれた」単純なプログラムから来ているだけかもしれない。

素数は視覚的にやさしく図示できる(たとえば、非自明な〔縦横の辺をなす数がそれぞれ1より大きい〕長方形のかたちに物を並べられない場合〔なら、それは素数の図示となる〕*10)。しかしその先は、直接的に表現できない概念が必要となるようだ*11

〔画像リンク〕パイオニア10号の金属板に記された水素の図

暗黙のうちに、多くの人間がもつ背景をとても簡単に当てはめてしまいがちだ。パイオニア10号はもっとも恒星間宇宙に飛び出している人工物体(現在の距離は約110億マイルアルファ・ケンタウリまでの距離の約0.05%)で、私の好きな例のひとつだ。この宇宙機には、水素の21cmスペクトル線の波長の表現を記した金属板が載っている。それを表現するのであれば一番わかりやすいのは、おそらくちょうど21cmの長さだろう。ただし1972年当時はカール・セーガンらが「より科学的」にすることに決めたので、代わりにスペクトル線を導く量子力学的プロセスの模式図となった。問題なのは、この図が人類の教科書の慣習に依存していることだ。たとえば矢印を使って量子スピンを表現するような書き方は、基本的な概念とはまったく関係なく、科学がわれわれ人間のためにどう発達したかという細かい経緯にとても密接している。

だが、『メッセージ』に戻ろう。「地球での目的は何か?」のような質問をするには、二進数列やセル・オートマトンなどを話すだけではなく、もっと多くのことが必要だ。これは非常に興味深い問題であり、現在世界で大変重要になっていることと奇妙に類似している。それはAIとコミュニケーションをはかって彼らが持つべき目標や目的を定義することだ(特に「人にとって良いもの」を)。

ある意味、AIはいま地球にいるエイリアン知性っぽいと言える。われわれが今までのところ本当に理解している唯一の知性は、人類の知性である。しかし必然的に、われわれが知るあらゆる例は、人類の状態とその歴史の細かい経緯をすべて共有している。では、そのような背景を共有していない知性は何だろうか?

まあ、私がやっている基礎科学から分かったことのひとつは、「知性」と単なる「計算」の間には明確な線引きができないということだ。セル・オートマトンや気象のようなものは、われわれの脳と同じくらい複雑なことをやっている。ただし、たとえ何らかの意味で「思考している」としても、人間のようにしているわけではない。彼らはわれわれの背景や細かい経緯を共有していない。

だが目的のようなものについて「意思疎通」するつもりなら、物事を整理する何らかの方法を見つけないといけない。AIの場合では、われわれ人間にとって重要な概念を表現し、それをAIへ伝える方法である「象徴記述言語(symbolic discourse language)」の作成に私は実際取り組んでいる。近く実用できる応用例として、賢い契約の設定などが考えられる。また、長期的な目標もある。たとえば、AIがどのように行動すべきかについての「憲法」のようなものを定義することだ。

そして、エイリアンとのコミュニケーションにおいては、われわれにとって重要な概念を表現するため共通の「普遍的」言語を構築しなければならない。それは簡単ではないだろう。人間の自然言語は、人類の状態と人類文明の歴史の経緯に基づいている。そして、私の象徴記述言語は、人間にとって重要なことを把握しようとしているだけであり、エイリアンにとって重要ではないかもしれない。

もちろん、『メッセージ』においては、すでにエイリアンがわれわれといくつかのことを共有しているのを知っている。結局のところ、『2001年宇宙の旅』のモノリスのように、その形からでも、われわれはエイリアンの宇宙船を人工物として認識している。それは変わった隕石や何かのようには見えない。それは「意図的に」作られたように見える。

しかし、目的はなんだろうか? そう、目的は抽象的に定義できるものではない。それは、歴史的および文化的枠組み全体に関連づけてのみ定義できるものだ。エイリアンに彼らの目的が何であるかを尋ねるためには、まず彼らにわれわれが営む歴史的・文化的枠組みを理解させる必要がある。

