LightWave で NPR:光に影響された線の強弱

LightWave において、光源の方向や位置をもとにして線に強弱をつける方法について。

事前準備

あらかじめ、Layout のビュー表示をVPRにしておく。そしてオブジェクトとカメラの位置を決める。さらに、背景を標準の黒から白にしておく。Layout 画面左上の[ウィンドウ]>[背景オプション](ショートカット【Ctrl+F5】)>[特殊効果]ウィンドウ>[背景]タブ>[背景色]で、カラーボックスをクリックして白 (RGB: 255, 255, 255) に設定。済んだら[特殊効果]ウィンドウは閉じてよい。

さらに、出す輪郭線の種類を決めておく。左下で[オブジェクト]を選択して右の[プロパティ]から[オブジェクトのアイテムプロパティ]ウィンドウを出し(ショートカット【p】)、[輪郭(Edges)]タブの欲しい輪郭線項目にチェックを入れて有効化する。線の太さは任意だが、太めの方が分かりやすい。ウィンドウの上部にある[現在のオブジェクト]から続けて選択して、すべてのオブジェクトごとに欲しい輪郭線項目を設定する。しかし、このままだと均一な線になってしまうので、この線に手を加えていく。

[輪郭(Edges)]タブの[ノード編集]ボタン右隣のチェックボックスをオンにし、[ノード編集]ボタンを押して[Node Editor]を開く。

方法その1

[Node Editor]の左に並んだ中から[Layers]>[Scalar Layer]を選択して、[Scalar Layer]ノードを出す。

[Scalar Layer]ノードの右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Edge]ノードに並んでいる[Silhouette Edges Taper]や[Sharp Creases Taper]など、手を加えたい線の項の[~Taper]に矢印をそれぞれ接続していく。

[Scalar Layer]ノードをクリックして編集パネルを開く。[レイヤー種(Layer Type)]を[グラディエント(Gradient)]にする。[入力パラメータ(Input Parameter)]を[Light Incidence](ライトの入射)にして、[ライト(Light)]で適用するライトを選択。

グラディエントバー(左にある縦長の帯)をクリックしてグラディエントのキーを1つ作成する。キーの[値(Value)]は「0.01」、[パラメータ(Parameter)]は「90.0」にして、白から黒へのグラデーションを設定する。これで明るい部分の線が細くなる。

【F9】でレンダリング

方法その2

[Node Editor]の左に並んだ中から[Shaders]>[Diffuse]>[Lambert]を選択し、作業領域に[Lambert]ノードを追加する。Lambert というのはランバート反射のことで、面から光源を指すベクトルと法線ベクトルとの内積ドット積)を使って計算される。要するに、光の当たり具合を0-1の階調で表現できる。

なお、[Lambert]ノードは LightWave 2018 で消えてしまったらしいが、配布プラグイン「Single Light Lambert」で代替できる。

この[Lambert]ノードの[Color]出力を[Edge]ノードの[~Taper]に繋いでみると分かるが、光が当たっている方が太く、当たっていない方が細い線になる。これは光の当たり度合いがそのまま線の太さに入力されるためだ。これを逆にして、光が当たっている方を細く、当たっていない方を太くしたい。そこで使うのが、入力値を反転させる[Invert]ノードである。[Math]>[Scalar]>[Invert]で[Invert]ノードを出す。

[Lambert]ノードの[Color]出力を[Invert]ノードの[In]に繋ぎ、[Invert]ノードの[Out]から、[Edge]ノードの任意の[~Taper]へと繋いでいく。これで光が当たっている方を細くすることができる。なお、[~Opacity]へ繋げば光が当たっている方の輪郭線の不透明度も下がるので、光の影響を受けた濃淡を線につけられる。

【F9】でレンダリング

直方体の輪郭線で妙に太くなっている箇所があるが、おそらくこれは影のせいだろうと思い、[オブジェクトのアイテムプロパティ]>[レンダリング]タブ>[影を落とす]と[影を受ける]のチェックを外して再レンダリングすると消えた。

ちなみに、[Shaders]>[Diffuse]>[OrenNayer]で出る[OrenNayer]ノードがオーレン・ネイヤー反射というランバート反射の改良版らしく、こちらを使っても同じようなことができる。

方法その3

[Node Editor]の左に並んだ中から[Item Info]>[Light Info]ノードを出す。ライトの設定を出力するノード。

[Light Info]ノードをクリックして編集パネルを開き、[Light]で適用するライトを選択して閉じる。

[Gradient]>[Tools]>[Incidence]ノードを出す。このノードにベクトルを入力すると、そのベクトルと現在のヒットポイント(光線が当たった位置)間の角度が出力される。

[Light Info]ノードの[Direction]から、[Incidence]ノードの[Vector]へと繋ぐ。この[Direction(方向)]というのは、ライトの方向を表すベクトルを出力する。

[Gradient]>[Gradient]ノードを出す。

クリックして編集パネルを開く。グラディエントバー(左にある縦長の帯)をクリックして下方にキーを1つ作成する。色は黒のままで、[Position]はとりあえず「1.0」に。そして上のキーを選択したら[Color]のカラーボックスから色を白にして、グラディエントバーの上を白、下を黒にする。

[Incidence]ノードの[Result]から、[Gradient]ノードの[Input]へ繋ぎ、[Gradient]ノードの[Color]を[Edge]ノードにある任意の[~Taper]へと繋ぐ。

【F9】でレンダリング

この方法の場合、[Gradient]ノードを開いてキー位置をずらしたり、任意の位置に新たなキーを追加することで、線の抜き具合を調整できる。

例えば上のような位置にキーを追加した場合、このような画になる。

線に粗を入れる

また、線に粗を入れたくば、[Turbulent Noise]ノード([3D Textures]>[Turbulent Noise])などのノイズ系テクスチャのノードを利用すればよい。

このとき使うのが[Multiply]ノード([Math]>[Scalar]>[Multiply])。これを使えば、ひとつのスカラー値を他の値で乗算できる。要するにノードの出力結果を掛け合わせられる。

方法その1なら[Scalar Layer]ノードの[Alpha]から、方法その2なら[Invert]ノードの[Out]から、方法その3なら[Gradient]ノードの[Color]から[Multiply]ノードの入力へ繋ぎ、ノイズ系テクスチャのノードをもうひとつの入力に繋ぐ。そして[Multiply]ノードの[Result]を[Edge]ノードにある任意の[~Taper]へと繋げばよい。


以上、調べた限りの方法を紹介したが、これ以外にもあるかもしれない。どれも球体や曲面の場合はよさそうだが、それ以外では線を太くすると角部分にはみ出してしまうのが難点。以下の記事のように、ノイズ系テクスチャのノードを利用した手描き風の粗い表現でなら使えるかもしれない。

LightWave で NPR:筆描き表現を目指して

再挑戦

LightWave4年前に挫折した表現のリベンジ。ノンフォトリアリスティック・レンダリング (Non-Photorealistic Rendering; NPR) として、3DCGで水墨画風というか、筆で描いたようなモノクロ画を出力する試み。

もともとは以下の v11.5 機能紹介動画で水墨画風を実現しているように見えたので、どうすればこれができるのかと思ったのがきっかけ。

この動画で使われているのは[Turbulent Noise]ノードで、これを[Edge]ノードの[Silhouette Edges Opacity]へと繋げていることまでは動画の画面から見て取れる。そして「背景を白にしてオクルージョンノードと組み合わせることで、水墨画のような表現もおこなうことができます」と解説されており、どうやらサーフェイスでのノード編集も必要なようなのだが、この動画だけでは詳細が不明だった。そこで LightWave 日本版販売元である D-STORM のテクニカルサポートへ問い合わせてみたところ、解説付きでデータを頂けた(感謝)。以下はエッジのノード編集設定。

そこで分かったが、ここでは[Occulusion2]ノード([Shaders]>[Diffuse]>[Occulusion2])を[Surface]ノードの[Color]入力へ繋げている。[Occulusion2]ノードの編集パネルでは、[Color Mapping]を[Backdrop]にしてある。

そして[レンダー]タブ>[オプション]>[レンダーオプション](ショートカット【Ctrl+p】)>[大域照明]タブの[ラジオシティ有効]にチェックを入れて、ラジオシティを利用するようにと解説されていた。だが、受け取ったデータでレンダリングしてみたところ問題が生じた。

……あまり水墨画っぽくない。さらに言えば、筆で描いたようにもそこまで見えない。画像の上方が薄くなっているのは、よくわからないが何かの設定が原因だろう。しかしこの際それは問題ではない。

動画内でも見られるVPR (Viewport Preview Renderer) 、つまり簡易レンダリング画面ではざらついた様子でかなり好ましい印象なのだが、実際にレンダリングしてみると「これじゃない」感じを受けてしまった。[Occulusion2]ノードを使った薄墨表現にあたる部分も単なるぼけたグレーに見えてしまい、墨っぽい粒子感は消えている。

そこで、もう少し「それっぽい」表現ができないか試行錯誤してみた結果、最終的にこのような画を出力することができた。

簡単な直方体(モノリス)と球、歯車、そして以前に紹介し再配布している『終りなき戦い』のコンバットシェル(改変版)を利用している。なお、テクスチャは面倒なので使用していない。ソフトウェアの使用バージョンは LightWave 2015.3 日本語版である。以下にその Layout における手順を記しておく。

