G・デイヴィッド・ノードリイ “Empress of Starlight”(2018)

G・デイヴィッド・ノードリイ(G. David Nordley)の中編。タイトルを訳すと「星明りの女帝」。なお、この記事ではネタバレに全く配慮していないので注意。

  • 初出:Analog Science Fiction and Fact, November/December 2018
  • 収録先:Around Alien Stars(Brief Candle Press, 2019)
  • 形式:中編(ノヴェレット);約1万7,100ワード

あらすじ

人づきあいが苦手なため、月南極のシャクルトン・クレーターにある観測施設で独り過ごす主人公の天文学者アンバー・クラウド(Dr. Amber Cloud)教授は、地球にいる教え子の大学院生トニー・ムトンカ(Tony M’tonka)から、りゅうこつ座の散開星団IC 2602にあったはずの恒星が消えたという報告を受ける。どうやら恒星の消失と復活という現象は銀河文明の記録を漁ると過去に何度も起きていたらしく*1、ダイソン群を操るカルダシェフⅡ型文明の仕業ではないか、との指摘を受け、アンバーは探査遠征の準備に取りかかる。

恒星船には船長のアンバー、トニー、トニーの妻カテラ(Katella M’tonka)、そしてガ・タン(Ga Tan)とコ・トー(Ko Tor)のクレス人(Kleth/K’Leth)夫婦が共に副船長として、さらには宇宙船のAIであるニキ(Niki)が乗船した。なおクレス人は、いわば鳥人のような異星種族である。これまで人類が遭遇した4つの知的種族のひとつだ。

船内時間で452年後に目的地へ到着すると、そこには赤く輝き、半径2天文単位で恒星をとり囲む巨大なダイソン球があった。この球体表面には、パラシュートのように中央が膨らんだ六角形の区画が敷き詰められている。この「表皮」が放射圧で支えられているため、ダイソン球は非常に柔軟で薄い構造をしており、〈レッド・ラバー・ボール〉と呼ばれる。強い磁場があり、両極上にはプラズマが逃げるための穴が開いている。表皮の場所による赤外線放射強度のわずかな違いから、局所的に放射率を調整していることが判明するが、これは球体中心を恒星位置に維持するための仕組みである。この表皮が放射しているエネルギーは、内部で受け止めている恒星のエネルギーよりもはるかに少ないが、それはエネルギーを大量に貯蔵できるスマート生地でできていた。約12×1029ワットものエネルギーを受け止めて操作する存在とは。

このダイソン球を太陽-土星間距離程度で公転している赤色矮星連星(共にM型星なので「ダブルM」と呼称)があり、主人公らはその連星を囲む星周円盤内の軌道上を活動拠点とする。数年後、そこに主人公らは居住地と帰還用のビーム推進施設を構築し、探査の準備を終える。

ついに〈レッド・ラバー・ボール〉に潜入すると、反水素のシリンダーが次々と宇宙船に積まれ発射されている現場を目撃する。彼らはメンテナンスロボットに追われながらも、逆にロボットを捕獲して何とか無事に脱出する。「ダブルM」の居住地に戻ってから、〈レッド・ラバー・ボール〉を運用・維持するためには知性がいらないのではないか、あそこに自意識をもった存在はいないのではないか、という議論がされる。

そんな折、球内部から発射されている多数の宇宙船は、約2,700天文単位離れた先にある、直径が太陽の約2倍で非常に暗く低温の球体〈ブラック・ラバー・ボール〉に向かっていることが判明する。さらなる観測により、この〈ブラック・ラバー・ボール〉に衛星が発見される。その形状はトーラス(円環体)で、回転していた。しかしこれが生物圏ならギガワット級のエネルギーが必要となり、赤外線域で明るくなるはずだが、そうなっていない。回転しているのが外殻で、それが宇宙放射線の減衰用とすれば原始的な仕組みといえる。そこから石器時代のドーナツということで、〈ストーン・ドーナツ〉と名付けられた。

データ分析の結果、〈ブラック・ラバー・ボール〉は木星の約70倍の質量を持つ純粋水素の氷の球体を取り囲む殻であり、中の球体はほぼ木星サイズにまで圧縮されているという事実が判明する。恒星になる寸前だ。これは〈アイスボール〉と呼ばれることになる。謎を解くため、主人公らは〈ブラック・ラバー・ボール〉系に向かう。

そういった展開の中で、アンバーとカテラの対立、カテラとトニーの不和、トニーに思慕を抱かれて関係を持ってしまうアンバー、などの人間模様エピソードも挿入される。

彼らは捕獲ロボットの解析などから、〈ストーン・ドーナツ〉の全システムの掌握に成功する。そこは97億年前の素材でできた巨大施設で、人間よりやや大きいサイズの生物のために造られたことが分かるが、しかし痕跡は発見されず、その詳細は不明。〈ストーン・ドーナツ〉表面は厚さが5メートルもあったが、その理由も不明だ。

トニーとカテラがシャトルに乗って探査に向かう中、アンバーは遅延なしにアクセスしたいからと理由をつけ、ある思惑を抱いてひとり〈ストーン・ドーナツ〉に移る。3日後、〈レッド・ラバー・ボール〉の反物質輸送船が〈ブラック・ラバー・ボール〉に接近・突入してきた。