ともかくも、彼らの目標が何なのかをわれわれが問えるようなAIを開発できる日が来るかは疑問だ。いくつかの段階で、残念なことになるように思う。なぜなら前述したように、目的についての意味のある抽象概念を定義することなどできないと考えているからだ。だから、AIが教えてくれる「驚くべきこと」などないだろう。彼らが目的としてみなすものは、その歴史と文脈の細かい経緯を反映したものにすぎないだろう。AIの場合、われわれは究極的な創造主としてかなりの支配権を持っている。

エイリアンにとっては無論、そんなことは別の話だ。でもこれは、『メッセージ』に関連する話の一部ではある。

映画のプロセス

私は大きなプロジェクトをやるのに人生の多くを費やした。そして、いつもあらゆる種類の大きなプロジェクトがどう組織されているのか不思議に思う。映画を見るとき、私はエンドクレジットの終わりまで座っている人々のひとりだ。だから、『メッセージ』では映画にもう少し近づいて制作プロジェクトを見るのがかなり面白かった。

規模に関して、『メッセージ』のような映画制作は、Wolfram言語の主要な新バージョンをリリースするのとほぼ同じ大きさのプロジェクトだ。そして、そこにはいくつかの類似点があることが明らかだ――多くの違いがあるだけでなく。

どちらも、あらゆる種類のアイデアと創造性をはらんでいる。どちらも、さまざまな種類のスキルを集結させる。どちらも、最終的に一貫した製品を作るためには、すべての物事を噛み合わさせる必要がある。

いくつかの点で私は、映画制作者が私たちソフトウェア開発者よりも楽だと思っている。結局のところ、彼らは人々が見るものをひとつ作るだけだ。ソフトウェア(そして特に言語設計)では、さまざまな人々が、限りなく色々な方法で使えるものを作らなければならない。私たちが直接見通せないような使い方も含めて。もちろんソフトウェアでは、徐々に物事を改善した新バージョンを作ることができるが、映画はただ1度しか撮らない。

そして人的資源の面では、ソフトウェアの方が『メッセージ』のような映画よりも楽なやりかたがあるのは間違いない。よく管理されたソフトウェア開発は、やや安定したリズムを持つ傾向があるので、一貫性のあるチームで、一貫した仕事を何年にも渡っておこなえる。『メッセージ』のような映画を作るにあたっては、それまで一度も会ったことのない、すべての段階にそれぞれ関わる人々を、いつも非常に短時間で集める。私にとって、そんな風に働けるのは驚きだ。しかし思うに、今後数年間で映画産業では多くの仕事が十分に標準化され、誰かが1-2週間作業したのち、別の人に引き継げるようになるだろう。

私はこれまでの人生で、数十の重要なソフトウェアの公開を主導してきた。そして、いまではソフトウェア公開が静かで簡単な過程に過ぎないと私が感じているように思われるかもしれない。だが、決してそんなことになりはしない。それはたぶん、私たちがいつも大幅にあたらしく革新的なものを作ろうとしているからだ。もしくは単に、そういったプロジェクトの性質なのかもしれない。だが私は、自分の望む品質レベルでプロジェクトを完了させるには、常に並大抵ではない個人的な強さが必要だと知っている。そう、少なくとも私たちの会社では、いつも大変才能のある人々がプロジェクトに取り組んでいる。なのにどういうわけだか毎回、誰も予測しなかったようなことが起きる。これに対処するには、多くのエネルギーと集中力、推進力のこれらすべてをまとめることが必要だ。

ときどき、この過程は映画制作のようなものかもしれないと思う。実際、たとえばMathematicaの初期には、映画のクレジットによく似た「ソフトウェアクレジット」を出すことさえあったが、寄与した者の肩書はしばしば私がでっちあげねばならなかった(「パッケージ開発リーダー」「式構成設定」「フォントデザインリーダー」など)。 けれども10年ほどのち、異なるバージョンへの寄与がツギハギとなって非常に複雑となったため、ソフトウェアクレジットをあきらめねばならなかった。 それでもしばらくの間は、映画制作のように「打ち上げパーティー」をしようと思っていた。しかしどういうわけか、予定されたパーティーの開催時には何か大変なソフトウェア問題がいつも発生しており、それが未解決なために、中心となって寄与してくれた人々はパーティに来ることができなかった。