手順

あらかじめ、Layout のビュー表示をVPRにしておく。そしてオブジェクトとカメラの位置を決める。さらに、背景を標準の黒から白にしておく。Layout 画面左上の[ウィンドウ]>[背景オプション](ショートカット【Ctrl+F5】)>[特殊効果]ウィンドウ>[背景]タブ>[背景色]で、カラーボックスをクリックして白 (RGB: 255, 255, 255) に設定。済んだら[特殊効果]ウィンドウは閉じてよい。

出したいエッジを決める

まず、出す輪郭線の種類を決める。左下で[オブジェクト]を選択して右の[プロパティ]から[オブジェクトのアイテムプロパティ]ウィンドウを出し(ショートカット【p】)、[輪郭(Edges)]タブの欲しい輪郭線項目にチェックを入れて有効化する。線の太さは任意だが、太めの方が分かりやすいので、よく分からなければ20-25ピクセル程度にしてみるとよいだろう。ウィンドウの上部にある[現在のオブジェクト]から続けて選択して、すべてのオブジェクトごとに欲しい輪郭線項目を設定する。しかし、このままだと均一な線になってしまうので、この線に手を加えていく。

ところで、曲面については浅めの角度でスムージング設定していても、分割数が低いとカメラ距離が近い場合にカクついた輪郭線が出力されるので、多少は細かく割ったもののほうがよい。今回の例でいえば、球体は[サイド]が「48」、[分割数]が「24」のボールとして作成し、コンバットシェル含めてサーフェイスの[スムースしきい値]は「30.0°」にしてある。[サイド]が「24」、[分割数]が「12」だとカクカクな輪郭の球になった。

輪郭線のノード編集

[輪郭(Edges)]タブの[ノード編集]ボタン右隣のチェックボックスをオンにし、[ノード編集]ボタンを押して[Node Editor]を開く。

左に並んだ中から[3D Textures(3Dテクスチャ)]>[Turbulent Noise]を選択して、[Turbulent Noise]ノードを出す。Turbulent は「乱れの、乱流の」という意味。この[Turbulent Noise]ノードを使うと、フラクタルノイズのプロシージャルテクスチャ(計算で自動生成されるテクスチャ)を追加できる。要するに、ここでは線に手描きっぽい粗(「太さの乱れ」や「濃淡」)を加えられるということである*1

[Turbulent Noise]ノードの右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Edge]ノードに並んでいる[Silhouette Edges Taper]と[Silhouette Edges Opacity]、[Sharp Creases Taper]と[Sharp Creases Opacity]など、手を加えたい線の項の[~Taper]と[~Opacity]に矢印をそれぞれ接続していく。ちなみに今回の例では[Intersection Edges Opacity(交差エッジの不透明度)]に繋げていないが、これは結果を見たら交差エッジの線が消えていたので、それを出すためにあえて外してある。

なお、[Edge]ノードのパネル表記と日本語訳との対応は以下。Silhouette Edges 以下それぞれに Taper(先細り)、Color(色)、Opacity(不透明度)等の項目がついて並んでいる。

  • Lines Taper:点/線の太さ
    • ここへの入力は0-1の範囲に値を変更されて「点/線の太さ」に乗算される。つまりエッジに対する影響ではなく、影響するのは1頂点と2頂点ポリゴン。
  • Silhouette Edges:シルエットエッジ
  • Unshared Edges:共有しないエッジ
  • Sharp Creases:鋭角の折り目
  • Surface Borders:サーフェイス境界
  • Patch Borders:パッチ境界
  • Other Edges:その他エッジ
  • Intersection Edges:交差エッジ
    • Intersection Edges Angle:交差エッジ角度

その後、[Turbulent Noise]ノード自体をクリックして編集パネルを出し、VPRを見ながら細かな設定を詰めていく。[Blending]は「Multiply(乗算)」にして、[Opacity(不透明度)]は100%だと薄く、200%だと濃い気がしたので150%にした。[Blending]で設定するブレンドモード (Blending Mode) の詳細についてはリファレンスマニュアル参照のこと。下部の[Scale(スケール)]値もいじる。

[Turbulent Noise]ノードの編集パネル中央に並んでいるのはフラクタル関係のパラメータ。以下の説明は相当ざっくりなので、詳細はリファレンスマニュアル参照のこと。

  • Increment(増加、増分):連続する細部間の振幅、つまり強度。
  • Lacunarity(空隙性):連続する細部間における穴や隙間の変化量。高くするとフラクタルに隙間や穴が多くなる。
  • Octaves(オクターブ):Lacunarity が細部間の変化量を決めるのに対して、Octaves は細部の数を決める。「1」のときは基本パターンのみが使われ、増やすと[Lacunarity]値に合わせてサイズを変えたパターンが重ねられていく。
  • Noise Type(ノイズ種):パーリンノイズ、バリューノイズ、グラディエントノイズ等々といったノイズ形式を決める。
  • Bump Amplitude(バンプ振幅):よくわからない。

VPRのビューは全表示にした方が分かりやすいが、あくまでプレビューなので、最終的には「1枚試しにレンダリング→ノードの入力値を微調整」という作業をして最適な値を見つければよい。

ちなみに、[Turbulent Noise]以外でもノイズ系の3Dテクスチャであれば似たような効果を得られる。例えばよく似た[Turbulence(乱流)]ノード、そして[Crumple(しわ)]ノード、[MultiFractal]ノード、[Crackle(ひび)]ノードなど、色々と試してみると面白いだろう。

別のノードでも可能

なお、[Turbulent Noise]ノードではなく、[Scalar Layer]ノードを使ってもおそらく同様のことが設定できるようなのでメモしておく。

[Layers]>[Scalar Layer]を選択して、[Scalar Layer]ノードを出したら、右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Edge]ノードに並んでいる[Silhouette Edges Taper]と[Silhouette Edges Opacity]、[Sharp Creases Taper]と[Sharp Creases Opacity]など、手を加えたい線の項の[~Taper]と[~Opacity]に矢印をそれぞれ接続していく。

[Scalar Layer]ノードをクリックして編集パネルを開く。[レイヤー種]を[プロシージャル]にする。[プロシージャル種]で[Turbulent Noise]を選択すると、前述した[Turbulent Noise]ノードと同じ設定項目が出るので、[増加]、[空隙性]、[オクターブ]、[ノイズ種]等を設定し、[スケール]もいじる。上と同じならやはり[ブレンドモード]は「乗算」にして、[レイヤー不透明度]は150%。[Texture Value(テクスチャ値)]は、テクスチャパターンの最もはっきりした部分における値。正の数も負の数も指定可能。


サーフェイスを設定する

輪郭線の[ノード編集]パネルを閉じ、サーフェイスのノード編集に移る。[色・質感編集]>[Surface Editor](ショートカット【F5】)を開いて任意のサーフェイスを選択し、[基本]タブの一番上[ノード編集]ボタン右隣のチェックボックスをオンにし、[ノード編集]ボタンをクリックして[Node Editor]を開く。なお、今回は簡略化のため、コンバットシェルのサーフェイスはすべて1つにまとめている。

ここでサーフェイスを白くする。ひとつの方法としては、サーフェイスの[自己発光度]を100%にすること。[Surface Editor]にて[自己発光度]を100%に変更してもよいが、すでに設定してあるサーフェイス設定をこのために変えたくなければ、[Surface]ノードを使うのがよい。ノード欄で[Constant]>[Scalar]を選択し、[Scalar]ノードを出す。ダブルクリックし、値が「1.0」になっていることを確認して閉じたら、[Scalar]ノード右端の緑の丸をクリックし、[Surface]ノードの[Luminosity]へとドラッグして繋ぐ。これでサーフェイスの[自己発光度]が 100% になり、真っ白になる。

もうひとつの方法として、[レンダー]タブ>[オプション]>[レンダーオプション](ショートカット【Ctrl+p】)>[大域照明]タブ>[ラジオシティ有効]にチェックを入れる手法もある。ラジオシティとは、サーフェイスに当たった光を乱反射させて、それを現実世界と同じく間接光の光源にするという効果。レンダリング時間は長くなるのだが、今回は自己発光度をいじるよりもラジオシティを使った方が好みの画が出力できたため、後者にした。

さて、陰となる部分に薄墨っぽい表現を加えたいので、ノード編集でアンビエントオクルージョン機能を使う。アンビエントオクルージョンとは、シーン内の「どの部分が環境光 (ambient) をどの程度さえぎられる (occlusion) か」を計算して陰影を作るレンダリング方法。裂け目・折り目のような凹部では環境光がさえぎられるため、陰影が強めに出る。

今回はフリーで配布されているアンビエントオクルージョンノードのプラグイン「SG_AmbOccNode」を利用した。標準搭載の[Occlusion II]ノード([Shaders]>[Diffuse]>[Occlusion II])でも似たような結果を得られるのだが、出力画を比較した結果、こちらの方が好ましかった。調べると標準搭載のオクルージョンノードよりも陰部分のノイズが目立たないらしいが、今回はあまり関係ない。ただしこのノード、いい加減な繋ぎ方などをするとクラッシュするので注意。