アンバーはそこで、これは自爆装置なのではないかと気づく。もし反物質からなるシリンダーが〈アイスボール〉表面に衝突したら、対消滅反応で爆発が生じ、放射線で恒星内部温度にまで加熱され、核(コア)が圧縮されて核融合反応が起こる。〈アイスボール〉は点火して恒星と化すのだ。

自分を置いて急いで逃げるよう乗組員達に告げるアンバー。そしてついに落ちた反物質シリンダーが〈アイスボール〉に衝突するが、なぜか5トンの固体反物質が命中しても表層で対消滅反応は起きなかった。〈アイスボール〉外層が、液体もしくは超流動の反水素でできていたのだ。しかしその先、この衝突の衝撃が恒星誕生を引き起こすなら、その風は反物質でできることになる。アンバーを置いて恒星船は加速し、〈アイスボール〉から生じた反陽子プラズマの波に追われながら、地球への帰路につく。

船内時間で10年後、予定通りコールドスリープから目覚めた乗組員達は、生き残っていたアンバーから届いていたメッセージを受け取り、眼前で小天体が気化する光景を見せられる。アンバーがレッド・ラバー・ボールを操って行ったのだ。アンバーは「私は星明りの女帝。周囲何百光年にもわたる並外れた力を有していて、制約となるのは光速と、私自身の価値観だけ」と宣言し、自らの意思で孤独を選んだことを告げる。

メモ

本作は2018年のアナログ誌読者賞(AnLab Awards)中編部門の次席となっている。また、本作はノードリイの未来史に属しているが、独立して読める。

惜しい点として、主人公含めて人間キャラの性格描写が唐突過ぎるように感じるので、もう少し各キャラをきちんと立たせれば良くなりそう。人づきあいが苦手という性格を押し殺して乗組員らと接しているという主人公の設定だが、それがあまりうまく描写できているとは言い難い。主人公のコミュニケーション障害をもっと強調すれば最後の選択も腑に落ちるのだが、しかしそれだと船長としてどうなのかという問題も生じるので、悩ましいところではある。それと主人公は名前もアジア系ではなく、仏教徒だという説明もなかったのだが、ストレスが溜まった際に震えながら「南無妙法蓮華経」と唱え始めたのには困惑した。とはいえダイソン球のSFが読みたい人にはお薦め(そんな人いるのかと思うかもしれないが、自分がまさにそうなのだ)。

本作が収録された短編集のまえがき(Preface)で、ノードリイはこう書いているのだが、それにしてもキャラクターが極端すぎる気がする。

“Empress of Starlight” is as much an exploration of an extreme character as an exploration story of extreme technology. It’s a bit cautionary; while Dyson Sphere-like concepts have been kicking around for about a century, science fiction may have been slow to grasp just what the implications of that technology are. This is perhaps because we may think about such things without considering how other scientific and technological advances would mesh with the concept. To think of a Dyson sphere as just a source of energy for billions of space colonies seems a bit quaint. “Empress” asks us what checks, if any, may be put on such technology and its users.

“Empress of Starlight” は、極端なテクノロジーの探求物語であると同時に、極端なキャラクターの探求物語でもある。これはちょっとした警告を含んでいる。ダイソン球的なコンセプトは1世紀ほど前からあったが、SFがそのテクノロジーの持つ意味を理解するのは遅かったのかもしれない。おそらく、他の科学技術の進歩がこの概念とどう噛み合うかの考えなしに、こういったものを考えてしまうからだろう。ダイソン球を何十億ものスペースコロニーのエネルギー源と考えるのは、少し古風な感じがする。“Empress of Starlight” は、このようなテクノロジーとその使用者に対して、もし制限をかけられるならば、どのようなものが考えられるかを問うているのだ。

G. David Nordley, Around Alien Stars, Brief Candle Press, 2019

なお、消えた星が属するIC 2602という散開星団はここにある。

南十字星の右に見える、散開星団IC 2602とりゅうこつ座シータ星の位置(赤丸)。
IAU and Sky & Telescope magazine (Roger Sinnott & Rick Fienberg), CC BY 3.0, via Wikimedia Commons を改変

作中で興味深かったのは、もしもダイソン球自体が位相制御(フェイズド)レーザー・アレイだったら……という以下の話。要は恒星間レーザー兵器だ。

“Earth is four hundred and fifty light years away. But if the surface of this thing includes a phased optical array, it could put about half the star’s energy output on a spot as small as 100 meters on Earth.”

[...]

“[...] The intensity would be something like ten to the eighteenth Suns—an exasun if you like. Something like ten million trillion Suns per square meter.”