ソフトウェア開発(または、少なくとも言語開発)には、映画制作と構造的な類似点もいくつかある。始まりはスクリプト〔設計書・脚本〕からで、これは完成製品をどのようにしたいのかという全体的な仕様だ。そして、実際にそれを作ろうとする。そして必然的に、最後にできたものを見てから、仕様を変更しなければならないことが分かる。『メッセージ』のような映画では、それはポストプロダクションだ。ソフトウェアでは、開発プロセスの反復となる。

脚本と私の提案が、『メッセージ』の制作の中でどのように伝わったのかは興味深かった。少なくとも、私がソフトウェア設計をどのようにして行うのか、多くのことを思い出させてくれた――あらゆることをより単純にしていくのだ。私は、台詞を修正するための細かい提案をした。「君は『失敗した計算』だと(エイミー・アダムスのキャラクターに対して)言ってはだめだ。彼女の手法はむしろ分析的にすぎるほどだよ」「『宇宙船が100万光年を越えて来た』とは言わないように。それだと銀河系の外になってしまう。代わりに『1兆マイル』にしよう」変化が起こっただろう。とはいえ物事はより単純になり、核となるアイデアは最小限のやり方で伝わるだろう。私はすべての段階を見ていない(それは面白いだろうが)。しかしこの結果は、私が何度もやったソフトウェア設計の非常に多くの過程を思い起こさせた。複雑さをなくし、可能な限りすべてを明確かつ最小限にするというものだ。

ホワイトボードを書いてもらえませんか?

私の『メッセージ』への関与は、映画が撮影されていた2015年初夏の時期に集中していた。そして、映画がほぼ1年間「ポストプロダクション中」だったというのは聞いていた。だが今年5月に突然Eメールが届いた。「映画内のホワイトボードに、関連する物理のまとまった内容を至急書いてもらえませんか?」

ホワイトボードの前にエイミー・アダムスがいる場面があるのだが、撮影時のホワイトボードに書き込まれた内容は、基本的な高校レベルの物理学だった。これは、映画内でジェレミー・レナー演ずる登場人物のような人々から期待される最先端の物理学ではなかった。

ちょっと面白いことに、私はこれまでホワイトボードにたくさん書いたことがないと思う。実質的にあらゆる仕事とプレゼンのため30年以上コンピュータを使ってきたが、それ以前の一般的なテクノロジーは黒板とOHPの透明シートだった。それでも、私はきちんと自分のオフィス内にホワイトボードを設置して書くことにした(もはや滅多にやらない手書きだ)。出現したばかりの恒星間宇宙船を理解しようと、優秀な物理学者がおそらく考えるであろうことを私は想像して書くことにした。

これが私の思いついたことだ。ホワイトボードにある大きな空白は、ホワイトボードの前で動いているエイミー・アダムス(そして特に彼女の髪)を合成しやすくするためのものだ(結局、ホワイトボードは完成版の映画のために書き直された。だからここには映画の内容について詳しくは記されていない)。

〔画像リンク〕ホワイトボード

ホワイトボードを書く際に、私はそこを、ジェレミー・レナー演ずる人物やその同僚が、宇宙船に関する注目すべきアイデアやそれらに関連する公式を記録する場所として想像した。しばらくすると、すっかり物理学的事実と推論に満ちた物語となった。