ダウンロードしたらいつものように[プラグイン追加]で導入すると、[ノード編集]パネルの[Shaders]>[Diffuse]に[SG_AmbOccNode]が追加され、ノードとして利用できるようになる。もし追加されない場合は再起動してみること。[SG_AmbOccNode]ノードを出したら、その[1-Occlusion]出力を[Surface]ノードの[Color]もしくは[Diffuse Shading]に繋ぐ。ノードをクリックして編集パネルを開く。

  • Rays:光線の数。この値は高くすると陰のフチがボケて滑らかになるので、墨のようにざらついた粒子感を出すためには低くすればよい。なお、0にしてみたらクラッシュした。今回は5にしてみた。
  • Angle:光線の最大散乱角。この値が高いと陰の面積が広がるので全体がグレーになる。ここでは下げ、5°にした。
  • Range:光線の最大範囲。光線がこの値よりも離れた距離のサーフェイスに当たった場合は、当たってないように扱われる。この値を下げると陰が小さく薄くなるので、今回は0.5-1.0m程度がよい感じだった。

VPRとレンダリングもして比較したら、[Surface]ノードの入力は[Diffuse Shading]ではなく[Color]の方が好みの画だったので、そちらに決めた。

レンダリング

いつものようにショートカット【F9】でレンダリングして、画像に出力。

ふと、オブジェクトをまとめて360°回転させる動画にしてみようと思い立ったのでやってみた。自分はふだん静止画のみで動画作成しないので、手順をメモしておく。

左下[アイテム]でオブジェクトを選択し、アイテム名の右横にあるボタンを押してアイテムピッカーウィンドウを出したら、【Shift】を押しながらオブジェクトを複数まとめて選択する。もしくは[アイテム]タブ>[選択]>[全て]>[すべてのオブジェクトを選択]で選択。

右下のフレーム数に任意の値を入力する。デフォルトだと30フレーム/秒だが、今回は160フレームにした。そしてオブジェクトを回転させながらキーフレームを打っていく。45°ずつ1周回転させるつもりだが、ということは360÷45で8個のキーを打つことになるため、総フレーム数を8で割った位置にキーを打っていく。下部の[自動キー:全モーション]にチェックが入っていればオブジェクトを動かした時点で勝手にキーが打たれるので、20フレーム目で45°回転させ、次のフレーム位置に移り、また回転させ……とやっていく。

右下(トランスポート・コントロール)の再生ボタンで動きを確認。このときビューはVPRではない方がよい。

問題なければ[レンダー]タブ>[オプション]>[レンダーオプション](ショートカット【Ctrl+p】)>[出力]タブで保存形式を選択する。[アニメ保存]にして直接動画を作成してもよいが、今回は静止画像も取得したかったので、[RGB保存]を選択し、連番のRGB画像として新規フォルダに出力。今回は160フレームにしたら自分の環境では総レンダリング時間が4時間程度だった。

CLIP STUDIO PAINT でアニメーション動画を作成

連番で出した複数の静止画からアニメーション動画を作成できるならソフトは何でもよいが、今回は CLIP STUDIO PAINT を使用した。ざっくり手順をメモしておく。

[ファイル]>[新規]で作品の用途「アニメーション」を選択。基準サイズを設定(今回は1920×1080、解像度72)して[OK]。[フレームレート](=1秒あたりのフレーム数)の設定や、[再生時間]ではフレーム数も設定できるので、ここで決めておくと楽。

レイヤーパネルに[アニメーションフォルダー]ができてその中に1枚新規レイヤーが作成されているが、このレイヤーは不要なので削除する。

[アニメーションフォルダー]を選択して[ファイル]>[読み込み]>[画像]から、読み込みたい画像を全部選択して[開く]で[アニメーションフォルダー]内に読み込める。

[アニメーション]>[タイムライン]>[設定変更]で、[終了フレーム]の値を任意に変更できる。注意点として、例えば全部で240フレームあるならここの値は241にする。また、[アニメーション]>[タイムライン]>[フレームレートを変更]で、フレームレートを変更できる。

[アニメーションフォルダー]を選択して、[アニメーション]>[セル指定]>[セルを一括指定]から[既存のアニメーションセル名から指定]を選択して[OK]で、一括してタイムラインに登録される。[繰り返し設定]>[繰り返す回数]で、各画像を何フレーム続けて並べていくかを指定できる。

タイムラインを右にスクロールして見れば分かるが、[用紙]はファイル新規作成時に設定したフレーム分までしか出ないので、もし総フレーム数を変更した場合はレイヤーパレットで[用紙]レイヤーを削除し、[新規レイヤー]から再び作成すると全フレーム分に出る。

タイムラインの[再生]ボタンでアニメーションを確認し、問題がなければ[ファイル]>[アニメーション書き出し]>[ムービー]から、ファイル名とファイル形式(AVIかMP4)を決めて保存。


光に影響された線の強弱

ここからさらに、光源の方向や位置に影響されて線に強弱がつくようにしてみる。要するに、光の当たる方向に向いた線を細くする。

輪郭線のノード編集

[輪郭(Edges)]タブから[Node Editor]を開き、先ほど[Turbulent Noise]ノードから[Edge]ノードへと繋げた矢印を全て外す。

左に並んだ中から[Layers]>[Scalar Layer]ノードを出す。

さらに、[Math]>[Scalar]>[Multiply]ノードを出す。

[Multiply]ノードを使えば、ひとつのスカラー値を他の値で乗算できる。要するにノードの出力結果を掛け合わせられるので、今回は線を筆描きっぽく加工できる[Turbulent Noise]ノードと、光の影響による強弱(というよりも正しくは勾配、グラディエント)をつけられる[Scalar Layer]ノードの出力結果を掛け合わせることを目指す。

[Turbulent Noise]ノードの右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Multiply]ノードの[A]入力に繋ぐ。そうしたら[Scalar Layer]ノードの右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Multiply]ノードの[B]入力に繋ぐ。

[Multiply]ノードの[Result]から矢印をドラッグし、[Edge]ノードに並んでいる[Silhouette Edges Taper]と[Silhouette Edges Opacity]、[Sharp Creases Taper]と[Sharp Creases Opacity]など、手を加えたい線の項の[~Taper]と[~Opacity]に矢印をそれぞれ接続していく。

[Scalar Layer]ノードをクリックして編集パネルを開く。[レイヤー種(Layer Type)]を[グラディエント(Gradient)]にする。[入力パラメータ(Input Parameter)]を[Light Incidence](ライトの入射)にして、[ライト(Light)]で適用するライトを選択。グラディエントバー(左にある縦長の帯)をクリックしてグラディエントのキーを1つ作成する。キーの[値(Value)]は「0.4」、[パラメータ(Parameter)]は「90.0」にして、白から黒(というかグレー)へのグラデーションを設定する。

[輪郭(Edges)]タブで各輪郭線の幅を調整し、いつものようにショートカット【F9】でレンダリングして画像に出力。[ラジオシティ有効]のチェックは外してある。

それなりの画にはなっているが、線の強弱もはっきりせず、いまいち足りないのでいろいろと調整してみた。

上でも記したように、[Turbulent Noise]ノードではなく[Scalar Layer]ノードでも同じようなノイズ設定ができるので、そちらに変えてみることにする。

[Layers]>[Scalar Layer]を選択して、[Scalar Layer]ノードを出したら、クリックして編集パネルを開く。[レイヤー種]を[プロシージャル]にする。[プロシージャル種]で[Turbulent Noise]を選択すると、前述した[Turbulent Noise]ノードと同じ設定項目が出るので、[増加]、[空隙性]、[オクターブ]等を設定し、[スケール]もいじる。上と同じならやはり[ブレンドモード]は「乗算」にして、[レイヤー不透明度]は150%。

設定したら右にある[Alpha]から矢印をドラッグし、[Multiply]ノードの[A]入力に繋ぐ。すでに[Turbulent Noise]ノードからの矢印が繋がっているだろうが、いちいち外さなくともそのまま新しい矢印を被せれば繋ぎ替わる。

【F9】でレンダリングして画像に出力。

かなりよい雰囲気になったが、白飛びしている箇所が気になった。[レンダー]タブ>[オプション]>[レンダーオプション]>[ライト]タブ>[ライトの明るさ]を「10%」にしてレンダリングしてみる。

ふたたび動画化してみた。

以上、面倒なので画像テクスチャを使わずにそれっぽい画を出そうとしてみた結果をまとめたが、画像テクスチャを使えばもっと水墨画っぽい画を出力できるはず。今後の課題としておく。

ライセンス

本記事に使用したオブジェクトの元データは、作成者の rogerharkavy 氏によりクリエイティブコモンズ・ライセンスの「Attribution-NonCommercial-ShareAlike(表示-非営利-継承)」で配布されているため、その派生物である本記事内の出力画像にも同じライセンスを適用する。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
rogerharkavy, Ditty を著作者とするこの 記事内の画像クリエイティブ・コモンズの 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
http://www.thingiverse.com/thing:21308にある作品に基づいています。

*1:線以外でも、均一にしたくないものに対して使えるノードなので、例えばノードを使ったインスタンスの際に複製のスケールをばらけさせる等にも使える……はず。

『あさりよしとおのロケット日記』掲載リスト

ニューモデルマガジンX誌に不定期で連載された『あさりよしとおのロケット日記』の掲載リスト。なぜ車雑誌でこんな連載をしていたのか。

  • 第1回 2014年11月号
  • 第2回 2015年1月号
  • 第3回 2015年4月号
  • 第4回 2015年9月号
  • 第5回 2015年11月号
  • 第6回 2016年5月号


蛇足

この連載前、同誌にはイラストを描いていたらしい。


グレッグ・イーガン『シルトの梯子』読書メモ

先日、グレッグ・イーガンシルトの梯子Schild’s Ladder(ハヤカワ文庫SF)を読了した。

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

2万年後の遠未来。量子グラフ理論の研究者キャスが〈ミモサ研究所(ステーション)〉で行った実験は、まったく新たな時空を生み出してしまう──それから数百年後、人類はその生存圏を浸蝕し拡大し続ける新たな時空の脅威に直面し、生存圏の譲渡派と防御派が対立していた。両派共有の観測拠点〈リンドラー〉号にて、譲渡派のチカヤは幼なじみのマリアマと再会し動揺する……深刻な対立と論争の果てに人類が見たものは!?