「地球は450光年離れている。けど、もしこの物体の表面に位相光学アレイがあれば、恒星のエネルギー出力の約半分を、地球上の100メートルほどの小さな領域に当てることができる」

(略)

「(略)その強度は太陽の大体10の18乗個分くらいになる――エクササンって呼んでもいいけど。1平方メートルあたり1,000京個の太陽といったところね」

そして最後にニキが語る〈アイスボール〉の点火描写が白眉。本邦では庄司卓『それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』シリーズでお馴染み(?)の惑星点火器だが、本作では具体的な物理描写がされているのが良い。まあ、ちょうど運ばれて来たシリンダーでたまたま点火するというのは、都合がよすぎるといえばその通りだが。もう少し「罠」っぽい仕掛けがあってもよさそう。

余計な話だが、正六角形で球面すべてを覆うのは無理なので、〈レッド・ラバー・ボール〉も極域が開いているとはいえ、どこかに正5角形もあるのだろうなと思いながら読んだ。

そもそも自分は、天文家で作家のダンカン・ルーナンのオウムアムアについての記事で作品の存在を知り、そのダイソン球の構造について知りたくて読んだので、個人的にはキャラ描写などはどうでもよかった。以下がその記事の引用だが、画像は作中の〈レッド・ラバー・ボール〉の構造を理解する助けになる。なお、ローブ教授というのは著書『オウムアムアは地球人を見たか?』などでオウムアムア=異星人の宇宙船説を唱える天体物理学者のアヴィ・ローブ

Fig. 4. G. David Nordley, flexible Dyson sphere element, design for “Empress of Starlight,” (Analog, Nov/Dec 2018).

To explain the observed effects, 'Oumuamua has to maintain a constant surface area facing the Sun while also rotating as seen from Earth. Addressing that issue, Professor Loeb has recently noted that this requires “extreme geometry,” suggesting that that the part visible from here may have been a solar collector for a solar-electric drive. When I was asked to review the issue for the online journal Concatenation, a first idea that occurred to me was that 'Oumuamua might be a discarded hexagonal plate from a flexible Dyson sphere, an idea suggested by G. David Nordley as an alternative to breaking up the planets of a star system, to build a shell around their star, or a sphere of asteroids. In his novella “Empress of Starlight” (Analog, Nov/Dec 2018), he proposed a sphere of flexible, interlinked hexagons (Fig. 4), sustained by sunlight pressure and therefore self-correcting if disturbed. Since the sphere isn’t rotating, a hexagon that was cast loose for any reason would travel radially away from the star until it reached escape velocity or until the hole it left was plugged. Such a stray plate could be considered a solar sail, once it was adrift, although it wasn’t intended to be one. Mashchenko’s paper had suggested that a plate with different reflectivity on its two sides might provide a better fit to the light-curves—but it would not explain the even acceleration, which Professor Loeb stresses eight times in his book.

観測された効果を説明するためには、オウムアムアは太陽に面する表面積を一定に保ちながら、地球から見て回転していなければならない。ローブ(Loeb)教授は最近、この問題に対処するためには「極端な幾何学的形状」が必要だと指摘し、ここから見える部分が太陽電気駆動装置用の太陽光収集器(ソーラーコレクター)であった可能性を示唆している。オンライン誌『Concatenation』でこの問題のレビューを依頼されたとき、最初に思いついたアイデアは、「オウムアムア」は柔軟性のあるダイソン球から廃棄された六角形の板ではないかということだった。このアイデアは、G・デイヴィッド・ノードリイが、恒星系の惑星を分解して恒星の周りに殻を造る、あるいは小惑星からなる球を造ることの代わりに提案したものだ。彼の小説 “Empress of Starlight”(Analog, Nov/Dec 2018)の中で、彼は柔軟な六角形が連結した球体(図4)を提案しており、太陽光の圧力によって支えられているため、もし乱された場合は自ら修正する。球体は回転していないため、何らかの理由で放り出された六角形は、脱出速度に達するまで、またはその六角形が残した穴が塞がるまで、恒星から半径方向に遠ざかる。このような迷子の板は、意図したものではないが、いったん漂流すればソーラーセイルとみなすことができる。マッシェンコ(Mashchenko)の論文では、両面の反射率が異なるプレートであれば、光度曲線にうまく当てはまる可能性が示唆されていたが、ローブ教授が著書の中で8回も強調している均等な加速を説明することはできない。

Duncan Lunan, "Astronautical Explanations for ‘Oumuamua", Analog Science Fiction and Fact, May/June 2023

著者について

G・デイヴィッド・ノードリイことジェラルド・デイヴィッド・ノードリイは1947年ミネソタ州生まれ。元米空軍少佐で、物理学とシステム管理の学位を有し(英Wikipediaには「physicist(物理学者)」ともあるがこれは間違いだと思う)、1980年代初頭には、エドワーズ空軍基地の米空軍ロケット推進研究所(Air Force Rocket Propulsion Laboratory)で先進的推進部門のチーフを務めた。1989年に退役したのち本業は宇宙工学コンサルタントをしていたが、いまはもう現役から退いているらしい。空軍時代に物理学者で作家のロバート・L・フォワードと知り合い、その影響で1990年からSFを書くようになる。SF関連の執筆ではG・デイヴィッド・ノードリイ名義を使っている。ノードリイの邦訳された作品はこれまで短編2本と中編1本しかない。

*1:銀河系に点在する図書館を結節点とする、非常に緩やかな異種族間の銀河文明のようなものがある。