解読したものがこれだ。

〔画像リンク〕ホワイトボードの解読

  1. たぶん宇宙船は、奇妙な(ここでは下手な絵だが)ラトルバックのような形をしている。なぜなら、移動するにつれて回転し、時空に重力波を発生させるから。
  2. たぶん宇宙船の形状は、何らかの形で重力放射のあるパターンの最大強度を生成するように最適化される。
  3. これは、変化する質量分布によって放出される重力放射強度についてのアインシュタイン元の公式Qijは分布の四重極モーメントであり、示した積分で計算される。
  4. これら高次の項は、球面調和関数によって重み付けされた宇宙船の質量密度ρ(Ω)積分で計算される高次の多重極モーメントに依存する。
  5. 重力波は、4次元テンソルhμνで表される時空構造の摂動につながる。
  6. たぶん宇宙船は、どうにかしてこの重力波の影響により推進し、時空を「泳ぐ」。
  7. 宇宙船の表面の周りには、時空構造に「重力乱流」が発生しており、流体中を移動する物体の周りに見える乱流のようなべき乗則相関がある(あるいは宇宙船がその周りの「時空を沸かす」……)。
  8. これは、固有時τの関数として、スピンテンソル一般相対性理論でどのように発展するかについてのパパペトルー方程式
  9. 物体がどのように(湾曲していることもある)時空内で移動するかを記述する測地線の運動方程式。Γは時空の構造によって決定されるクリストッフェル記号。そしてそう、Wolfram言語の関数「NDSolve」を使って、このような方程式を解くことができる。
  10. アインシュタインの重力場方程式は、移動する質量によって生成される(この場は質量の動きを決定し、それは再び場を変化させるために反応する)。
  11. 別のアイデアとして、宇宙船は何らかの形で負の質量、または少なくとも負の圧力を持っているかもしれない。光子気体の圧力は1/3ρである。ダークエネルギーの最も一般的なモデルでは圧力が-ρとなる。
  12. 完全流体の相対論的計算に現れる質量、圧力、速度の組み合わせを指定するエネルギーモーメント・テンソルの式。
  13. たぶん、宇宙船は時空構造が異なる「泡(バブル)」を表しているのかもしれない(矢印は、すでにホワイトボードに描かれている模式的な宇宙船の形状を指している)。
  14. 空間計量テンソルから計算されるように、宇宙船の形状に関するクリストッフェル記号(「接束上の接続係数」)について特別なものはあるか?
  15. 重力波は、特殊相対性理論がはたらく平坦なミンコフスキー空間から見た、時空の計量に対する摂動として記述できる。
  16. 波の最初の「非線形」効果を考慮した、重力波の伝搬方程式。
  17. 重力子のような、ボース・アインシュタイン粒子の気体中の運動(「輸送」)と衝突を記述する、相対論的ボルツマン方程式
  18. 遠大なアイデア:光子ではなく重力子を使ってレーザーを作る方法があるかも。おそらくそれが宇宙船の仕組み。
  19. レーザーは量子現象だ。これは空洞内の重力子の自己相互作用のファインマン図(光子には、この種の直接的な「非線形」自己相互作用はない)。
  20. どうすれば重力子用の鏡を作れるのか? おそらく、プランクスケールに至るまで慎重に構築された微細構造を持つ「メタマテリアル」を作れるのだろう。
  21. レーザーは無限の数の光子の重ね合わせからなるコヒーレント状態を伴い、これは無限の入れ子にされた生成演算子を、場の量子論の真空に適用することで形成される。
  22. 上のファインマン図に対応した、重力子レーザーに関連する可能性がある、重力子の結合状態(実際に存在するかは不明)のベーテ・サルピータ型の自己無撞着方程式
  23. 量子重力に対する摂動近似における重力子間の基本的な非線形相互作用。
  24. 量子効果からの一般相対性理論アインシュタイン・ヒルベルト作用に対するありえそうな修正項。

ぎゃー、私にはこの説明それ自体がエイリアンの言語だと思われそうなのがわかる。これでも、実は「全力の物理会話」と比べればかなりぬるいのだ。だが、ホワイトボード上の「物理の物語」を少し説明しよう。