シルトの梯子 | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン

作中に登場する量子グラフ理論はループ量子重力理論の上位互換という設定なので、あらかじめループ量子重力理論について以下などで多少知っておくと、本編を読むのが少し楽になるかもしれない。

すごい物理学講義

すごい物理学講義

なお、『すごい物理学講義』にはスピンフォーム(スピンの泡)の頂点形状としてイーガン提供の図が掲載されているのだが、これがまさにイーガンのサイトにある量子グラフの図と似たものだった。

恥ずかしながらループ量子重力理論についてはこれまであまり馴染みがなかったが、個人的には対抗馬である超弦理論よりも好み。とはいえ概要をざっくり調べただけだが。

その他の登場する科学トピックについては、不明な箇所が出てきたら前野氏の巻末解説を適宜参照しながら読むといいかもしれない。というか、そうやって読んだ。また、「クァスプ」という量子力学的架空ガジェットについては、短編「ひとりっ子」(短編集『ひとりっ子』所収)にも登場しているので、そちらも参照するとよいだろう。

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

本筋とは無関係だが、作中のキャラ同士の会話中で「白色矮星シリウスBを太陽系へ押し込んで地球を運び去らせる」という案が出てきて(p.109)、イーガンもこの手の天体工学ネタに興味があるんだなと印象に残った。

カバー画担当のRey.Hori氏がTwitterに画をupしてくれているので、それも紹介しておく。イーガン曰く「very cool」だと。


以下はイーガン公式サイトにある作品ページ。

以下は板倉氏による関係者のTweetまとめ。

なお、この作品に登場する架空理論「量子グラフ理論」についてのショートショートSF "Only connect" が公式サイトで公開されている(初出はNature誌)ので、訳しながら読んでみた(でも理解したとは言わない)。『シルトの梯子』にも名前が出てくるサルンペトが提唱した量子グラフ理論について、最初の検証実験(2049年~)の成功報告と共に理論をざっくり解説する記事の体裁になっているという、お話というよりも単なる設定開陳でしかない作品だった。私訳に興味がある方は個人的に連絡を下さい。

ところで、事前情報だと『シルトの梯子』は真空崩壊の話だという触れ込みだったが、ちょうど発売中のNewtonが真空崩壊を特集しているので、つい買ってしまった。

作中では新真空の広がる速度が光速の半分となっているが、なぜそうなるのかについての説明はない。本来の真空崩壊であれば光速で広がるはずなのに、そうしてしまうと物語が作れないので光速にしなかったという創作上の理由は分かる。ある方に指摘されて気づいたが、新真空はローレンツ不変性をもたない(=相対論に従わない)ため、光速では広がらないという設定じたいはおかしくない。ただし、なぜその速度が光速の半分なのかという点については、イーガンが理屈をつけているかというと実は怪しい。そんな中、板倉氏がこんなツイートをしていたので引用しておく。

ダイソン球の起源、そして誤解されたイメージ

はじめに

2015年に連星系KIC 8462852に関するニュースが話題となり、ダイソン球という用語をあちこちで目にした。

当時、このニュースに対する反応を色々と眺めながら、ダイソン球のイメージが当初からは異なった形で広まってしまっているのを実感したが、そもそもダイソン球の起源についての詳細な解説がWebに存在しないことも分かったので、改めて事実関係を確認した結果を整理しておく。

ダイソン球とは何か

人類を含む地球上の生命が利用しているエネルギーは、地熱や原子力などを除き、元をたどればそのほとんどは地球に降り注ぐ太陽エネルギーである(化石燃料も過去の太陽エネルギーの蓄積と考えられる)。しかし太陽は全方位にエネルギーを放射し続けており、地球に降り注ぐのはそのうちごくわずか。人類が利用できる量はさらにその一部となる。

そこで、もしも高度な宇宙文明が存在したら、彼らの恒星を取り囲んで、その全放射エネルギーを無駄なく利用するのではないだろうか。さらにそのような文明は最終的に排熱を宇宙空間へ捨てているはずなので、その赤外線放射を観測すれば彼らの存在を確認できるだろう、と1960年にフリーマン・J・ダイソンが主張した。この構想から生まれた想像上の構造物を、彼の名を取って「ダイソン球(Dyson sphere)」と呼ぶ。この気宇壮大なアイデアはのちに多くの宇宙SFで使われたため、現在ではお馴染みのSFガジェットとなっている。

ひとつながりの球殻構造物という誤解

――と、まあここまではよく解説される話だが、おそらく多くの人はダイソン球について、一体となって恒星を完全に覆う堅固な球殻構造物をイメージしているのではないかと思う。ちなみに1992年のTVドラマ『新スタートレック』第130話「エンタープライズの面影(原題:Relics)」ではまさにそのように映像化されており、英語圏でもこのイメージが根付いていることが伺える。


しかし、そもそも提唱者のダイソンが想定していたのはこのような構造物ではなく、現在広まっている概念は誤解の産物なのだが、意外にもSFファンや宇宙ファンにすらあまり知られていない。では、どんな構造物だったのだろうか。

ダイソンの論文

まずはダイソンの論文を読んでみよう。題を訳すなら「人工的な赤外放射源天体の探索」か。誌面では1ページ強の短い論文である。

  • Dyson, Freeman J. "Search for Artificial Stellar Sources of Infrared Radiation." Science 131.3414 (1960): 1667-1668.

歴史的な前提知識として、SETI地球外知的生命探査)の始まりとされる、ジュゼッペ・コッコーニフィリップ・モリソンによる星間交信電波探索の可能性を示した論文が発表されたのが前年の1959年、そしてフランク・ドレイクオズマ計画を実施したのが1960年の春であることを記しておく。

以下、和訳にミスがあればご指摘を。最初にアブストラクト(要旨)。

If extraterrestrial intelligent beings exist and have reached a high level of technical development, one by-product of their energy metabolism is likely to be the large-scale conversion of starlight into far-infrared radiation. It is proposed that a search for sources of infrared radiation should accompany the recently initiated search for interstellar radio communications.

もし地球外知的生命が存在し、高度な技術開発レベルに達しているならば、そのエネルギー代謝の副産物のひとつとして、星の光を大掛かりに変換した遠赤外線を放射している可能性が高い。このことから、最近始まった星間電波通信の探索と共に、赤外線放射源の探索も行うべきだと提案したい。

続く本文でダイソンはまずコッコーニとモリソンの提案を挙げ、数百万年間も存続する地球外生物が人類を何桁をも上回る技術レベルに達しているなら、その生息地はマルサスの人口の原理から導かれる限界まで拡張されているだろうとする。そしてモデルとして太陽系における場合について、物質供給とエネルギー供給の面から考察している。

At present the material resources being exploited by the human species are roughly limited to the biosphere of the earth, a mass of the order of 5 × 1019 grams. Our present energy supply may be generously estimated at 1020 ergs per second. The quantities of matter and energy which might conceivably become accessible to us within the solar system are 2 × 1030 grams (the mass of Jupiter) and 4 × 1033 ergs per second (the total energy output of the sun).

現在、人類が利用する材料資源は地球生物圏にほぼ限定されており、およそ5 × 1019グラムの質量である。われわれの現在のエネルギー供給量は、多めに見積もって毎秒1020エルグと推定できる。おそらく太陽系内でわれわれが利用できるであろう物質とエネルギーの量は、2 × 1030グラム(木星質量)と毎秒4 × 1033エルグ(太陽の総エネルギー出力)だろう。

同時に、その根拠を述べている。

First of all, the time required for an expansion of population and industry by a factor of 1012 is quite short, say 3000 years if an average growth rate of 1 percent per year is maintained. Second, the energy required to disassemble and rearrange a planet the size of Jupiter is about 1044 ergs, equal to the energy radiated by the sun in 800 years. Third, the mass of Jupiter, if distributed in a spherical shell revolving around the sun at twice the Earth's distance from it, would have a thickness such that the mass is 200 grams per square centimeter of surface area (2 to 3 meters, depending on the density). A shell of this thickness could be made comfortably habitable, and could contain all the machinery required for exploiting the solar radiation falling onto it from the inside.

第一に、人口や工業を1012倍拡大するのに必要な時間は非常に短く、年1パーセントの平均成長率が維持されるなら3000年とされる。第二に、木星大の惑星を分解して再配置するのに必要なエネルギーは、800年間分の太陽放射エネルギーにほぼ等しい1044エルグである。第三に、太陽-地球距離の2倍の位置にて、太陽の周りを回転する球殻状に木星の質量を配置した場合、表面積1平方センチメートルあたりの質量が200グラムとなる厚さになるだろう(厚さは密度に応じて2-3メートル)。この厚みの殻なら快適に居住でき、内側から当たる日射の利用に必要となる全機構を内包できる。

さらにこういう記述があることも覚えておいてほしい。

One should expect that, within a few thousand years of its entering the stage of industrial development, any intelligent species should be found occupying an artificial biosphere which completely surrounds its parent star.

ここからひとつ期待すべきなのは、工業発展の段階に入ってから数千年以内に、その親星を完全に囲んだ人工生物圏を占める知的種族が発見されるはずだ。

そして、そういった生息地として最も可能性が高いのは、表面温度が200~300 Kの地球軌道ほどもある暗い物体であり、これはその内部の恒星と同程度の放射をしているが、波長は約10ミクロン(=マイクロメートル)の遠赤外線域になるという。地球の大気の窓はこの波長域に対して開いており、地上の望遠鏡で観測可能なため、赤外線点光源を探索すべきだと提案している。最後に、放射エネルギーの全てまでは利用していない場合や、多重星の中のある星だけに人工生物圏が存在する可能性についても触れている。

さて、問題の形状についてだが、この中でダイソン自身は「an artificial biosphere which completely surrounds its parent star(その親星を完全に囲んだ人工生物圏)」と書いている。「biosphere(生物圏)」であって 「sphere(球)」ではない。全文を確認してみると、実はこの論文では構造物の形状や数については触れられておらず、「sphere」という単語も出てこない。唯一、「distributed in a spherical shell revolving around the sun(太陽の周りを回転する球殻状に配置)」の箇所で「spherical shell」と表現しているだけである。

忘れ去られたダイソンの補足

ダイソン論文が掲載された翌月、Science 誌は論文に反応してきた3通の手紙と、さらにそれらに対するダイソンの返事を載せている。注目すべきは、このとき寄せられた手紙には明らかに「ひとつながりの球殻構造物」を想定した上での物理的な批判が記されている点である。剪断力、回転応力や重力応力を考えると無理だろうという話や、トーラス形状も考えたがこれも安定ではないという話などである。もちろん前述したように、元論文では構造物の形状や数について触れられていなかったのだが、その発表時から形状を誤解してしまった読者がすでにいたという証左であろう。

そして、これらの手紙に対するダイソン本人からの返信の中で、形状について言及している箇所があるので抜粋する。

1) A solid shell or ring surrounding a star is mechanically impossible. The form of “biosphere” which I envisaged consists of a loose collection or swarm of objects traveling on independent orbits around the star. The size and shape of the individual objects would be chosen to suit the convenience of the inhabitants. I did not indulge in speculations concerning the constructional details of the biosphere, since the expected emission of infrared radiation is independent of such details.

1) 星を取り巻く固い殻やリングは、機械的に不可能である。私が想定していた「生物圏」の形状は、星の周りの独立した軌道を巡る物体の、緩やかなまとまり、または群れから構成される。個々の物体のサイズおよび形状は、居住者の利便性に合うように選ばれるだろう。私が生物圏の構造的な詳細に関する憶測に入れこまなかったのは、赤外線の予想排出量がそういった詳細に依存しないからである。
Dyson, F. J., Maddox, J., Anderson, P., and Sloane, E. A. "Artificial Biosphere (Letters)." Science 132.3421 (1960): 250-253.

ここから、現在世間に広まっている「ダイソン球」のイメージとは少し違う構造物であることが明確にわかる。おそらく最初の論文に「球殻状」「完全に囲んだ」とあったため、恒星を覆い尽くす巨大な球体の姿を皆が思い浮かべてしまったのだろう。そして木星質量を半径2天文単位の球殻状に配置するというくだりも、あくまで参考用にまんべんなく星を覆った場合の厚みを概算で把握するためで、そのままの構造で建造することは考えていなかったのではないだろうか。加えて、論文自体は広く知られても、少し後に掲載されたこの補足まで把握した人は多くなかったと思われる。

ところで、実は手紙を送ってきた中に、主に経済的な面からのツッコミを入れている Poul Anderson という人物がいるのだが、これは『タイム・パトロール』や『タウ・ゼロ』で知られるSF作家のポール・アンダースンである。

近年の記事

次に、スカラーペディア(専門家が執筆する査読付きオンライン事典)にあるダイソン球の記事(2009年)を読んでみよう。

"A shell of this thickness", he wrote, "could be made comfortably habitable, and could contain all the machinery required for exploiting the solar radiation falling onto it from the inside". This remark gave to readers the misleading impression that the habitat of an alien civilization would be a big round ball with a star at the center. Various science-fiction writers adopted this notion of a big round ball inhabited by aliens and gave it the name "Dyson Sphere". Dyson used the phrase "artificial biosphere" to describe the habitat of an alien civilization. He was well aware that the artificial biosphere could not be a big round ball. A big round ball, whether rotating or not, would be mechanically too weak to support its own weight against the gravity of the star. He imagined the artificial biosphere to be a cloud of inhabited objects orbiting a star, surrounding the star densely enough to absorb all the starlight, but with the orbits carefully arranged so as to avoid collisions.

「この厚みの殻なら」と彼は書いた。「快適に居住でき、内側から当たる日射の利用に必要となる全機構を内包できる」と。この記述が読者に与えたのは、異星文明の生息地がその中心に星をもつ大きな丸いボールになるという誤った印象である。さまざまなSF作家が、異星人の住む大きな丸いボールにこの概念を採用して「ダイソン球」と名付けた。異星文明の生息地を記述するのにダイソンは「人工生物圏」という語を使っている。彼は人工生物圏が大きな丸いボールになれないことをよく理解していた。大きな丸いボールでは、回転していようがいまいが、星の重力に逆らって自重を支持するには機械的に弱すぎるだろう。彼が想像した人工生物圏は星を周回する無数の居住物体で、すべての光を吸収するのに十分な密度で星を取り囲み、その軌道は衝突を避けるよう慎重に配置されているというものである。

Dyson, Freeman J. and Carrigan, Richard "Dyson sphere." Scholarpedia, 4(5) (2009):6647.

この記事の著者はダイソンとなっているが、履歴を見ると実際に書いたのは共著者のリチャード・カリガン(Richard Carrigan)で、ダイソン本人は記事立項直後に招待を受けているだけだ。しかし自分の名で出されている学術的な記事に事実誤認があれば訂正を入れないはずもないので、やはり本人からするとこの記事の認識は大きく間違っていないのだろう。

ダイソンのインタビュー動画

そして極めつけ、ダイソン本人がダイソン球について語っている動画がある。ジャーナリストのロバート・ライトによるダイソンへのインタビュー動画で、ダイソン球の話は20:55頃から。このインタビュー動画の初出はおそらく2001年6月30日の Google Videoで、動画内でもダイソン本人が上記の論文を発表した時期について「40年前のこと」だと言っているので、インタビュー時期は2000年頃と思われる。

動画はYouTubeにも分割されて上がっており、こちらだとダイソン球の話は0:52頃から。


—Okay. Let’s talk a little about the kind of – so you are more science fiction, a musings, what are these Dyson Spheres or Dyson Shells that I heard about?

――なるほど。ではこんなことについて少し話しましょう。あなたのもっとSF的なアイデアで、私が耳にしたことのある、ダイソン球(Dyson Spheres)やダイソン殻(Dyson Shells)というのは何でしょうか?

Well, it was really a joke which is completely misunderstood, but anyway what really happened was 40 years ago, I published a one-page note in the Journal of Science, which was called, “Search for Artificial Sources of Infrared Radiation”. The idea was that, you might have intelligent people in the sky or intelligent creatures who are actually pursuing a vigorous life but won’t interested in communicating. We had just a year before that, Frank Drake had started listening for radio signals from aliens and that was fine as long as the aliens were trying to communicate. But it occurred to me that you might want to detect aliens, even if they were not communicating and there was a way to do it and that would be to look for infrared radiation, which is essentially waste heat. So if there is a society who has suffered a population explosion and is growing very large or has just a very highly developed industry, it is compelled by the laws of thermodynamics to get rid of the waste heat. You can't exist without getting rid of waste heat and that has to be radiated into space. So you will see that heat radiation was infrared. So I suggested that people actually start looking in the sky with infrared telescopes as well as radio telescopes, so that was the proposal. But unfortunately, I added to the end of that the remark that, what we are looking for is an artificial biosphere, meaning by biosphere just a habitat that something that could be in orbit around the neighboring star where the aliens might be living. And so the word biosphere didn't imply any particular shape; however, the science fiction writers then got hold of this and imagined that biosphere means a “sphere”, it has to be some big round ball and so out of that, they came with these weird notions which ended up on Star Trek.