それは宇宙船の明白な特徴から始まる。かなり珍しい、その非対称な形。ある方向に回転させるとその後に方向を変えるコマ、よくあるラトルバックのようにも少し見える*12。だから私はこう考えた。おそらく宇宙船は回転するのだ。そう、巨大な(非球状の)物体が回転すると重力波が発生する。これは通常、検出するにはあまりに途方もなく弱いのだが、それでも物体が十分に大質量か、または十分に速く回転していれば、相当な程度になる。そして実際に昨年末、30年間の探索の果てに、互いの周りを回って合体した2つのブラックホールからの重力波が検出されたが、これは宇宙全体の3分の1から検出できるほどに強かった(加速された電荷が電磁波を発生させるように、加速された質量は重力波を発生させる)。

では、宇宙船がどうにかして重力波をたくさん生成するほど速く回転しているとしよう。そして、もし何らかの形で(おそらく宇宙船自体の動きを使ってか)、この重力波を小さな領域に閉じ込めることができたとしたら? すると波はそれ自身と干渉するだろう。だがレーザーのように波がコヒーレントに〔位相が揃って〕増幅されたらどうだろうか? そうなれば波はより強くなり、必然的に宇宙船の動きへ大きな影響を与えるようになって、おそらく時空の中を押し進めるようなかたちになる。

しかし、なぜ重力波が増幅されるべきなのか? 光子(「光の粒子」)を使用する通常のレーザーでは、材料にエネルギーを注入することで、常に新しい光子を連続的に作り出す必要がある。光子はいわゆるボース・アインシュタイン粒子(「ボソン」)なので、これはつまりすべて〔の光子〕が同じことをする傾向があり、レーザーの光がコヒーレントな〔位相の揃った〕波として出てくることを意味する(電子はフェルミオンなので、これはつまり〔他の電子と〕同じことを決してしないため、物質を安定化させるのに不可欠なパウリの排他原理などにつながる)。

光の波が光子で構成されていると考えることができるように、重力波重力子で構成されていると考えられる(ただし公平のために記すが、まだ完全に一致する〔理論内で整合性が取れている〕重力子の理論はない)。光子は相互に直接作用しない。基本的に光子は電子のように電荷を持つものと相互作用するのだが、光子自体は電荷を持たないからだ。一方で、重力子は相互に直接作用する。基本的に重力子はあらゆる種類のエネルギーを持つものと相互作用するうえ、重力子自身がエネルギーを持てるからだ。

この種の非線形相互作用は激しい影響を与えることがある。たとえば、量子色力学QCD)におけるグルーオンは、陽子のような粒子の内部に永久に閉じ込められ、それらが一緒に「接着(グルー)」された状態に保たれる効果をもたらす非線形の相互作用を持っている。重力子間の非線形相互作用がどうなるのかはまったく明らかではない。ここで考えているアイデアは、重力子間の非線形相互作用が「重力子レーザー」につながるかもしれないというものだ。

ホワイトボードの上部にある数式だが、基本的には重力波の生成と影響に関するものだ。下部は主に重力子とその相互作用に関するものである。上部にある数式は、基本的にすべてアインシュタイン一般相対性理論(物理学で100年間使われている重力理論)と関連している。下部の数式は、重力子とその相互作用に対する古典的および量子的アプローチの混合物だ。これらの図はいわゆるファインマン図であり、波線は時空を伝播する重力子を模式的に表している。

私は「重力子レーザー」が可能かどうか、またはそれがどのように機能するかについては現実的なアイデアを持たない。しかし通常の光子レーザーでは、鏡として作用する壁をもつ何らかの空洞内部を、光子がたえず効率的に反射する。残念なことに、重力場の遮蔽方法が分からないのと同じで、重力子を反射する鏡を作る方法はわからない(ただ、暗黒物質がもし存在したら、それは重力場を遮蔽するようなものとなる*13)。このホワイトボードでは、重力子ミラーになる「メタマテリアル」を作る奇妙な方法が、10-34mの(重力における量子効果が基本的に重要になる)プランクスケールで存在するというのを考えてみた(これとは別に、重力子レーザーは自由電子レーザーのように空洞を必要とせずはたらくという可能性もある)。