まあ、それは実のところ完全に誤解された冗談なのですが、とにかく実際に起こったのは40年前のことです。Science 誌に「人工的な赤外放射源天体の探索」という1ページのメモを発表しました。そのアイデアというのはこういうものです。天にいる知的宇宙人や、実際に活発な生命を追っている知的生物がいても、通信には関心を持っていないかもしれない。その1年前にフランク・ドレイクが異星人からの無線信号を受信しようと始めましたが、これは異星人側が交信しようとしているなら問題ないのです。しかし私は、たとえ通信していなくても、異星人を見つける方法を思いつきました。本質的に排熱である赤外線放射を探すのです。つまり、人口爆発を経験し、非常に大きく成長していたり、あるいはとても高度に発展した産業を抱えた社会がもし存在したなら、熱力学の法則によって、排熱の除去を余儀なくされるのです。排熱を捨てずにいることはできず、それは宇宙に放射されねばなりません。熱放射が赤外線なのはよくご存じでしょう。だから私は、人々が実際に電波望遠鏡だけでなく赤外線望遠鏡でも空を見てみるよう提案しました。しかし不運にも、私はその最後に、われわれが探すのは「人工生物圏(an artificial biosphere)」であるという意見を加えました。「生物圏」が意味するのは、恒星近傍をまわる軌道に乗る、異星人が生活している生息地ということだけです。そして、生物圏という言葉は特別な形を意味するものではないのです。しかし、SF作家はこれを捉えて、生物圏(biosphere)は「球体(sphere)」を意味するのだと想像しました。元〔論文の意味〕からは離れ、それは大きな丸いボールであるはずだとされました。彼らはこの奇妙な観念を抱き続け、ついには『スタートレック』にまで行き着いたのです。

—Oh, yes, yes. In fact just based on secondary counts, I had imagined some giant sphere whose function was to capture all of the energy of the sun, so that none would go to waste, is that completely erroneous?

――ああ、なるほど。実際、二次的な論拠に基づいて私が想像していたのは、太陽の全エネルギーを無駄なく捕える機能を持った巨大な球体でした。それは全くもって間違いなんですね?

Well, except it shouldn't be a sphere of course, it should have been, but I imagined in fact a swarm of objects surrounding a star and that would be the way to use all the starlight and so it would look essentially from the outside rather like a dust cloud and actually this was invented not by me, but by Olaf Stapledon, the science fiction writer who wrote in the 1930s. So indeed if you really want to give a name to it, it should be the Stapledon Sphere rather the Dyson Spheres.

まあ、それが存在したなら、もちろん球体ではないはずですね。私は星を囲んだ複数の物体の群れを想像していました。それは星の光すべてを使う方法になるので、外部からは実質、むしろ塵の雲のように見えるでしょう。実際これは私の発明ではなくて、SF作家のオラフ・ステープルドンが1930年代に書いた作品によるものです。だから本当にこれに名前をつけたければ、ダイソン球ではなく「ステープルドン球」でなければなりません。

—I think it is too late to make that change. I am afraid that your legacy is inextricably intertwined with…

――それを変えるのは遅すぎですよ。懸念するのは、あなたの遺産がこんがらがることです。

I am sort of stuck with it.

私は多少こだわりますよ。

—In any event, it certainly got your name far and wide, right?

――いずれにせよ、それは間違いなくあなたの名前を大いに広めましたよね?

Yes.

ええ。

—Did they actually use the phrase Dyson Sphere on Star Trek?

――実際に「ダイソン球」というフレーズが『スタートレック』で使われたのですか?

Oh, yes.

ええ、そうです。

—Did they really?

――本当ですか?

One of my daughters sent me a tape of that program afterwards and so I watched it. Oh, yes, it is very clearly labelled and actually it was sort of fun to watch it, but it is all nonsense but it is quite a good piece of cinema.

後日、娘のひとりが番組のテープを送ってくれたので見ました。そう、それは非常にはっきりと名前が付けられていて、実はそこそこ楽しんで見ました。まるっきり荒唐無稽ではありますが、映像作品としてはなかなか良いものです。
Robert Wright interviews: Freeman Dyson - complete interview - MeaningofLife.tv.

誤訳による紛らわしい記述

調べていて、ひとつ気になることがあった。ダイソンの自伝(1979年)の邦訳ではこういう下りがある。

これらの資源を十分に利用するのには、技術的生物は、手にはいるかぎりの物質を使って、恒星の光を十分利用できるように恒星のまわりを回る球殻と、その中に収められた生物学的生活空間と産業設備とを建設せねばならない。土星のような大きさと化学組織をもつ惑星には、太陽と同程度の大きさの恒星の光を十分に利用できる人工の生物圏をつくるのにたりるだけの物質がある。銀河系全体のなかには、すべての恒星のまわりに生物圏をつくるのにたりるだけの惑星はないかもしれないが、この目的にとって十分なだけの利用できる物質資源が他にある。たとえば、赤色巨星の膨張した外皮は、採鉱のため利用することができ、惑星に含まれているよりはるかに多量の物質を供給してくれる。人工生物圏をつくりだすのに必要な機械類を製作することが技術的に実行可能かどうかの疑問は残るが、時間が十分にあれば、それは可能だろう。私は、それが実行可能だという確信を得るために、次のような作業をするのに必要な機械の工学的設計をしてみた。すなわち、地球程度の大きさの惑星を解体し、それを材料にして、太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻を組み立てるという作業である。
フリーマン・ダイソン, 鎮目恭夫 訳,『宇宙をかき乱すべきか ダイソン自伝筑摩書房, ちくま学芸文庫, 下巻 pp. 138-139, 2006.

恒星の外層も材料として考えているのは興味深いのだが、それはさておき、紛らわしいことに「恒星の光を十分利用できるように恒星のまわりを回る球殻」となっている。これでは邦訳を読むと太陽を包み込む球体を想像してしまいがちだろう。そして「太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻」という記述。この文脈だと太陽を中心にそれを覆う球殻が二重三重に多数重なった姿を想像しがちだが、論文にそんな描写はなかったのでおかしい。ついでながら、土星の質量は論文にあった木星に比べるとそこまで大きくないはず。どうも変だと思い原書を買って確認してみたら、疑問が氷解した。以下がこの箇所の原文。

To exploit these resources fully, a technological species must convert the available matter into biological living space and industrial machinery arranged in orbiting shells around the stars so as to utilize all the starlight. There is enough matter in a planet of the size and chemical composition of Jupiter to form an artificial biosphere exploiting fully the light from a star of the size of our sun. In the galaxy as a whole there may not be enough planets to make biospheres around all the stars, but there are other sources of accessible matter which are sufficient for this purpose. For example, the distended envelopes of red-giant stars are accessible to mining operations and provide matter in quantity far more abundant than that contained in planets. The question remains whether it is technically feasible to build the necessary machinery to create artificial biospheres. Given sufficient time, the job can be done. To convince myself that it is feasible, I have made some rough engineering designs of the machinery required to take apart a planet of the size of the earth and to reassemble it into a collection of habitable balloons orbiting around the sun.

Dyson, Freeman J. Disturbing The Universe. Sloan Foundation Science, Basic Books, p.211, 1979.

邦訳書の訳文「恒星のまわりを回る球殻」は「orbiting shells around the stars」で、球という意味は入っていないはずの「shells」が「球殻」と訳されてしまっている。同じく「太陽のまわりを回る多数の居住可能な球殻」は「a collection of habitable balloons orbiting around the sun」なので、こちらでは「habitable balloons」が「球殻」に訳されている。そして案の定、「Jupiter(木星)」を間違えて「土星」と訳していた。

どうやら訳者は構造物が無数の群れになっているとは思わずに、星の周りをひとつながりの球殻が入れ子状に複数重なったかたちを想像してしまったのではないだろうか。だから「shells」をひとまとめに「球殻」と訳し、「habitable balloons」もこれを見立てた表現として同じ「球殻」と訳してしまったと考えられる。しかし、これまで見てきたダイソンの説明を踏まえると、ここは球殻状に分布した「shell」の群れのひとつひとつが「habitable balloon」になっていると考えるべきだろう。

宇宙をかき乱すべきか〈下〉 (ちくま学芸文庫)

宇宙をかき乱すべきか〈下〉 (ちくま学芸文庫)

Disturbing The Universe (Sloan Foundation Science)

Disturbing The Universe (Sloan Foundation Science)

発想源はステープルドン

前述のインタビューでも本人が語っていたが、ダイソンの「人工生物圏」という発想の基になったのは、オラフ・ステープルドンのSF『スターメイカー』Star Maker(1937年)だったという。論文には書かれていないが、自伝にはこうある。

Some science fiction writers have wrongly given me the credit for inventing the idea of an artificial biosphere. In fact, I took the idea from Olaf Stapledon, one of their own colleagues

SF作家たちの一部は、人工生物圏というアイデアを発明した名誉を、誤って私に帰しているが、じつは私はこのアイデアを、彼らの仲間の一人であるオラフ・ステープルドンから得たのである。
フリーマン・ダイソン, 鎮目恭夫 訳, 『宇宙をかき乱すべきか ダイソン自伝』下巻 p. 139, ちくま学芸文庫, 2006.
Dyson, Freeman J. Disturbing The Universe. Sloan Foundation Science, Basic Books, p.211, 1979.

ダイソンは1945年、ロンドンのバディントン駅でボロボロになったこの本を拾ったそうだ。この『スターメイカー』作中には、はるかな距離から眺めた遠未来の銀河の姿が出てくる。

Not only was every solar system now surrounded by a gauze of light traps, which focused the escaping solar energy for intelligent use, so that the whole galaxy was dimmed, but many stars that were not suited to be suns were disintegrated, and rifled of their prodigious stores of sub-atomic energy.

今やすべての太陽系が、知的な利用のために、逃げていく太陽エネルギーを、銀河全体の光量が減退するくらい集中させる光捕獲用の網(ネット)に囲まれていたし、また太陽としては適さない多くの星は解体され、核エネルギーの驚嘆すべき蓄えを奪われたのだった
オラフ・ステープルドン, 浜口稔 訳『スターメイカー国書刊行会, p. 254, 2004.

Star Maker - Olaf Stapledon - Google ブックス

ということで、ステープルドン『スターメイカー』の「a gauze of light traps(光を捕える網〔ガーゼ〕)」という記述がダイソン球の――正確にはダイソン論文のアイデアの――元ネタである。

スターメイカー

スターメイカー

本来のダイソン球の姿

これまでの記述から考えるに、本来のダイソン球は以下のようなものである。

「その内部に生活空間と産業施設を備えて大気を閉じ込めた居住構造物が、恒星を公転する軌道を無数に独立して巡っている。構造物は緩やかなまとまりや群れとして星を取り囲む球殻状に分布し、全体が人工生物圏として、その星の放射エネルギーを最大限利用している。また、個々の構造物の大きさや形状は居住者の利便性に合わせたものとなっている」

これではダイソン球というより、「ダイソン群(Dyson swarm)」などと呼んだほうが的確かもしれない。なお、ダイソンが当初提唱したような形態の構造物を「タイプI」ダイソン球、現状広まっている一体となった形を「タイプII」ダイソン球とする分類もあるが、日本語圏ではあまり知られていない。あくまで個人的な考えだが、もしも分けて書きたいのであれば前者を「ダイソン群」、後者を「ダイソン球」とすれば、あまり混乱を広げずにすむのではないかと思う。

ちなみに、1964年に出版されたフリッツ・ライバー『放浪惑星』The Wanderer 作中に、銀河内の星の光が、その周囲を巡る無数の人工惑星のせいで遮られる光景について登場人物が言及する場面がある。これがダイソン論文以降に出たフィクションのうち、本来の構想に類似したものを最初に描いた作品ではないかと考えられる。

“In the galaxy where the Wanderer grew in orbit, the planets are so thick around each sun they shroud its light and make a slum of space, a teeming city of a galaxy. It is the boast of our engineers, ‘Wherever a sunbeam escapes, we place a planet.’ Or they moor a field , to turn the sunlight back.

“Tens of thousands of planets around each sun, troubling each other with ten thousand tides, so that tidal harmonizing is half our civil engineering. Planets following each other so closely in the same orbit that they make elliptical necklaces, each pearl a world. You know those filigree nests of balls your Chinese carve of ivory, so that you peer and peer to find the center, and end with the feeling that there's a little of infinity locked in there? That's how solar systems look, most places.

“You haven't yet heard this news, simply because of the snaily slowness with which light travels. If you could wait a billion years, you'd see the galaxies grow dim, not by the death of stars, but by the masking and miserly hoarding of their light by the stars' owners.

“All but a tiny remainder of the star-shrouding planets are artificial. Billions of trillions of dead suns and cold moons and planetary gas giants have been mined to get the matter to make them-your Egyptian pyramids multiplied by infinity. Throughout the universe, natural planets are as rare as young thoughts.

“Your own galaxy of the Milky Way is no exception. Planet-choked suns chiefly make the great dark central cloud which puzzles your astronomers.

“A pond can fill with infusoria almost as quickly as a ditch-water puddle. A continent can fill with rabbits almost as swiftly as a single field. And intelligent life can spread to the ends of the universe——those ends which are everywhere——as swiftly as it grows to maturity on a single planet.

[...]

She pointed a claw toward the thick stars. “Those diamonds you see out there are lies. The suns that sent that bright light now are masked.”

「《放浪者》が軌道上で成長した銀河系では、それぞれの太陽のまわりにあまりに多くの惑星が混み合っているために、惑星群が太陽の光をさえぎって、宇宙のスラム街、銀河系の過密都市を作りあげている始末なの。〈太陽光線が洩れているところには残らず惑星を置く〉というのが、わたしたちのエンジニアたちの自慢なのよ。でなければ彼らは太陽光線を追いかえすために、ひとつの場を係留するわ。

「個々の太陽のまわりには何千何万という惑星があって、それぞれの潮汐でたがいに迷惑をかけ合っているために、潮汐の調和がわたしたちの土木工学の半分を占めている状態なのよ。惑星同士が極端に接近して同じ軌道上を回っているので、まるで星ひとつが一粒の真珠に当たる楕円形の首飾りといったところだわ。ほとんどの太陽系がそんなふうになっているのよ。

「あなた方の耳にまだこのニュースが届いていないのは、まるでカタツムリの歩みのようにのろい光の速度のせいなの。もしもあなた方が十億年間待てるなら、星の死滅のせいではなく、星の所有者たちがその光をさえぎってけちけちと貯めこむために、銀河系が暗くなるのが見えるはずよ。

「太陽を覆う惑星群は、ごく一部を除いてすべて人工惑星なの。何兆もの死滅した太陽や冷えきった月や巨大な惑星のガスが、人工惑星の製造原料として使われた――それは地球のエジプトのピラミッドを無限に倍加したほどの量だわ。宇宙全体を通じて、自然惑星はきわめてまれな存在なのよ。

「あなた方の銀河系もその例外じゃないわ。惑星に覆いつくされた太陽群が地球の天文学者たちを惑わす巨大な黒い中心の雲を主として作っている。

「池はどぶの水と同じように、たちまち滴虫類でいっぱいになってしまう。大陸はひとつの野原と同じように、たちまち兎でいっぱいになってしまう。そして知的生命も、ひとつの惑星上で成熟に達するように、たちまち宇宙の果て――いたるところにある宇宙の果てまで拡がってしまうわ。

(中略)

彼女は手をあげて星の群れを指さした。「あすこに見えているおびただしい数のダイヤモンド、あれはみんな嘘なのよ。あの輝かしい光を送りだした太陽は、今はみなマスクで光をさえぎられているんだわ」
フリッツ・ライバー, 永井淳 訳『放浪惑星東京創元社, 創元SF文庫, pp.405-407, 1973.

The Wanderer - Fritz Leiber - Google ブックス

放浪惑星 (創元SF文庫)

放浪惑星 (創元SF文庫)

名称の誕生と誤解の広がり

Dyson sphere」という名称の誕生と広がりについて気になったので、Google がスキャンした書籍データから英語句の頻度を調べられる Google Ngram Viewer を使い、"Dyson sphere" を1960年(ダイソン論文の掲載年)から上限の2008年までの期間で検索してみた結果が以下。

Google ScholarGoogle Books でも検索してみる。すると、初期には英語圏のいくつかの媒体で「Dyson's sphere」という表記も多少使われていたことが分かる。さらに色々と調べてみると、英語圏だけではなくロシア語圏での広がりも関係してくることが分かったので、時系列で並べてみよう。

まず1962年、ソ連天文学者シュテルンベルク天文研究所ヨシフ・シクロフスキーが著書『Вселенная, жизнь, разум(宇宙・生命・心)』の中でダイソンの構想を紹介していて、そこには「сферы Дайсона(ダイソン球)」という表記が確認でき、ロシア語圏ではこの時点でダイソン球という語が使われていたことが分かる(ロシア語圏での初出かどうかは不明)。この中の記述でも、やはり太陽を取り囲む巨大な殻だとされていた。以下は該当箇所だが、ロシア語は分からないので訳文は機械翻訳より(誤りがあればご指摘を)。

Поэтому вполне допустимо считать, что человек в перспективе 2,5-3 тыс. лет создаст «искусственную биосферу» на внутренней поверхности «сферы Дайсона». После реализации этого грандиозного проекта человечество сможет использовать в с ю энергию, излучаемую его «материнской звездой» — Солнцем. Необходимые для утилизации солнечной энергии машины могут быть размещены на поверхности сферы Дайсона или где-нибудь внутри ее.

したがって、2500〜3000年後には未来の人類が「ダイソン球」の内面に「人工生物圏」を作り出すと考えてよい。この壮大な計画を実現した後、人類はその「母星」つまり太陽によって放射されたエネルギーを利用できる。太陽エネルギーの利用に必要な機械は、ダイソン球の表面または内部のどこにでも置ける。
Шкловский И. С. «Вселенная. Жизнь. Разум» 5-е изд. // М.: «Наука», 1980.

翌1963年には、同研究所のヴィクトル・ドミートリイェヴィチ・ダヴィドフ (Виктор Дмитриевич Давыдов) が、プリロダ(Природа)誌に「Сфера Дайсона невозможна(ダイソン球は不可能)」と題した批判記事を発表している。この記事中では「сфера Дайсона(ダイソン球)」が「有名な仮説」として紹介されており、そこで引用されている文献はシクロフスキー著の前掲書である。

そしてさらに翌年の1964年には、またも同研究所のニコライ・カルダシェフが、宇宙文明の発展度に基づいた分類を論文で提唱している。この分類は現在カルダシェフ・スケールと呼ばれ、ダイソン球と関連して語られることが多い。論文は発表された年のうちに英訳されており、そこに「Dyson sphere」という表記が登場している。ロシア語で書かれた元の論文も入手して確認してみた。

II — цивилизация, овладевшая энергией, излучаемой своей звездой (например, этап построения «сферы Дайсона» [6]); энергопотребленне ∼4⋅1033 эрг/сек.