ここで思い出してほしい。ホワイトボードのアイデアは、いわば政府の研究所から引き抜かれた典型的な優れた物理学者が、映画内の状況に直面したとき考えるであろうことを想像して書かれたものだ。私が個人的に恒星間宇宙船の作り方について思いついた理論よりも「旧来型」のものとなっている。ただしこれは、私の理論が、物理学のコミュニティ内ではまだ主流になっていない、私の考えている基礎物理のはたらきに依拠しているからだ。

恒星間航行の正しい理論は何だろう? 言うまでもないことだが、私にはわからない。もし映画のために発明した主な理論かホワイトボードに書いた理論のどちらかがそのまま正しいとなったら、私は驚くだろう。しかし誰にも分からない。もちろん、宇宙船に乗ったエイリアンが現れて恒星間航行が可能なことを示してくれたら、非常に有益なのだが……。

地球におけるあなたの目的は何?

エイリアンが地球上に出現した場合、明らかに大きな疑問の1つはこれだろう。「なぜあなたはここにいるのか? 目的は何なのか?」それは『メッセージ』の登場人物がよく話していることだ。そしてクリストファーと私がセットを訪れたとき、私たちはありえそうな回答のリストを作るように頼まれた。それは〔映画内の〕ホワイトボードやクリップボードの内容として使われる。私たちが思いついたのは以下のとおり。

〔画像リンク〕地球におけるあなたの目的は何?

前述のように、目的の概念全体は、文化やその他の背景に結びついているものだ。そして、人類の歴史のさまざまな時代において、このリストにどんな目的が並べられるか考えるのは面白い。将来的に人類やAIがどのような目的を抱くのか想像するのも面白い。おそらく私はかなり悲観的なほうだが、むしろ未来の人類、AI、およびエイリアンにとって、その答えが非常に多くの場合、作成可能な計算宇宙の中にあるものになるだろうと予想している。現在のわれわれは、〔作成可能な計算宇宙の中における〕言葉や概念を持つことにはほど遠い。

そして現在、映画となった……

映画は本当に良い出来となった。初期の反応は素晴らしいように見える……こういったものを見るのは楽しい(そう、これはクリストファーのコードだ)。

『メッセージ』に携わることは面白くて刺激的だった。それにより、私の鑑賞するあらゆる映画の制作に関わるものについて、そして科学と魅力的なフィクションの融合に必要なことについて、私はさらに少し理解を深めた。また、それまで尋ねてきことを超えるような科学的な質問をするようにもなった。そしてそれは私が興味を持つあらゆることに関連しているのだ。

しかしこのすべてに渡り、私は「これがもし現実で、エイリアンが地球に来たらどうなるのか?」と気にせずにはいられない。私は『メッセージ』に関わることで、いささかなりの準備ができたと考えたい。そしてまさに彼らの宇宙船が巨大な黒いラトルバックのようだったなら、私たちはすでに、そのための幾つかの良いWolfram言語のコードを持っているのだが……。

関連リンク

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

*1:ソーン氏は1984年に重力波検出実験のLIGOプロジェクトを結成した中心メンバーのひとり。また、『インターステラー』の企画はソーン氏とその友人の映画プロデューサーによる発案で、初期案ではLIGO土星近傍に大きな重力波源を発見するという話だった。参考:物理談話会 『インターステラー』 : 大栗博司のブログ

*2:『奇蹟がくれた数式』は映画の企画から完成まで10年間かかっている。参考:TIFF: 'Man Who Knew Infinity' Director Says Film Was "10 Years in the Making" | Hollywood Reporter

*3:変分原理。参考:前野[いろもの物理学者]昌弘:SF短編書評・感想のページQ&A 2004年に回答した質問 - 科学と技術の諸相

*4:映画で「consulting programmer」としてクレジットされているクリストファー氏だが、どうやら当時15-16歳くらいだったと思われる。参考:Christopher Wolfram | LinkedIn

*5:Wolfram言語には、コードやテキスト、数式、表、画像、アニメーションなどを混在させて表示できる「ノートブック」というドキュメント処理機能が組み込まれている。参考:ノートブックの基本—Wolfram言語ドキュメント