II — a civilization capable of harnessing the energy radiated by its own star (for example, the stage of successful construction of a "Dyson sphere"[6]); energy consumption at ≈4 × 1033 erg/sec.
II — 自らの星の放射エネルギーを利用できる文明(例えば「ダイソン球」建造の成功段階[6]); エネルギー消費量は約4×1033エルグ/秒である。
Kardashev, N. S. "Transmission of Information by Extraterrestrial Civilizations." Soviet Astronomy 8 (1964): 217-221.
Кардашев Н.С. «Передача информации внеземными цивилизациями» // Астрономический журнал. 1964. Т. 41. Вып. 2. С. 282-287.

いわゆるタイプII文明について書かれたこの文の「сферы Дайсона」が英訳されて「Dyson sphere」と表記されたものが、現時点で遡れた最も古い英語表記なのだが、これが英語圏における初出なのだろうか。なお原文だと「сфера」の語尾が「-ы」となっていて複数形なので、律儀に英訳すると「Dyson spheres」となるような気がする。

1966年には、シクロフスキーによる前掲書が、英訳された上にカール・セーガンが共著者として加わり大幅に加筆改訂され、Intelligent Life in the Universe というタイトルで出版された。この本で「Dyson sphere」と表記されて紹介されたことが、英語圏で一般にも広まったきっかけとして大きかったのではないかと個人的に推測している。

ではさらに、ひとつながりの球殻構造物として最初に描写したフィクションは何だったのだろうか。星を囲んだ固体の殻とその内壁の居住面という構造を最初に描写したSFは、ロバート・シルヴァーバーグAcross a Billion Years(1969年)だとされ、以下に示すとおり作中に「Dyson sphere」という台詞も出てくる。ただし、発表がダイソンの元論文から9年後なので、これ以前のフィクションに遡れる可能性もあることは付言しておく。

“[...] According to communications received on this planet 13,595,486 years ago, the Mirt Korp Ahm embarked on a project at that time for the transformation of their home system into an enclosed sphere permitting full utilization of the solar energy. An uninhabited planet of the system was used as the source of mass for this project. The enterprise was successfully completed within a period of 150 years after receipt of first notice here. Thereafter, naturally, the home star of the Mirt Korp Ahm ceased to be detectible by conventional optical means.”

I pondered the meaning of that set of cloudy phrases without much immediate success. But to Saul Shahmoon the robot’s explanation was lucidity itself. “Of course!” Saul cried. “A Dyson sphere!”

[...]

A really thrifty civilization, Dyson said, would catch all of its sun’s energy before it was squandered. One way to do it, he suggested, was to demolish Jupiter and use its mass to build a shell surrounding the sun at approximately the distance of Earth’s orbit from the center of the solar system. Smashing up the biggest planet and rearranging its pieces this way would take a fair amount of energy all by itself: roughly as much as the sun’s total output for eight hundred years. But once the job was finished, the shell would intercept every photon of energy coming from the sun; this could be put to use as an all-purpose power source.

「(中略)13,595,486年前にこの惑星から受け取った通信によると、マート・コープ・アームは当時、太陽エネルギーを完全利用できる球で故郷の星系を閉じ込めるよう改造する計画に着手しました。その星系の無人惑星が、この計画の質量供給源として利用されました。この事業はこちらが最初の知らせを受信してから150年のうちに無事完了しました。その後、当然ですが、マート・コープ・アームの故郷の星は、従来の光学的手段では検出されなくなりました」

僕はそのはっきりしない言い回しの意味がすぐに分からず考えた。しかし、サウル・シャームーンにとってロボットの説明は明快だった。「そうか!」サウルは叫んだ。「ダイソン球だ!」

(中略)

ダイソンが言うには、本当に倹約的な文明は、浪費される前に太陽の全エネルギーを捕えるのだ。彼が提案したひとつの方法は、木星を破壊してその質量を使い、太陽系の中心から地球軌道までの距離で太陽を囲んだ殻を作るというものだ。最大の惑星を砕いてそのように配置を変えるのは、それだけでかなりエネルギーを使うことになる。だいたい太陽の総出力のおよそ800年間ぶんだ。しかしその作業が終われば、殻は太陽から来るエネルギー光子すべてを遮断する。これは多目的なエネルギー源として利用できる。

Silverberg, Robert Across a Billion Years. Open Road Media Sci-Fi & Fantasy, 2013.

Across a Billion Years

Across a Billion Years

そしてダイソン論文から10年後、1970年にラリイ・ニーヴンの代表作となるSF『リングワールドRingworld が出版され、ダイソン球に対する新たなアプローチが世に広まるわけだが、それはまた別の話となる。

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))

ところで、こちらは現時点までの「Dyson sphere」についてのGoogleトレンドグラフだが、冒頭に紹介したKIC 8462852のニュースが流れた2015年10月に突如跳ね上がっているのが分かって面白い。

(※追記)KIC 8462852の件は、やはりというか、ダイソン球などの人工構造物ではなかった模様。

参考


最終更新日:2018-07-19

『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』掲載リスト

再突入服一枚リ・エントリー・スーツで時速28,000キロの世界へ!

宇宙と大地の狭間に展開される極限のダイナミズム。2021年の極超音速成層圏ハイパーソニックストラトアドベンチャー

“オービット・ダイビング”それは頂点に立つ者達だけの究極のハイテック・スポーツだ。

宮武一貴+L.CAt。『THE ADVANCED APSARAS』STAGE1「THE DUO ON LITTLE PLACE OF HIGH」コミックノイズィ1988年12月号(Vol.1)p.146

宮武一貴氏による『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』という作品がある。軌道上からパワードスーツで大気圏へ再突入する架空の未来競技を描いたイラストノベルで、大日本絵画が一時期出していた雑誌コミックノイズィ(COMIC NOIZY)の創刊号から休刊号まで全10回連載された。単行本等には収録されていないので、以下に掲載情報をまとめておく。

宮武一貴+L. CAt。『THE ADVANCED APSARAS アドバンスト・アプサラス』月刊コミックノイズィ1988年12月号-1989年10月号(Vol.1-10)

  • STAGE1「THE DUO ON LITTLE PLACE OF HIGH」1988年12月号(Vol.1/創刊号)pp.146-149(資料提供:江藤巌
  • STAGE2「LADY TOIVONEN」1989年1月号(Vol.2)pp.131-135(資料提供:江藤巌
  • STAGE3「HOW MANY MILES TO VIZEENA?」1989年2月号(Vol.3)pp.118-121(資料提供:江藤巌
  • STAGE4「A BOUQUET FOR IL SIG·LUPO」1989年3月号(Vol.4)pp.128-132(資料提供:浜田裕子)
  • STAGE5「AVINION」1989年4・5月合併号(Vol.5)pp.154-157(資料提供:浜田裕子)
  • STAGE6「A PÖLLÖ ON THE MERIDIAN」1989年6月号(Vol.6)pp.144-148(資料提供:江藤巌
  • STAGE7「AS A PÖLLÖ BLEW OFF IN MERRILY THE EYE OF THE TYPHOON」1989年7月号(Vol.7)pp.10-13(資料提供:江藤巌
  • STAGE8「AS A PÖLLÖ BLEW OFF IN MERRILY THE EYE OF THE TYPHOON II」1989年8月号(Vol.8)pp.6-10(資料提供:江藤巌
  • STAGE9「MICHELE, WITH THE WINGS」1989年9月号(Vol.9)pp.5-9(資料提供:江藤巌
  • STAGE10「'SERPENTE' GALLERIA DEL VENT」1989年10月号(Vol.10/休刊号)pp.5-9(資料提供:江藤巌

作者として共に名前を連ね、作中の一部イラストも手がけている「L. CAt。」氏というのは宮武氏の奥方だという話を見かけたが、未確認。なお、資料提供の浜田氏は江藤氏の奥方。

また、この作品に使われた画のいくつかは、2017年に出た『MIYATAKE KAZUTAKA MEGA DESIGNER CREATED MEGA STRUCTURES 宮武一貴画集』に収録されている。その説明書きによれば、当時はメカデザインやストーリーだけでなく、誌面レイアウトまで宮武氏本人が手がけていたらしい。

ちなみに月刊コミックノイズィは国会図書館に所蔵なし(参考)。現代マンガ図書館には所蔵されているようだが、この記事執筆時点では閲覧ができない状態(参考)。入手するにはヤフオク駿河屋まんだらけあたりに出るのを待つしかないか。

漫画版『雲のむこう、約束の場所』掲載リスト

新海誠監督の短編アニメーション映画『ほしのこえ』を漫画化した佐原ミズ氏は、続けて2作目で劇場用アニメーション映画となった『雲のむこう、約束の場所』の漫画化も手がけていた。しかしながら、月刊アフタヌーンで始まった連載は第8話まで掲載されたもののなぜか休載、そのまま未完に終わり、現在に至るまで単行本にも収録されていない。そこで、ここに雑誌掲載情報をまとめておく。

漫画:佐原ミズ&原作:新海誠雲のむこう、約束の場所月刊アフタヌーン2006年2月号-10月号(4月号休載)

ちなみに月刊アフタヌーン2006年11・12月の各号には目次欄で休載の告知あり。以後は音沙汰なく未完となっている。

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)

ほしのこえ (KCデラックス アフタヌーン)