*6:レーザー推進で数千個もの超小型探査機をアルファ・ケンタウリまで送り込む計画が2016年に発表されている。参考:ブレークスルー・スターショット - Wikipedia

*7:全ての作成可能なプログラムの集合を「計算宇宙」と呼んでいるらしい。参考:Wolfram Science:計算宇宙を使って新しい種類のテクノロジーを生み出す

*8:ちなみに、ガウスがこの提案をしたという根拠は怪しいらしい。参考:Gauss's Pythagorean right triangle proposal - Wikipedia

*9:LINCOSは地球外知的生命に理解しやすいよう設計された人工言語で、1960年に提唱された。参考:Lincos - Wikipedia

*10:数学における自明性というもので、非自明、つまりここでは縦横の辺をなす数がそれぞれ1より大きければ、長方形の辺をなす数が約数になるので素数とはならない。参考:素数とは

*11:おそらく素数について、ただ数を列挙する以上のこと(たとえば定理など)を表現しようとすると図示するのが難しくなるということだと思われる。

*12:宇宙船をデザインしたパトリス・ヴェルメット氏によれば、原作にある球形は既出作品があるという理由から監督の意向で細長い形状となり、小惑星エウノミアの形にも触発されたらしい。参考:'Arrival' Production Designer Reveals How to Create an Entirely New Type of Flying Saucer | Hollywood Reporter

*13:暗黒物質は光と反応しないことを除けばただの物質なので、普通の物質が重力場を遮蔽しないのに暗黒物質なら遮蔽するというのは考えにくく、この記述はおかしい。標準的ではない暗黒物質の理論が念頭にあるのかもしれない。

「プラネテス テクニカルファイル」リスト

アニメ『プラネテス』のコンセプトデザイン・設定考証を担当した小倉信也氏が、作中世界の設定解説をした「ΠΛΑΝΗΤΕΣ TECHNICAL FILE(プラネテス テクニカルファイル)」という月刊モデルグラフィックス誌の連載記事がある。

同誌には、情報・コラム・ニュース等のページをまとめている「MG Mega Mix(エムジーメガミックス)」欄があり、そこで2004年6月号(No.235)~2005年2月号(No.243)まで、全9回連載された。基本は見開きの2ページ構成だが、初回のみ1ページ。

  • 「Vol.1:DS12トイボックス編・1」2004年6月号(No.235)p.43
  • 「Vol.2:DS12トイボックス編・2」2004年7月号(No.236)pp.42-43
  • 「Vol.3:宇宙服編」2004年8月号(No.237)pp.42-43
  • 「Vol.4:フィッシュボーン」2004年9月号(No.238)pp.40-41
  • 「Vol.5:DS12TOYBOX2編・1」2004年10月号(No.239)pp.50-51
  • 「Vol.6:DS12TOYBOX2編・2」2004年11月号(No.240)pp.46-47
  • 「Vol.7:フォン・ブラウン号編・1」2004年12月号(No.241)pp.50-51
  • 「Vol.8:フォン・ブラウン号・2&月開発」2005年1月号(No.242)pp.54-55
  • 「最終回:軌道宇宙港・ISPV-7編」2005年2月号(No.243)pp.42-43

最近自炊したのでついでに掲載情報をまとめてみた。誌面を小さく紹介するとこんな感じ。内容は宇宙SFを考える際の参考資料としても十分使える。

なお、上記の連載とは無関係だが、同誌2004年2月号(No.231)には5ページに渡ってDS-12トイボックスの模型作例(二宮茂幸・1/200フルスクラッチビルド)が、2004年5月号(No.234)にはフィッシュボーン(同・1/48フルスクラッチビルド)が4ページ(pp.69-72)掲載されている。

その他

アニメ版『プラネテス』の設定周りについては、今でも公式サイトが残されているので、そこで公開されている設定資料や小倉氏のインタビュー等が閲覧できる。

あとは以下のアニメ雑誌記事と、コミックスサイズのムック本『ふたごのプラネテス』にも多少掲載されている。ニュータイプの記事は小倉氏らのコメント付き。

こちらでは『EMOTION the Best プラネテス DVD-BOX』発売記念としてネットラジオ『そこ☆あに』にて特集された回のアーカイブを聴くことができる(2012年3月25日)。

以下は2012年8月のアニマックス再放送時における小倉氏の実況解説。


ふたごのプラネテス (モーニングKCピース)

ふたごのプラネテス (モーニングKCピース)

プラッツ 1/500 X-7 プラネテス プラモデル

プラッツ 1/500 X-7 プラネテス プラモデル

『本の雑誌』「世界の魔窟から」リスト

写真とイラストでさまざまな「魔窟」を紹介していた不定期連載(?)企画。全6回+α。

  • 第1回 日下三蔵邸・書庫編(2008年7月号/301号 pp.108-111)
    • 横須賀市在住・日下三蔵40歳が本で車を壊したというのは本当か!?
  • 第2回 日下三蔵邸・自宅編(2008年8月号/302号 pp.84-87)
    • ミステリ書評家が原稿を執筆する姿勢を問われる時!の巻
  • 第3回 細谷正充邸(2008年10月号/304号 pp.24-28)
    • 四十過ぎたら“魔窟”じゃダメでしょ。勝ち組書評家に訊く蔵書整理の秘訣!
  • 第4回 小飼弾氏の本棚(2009年3月号/309号 pp.22-25)
    • タワーマンション最上階リビングの壁一面を本棚にした男
  • 第5回 桜庭一樹氏の本棚(2009年4月号/310号 pp.16-19)
    • 非常時の持ち出し順位が決定済み!? 直木賞作家・桜庭一樹の本棚
  • 第6回 山本弘の仕事部屋(2010年3月号/321号 pp.66-69)
    • 論理の隙間には付箋、本棚の隙間には怪獣とロボと美少女だ!
  • 特集=世界の魔窟からスペシャル(2010年10月号/328号 pp.4-23)
    • 杉作さんちに遊びに行こう!(杉作J太郎邸)
    • 魔窟脱出への道(魔窟の解消法=荻原魚雷/バベルの図書館への道=円城塔)
    • 魔窟三態(機能性魔窟――神谷竜介/床板に忍び寄る危機――林カケ子/九十九・九九平米の楽園――松坂健)
    • 我が家の魔窟自慢!

山本弘氏の回では、『地球移動作戦』執筆のため地球を動かす物理計算を記したノートが紹介されているのが興味深かったが、誌面に掲載された写真は不鮮明なのが残念。なお、このときの科学設定の苦労については、当時の野尻ボードで多少うかがうことができる(その後に小飼弾氏の番組内で、さすがに面倒なので月を動かす計算については省略したとの発言があった)。

『本の雑誌』なので書斎紹介記事はこの他にも色々とあると思うのだが、とりあえず知っているものだけ以下にまとめておく。

  • 特集=絶景書斎を巡る旅!(2014年7月号/373号 pp.1-31)
  • 特集=本を処分する100の方法!(2015年3月号/381号 pp.12-38)
    • 特集内記事「おじさん三人組、日下三蔵邸に行く!」が白眉。この号は巻頭グラビア記事「本棚が見たい!」でも日下三蔵氏の書斎(あれを書斎と呼べるのならばだが)がカラーで紹介されている。
  • 北原尚彦「魔窟のベスト10 分け入っても分け入っても本の山」(2016年10月号/400号 pp.22-23)
    • 「特集=400号スペシャル なんでもベスト10!」内の記事。この号の巻頭には鏡明氏の書斎が紹介されており、そちらも圧巻。

喜国雅彦〈本棚探偵〉シリーズを読んだ際にも思ったことだが、なんといっても日下三蔵邸のイカレ具合が凄まじい(追記:こちらの画像も参考)。

本棚探偵の回想 (双葉文庫)

本棚探偵の回想 (双葉文庫)