ジェラード・K・オニールとジェフ・ベゾス:宇宙植民思想の系譜

先日ジェフ・ベゾスによるブルーオリジン社の発表内でスペースコロニー構想(オニールシリンダー)が紹介され、ベゾスが「コロニーを可能にするためのインフラ構築が今の世代の仕事だ」と語っていた。

それに関連してか、1980年代にプリンストン大学の学生だったベゾスが、当時同大学にいたスペースコロニー構想の提唱者ジェラード・K・オニールの教えを受けていたかのようにもとれる記述をちらほら見かけた。

これについて、事実はどうだったのか気になってざっくりと調べてみたのだが、結論としては「直接の教え子といえるかどうかはわからない」ということになってしまった。

当時オニールは物理の基礎講座でスペースコロニーに関する話もしていたが、ベゾスがこれを受けたことはないようだ。当初ベゾスは物理を専攻していたが、最初から専門的な講座を受講している。そして量子力学まで進んだ時点で物理学者にはなれないと思い、専攻を計算機科学と電気工学に切り替えている。どうやらオニールの下で物理学を学んだというわけではなさそうである。

ただし、キャンパス内で開かれていた誰でも受けられるオニールのゼミでベゾスは常連だったという話があり、これを素直に信じればオニールの教えを受けたと言えるだろう。だが、ジェラードの妻ターシャ(Tasha O'Neill)はこれについて断言できないと語っているようなので、確証がない。このゼミの話はクリスチャン・ダベンポート『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』(原題:The Space Barons: Elon Musk, Jeff Bezos, and the Quest to Colonize the Cosmos)に登場するのだが、この箇所は注もつけられておらず出典が不明である。著者はベゾス本人にも直接取材しているので、あるいはそこで語られたのかもしれない。

ベゾスは学生組織「宇宙探査・開発学生連盟」(SEDS)のプリンストン大学支部長を務めたほど当時から宇宙に関心があったので、オニールのゼミに参加していたというのは十分あり得る話ではある。なお、このSEDSをマサチューセッツ工科大学で立ち上げたピーター・ディアマンディスは、のちにXプライズ財団を創設した人物。ジュリアン・ガスリー『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』(原題:How to Make a Spaceship: A Band of Renegades, an Epic Race and the Birth of Private Space Flight)によれば、1999年にXプライズへの資金提供を依頼するためディアマンディスがベゾスと会った際には、会話の中でオニールのことや月の資源採掘についても言及したという。このとき資金提供は断られているが、ベゾスはディアマンディスに「Amazonは宇宙へ行くための金を稼ぐ手段だ」と語っていた。

ちなみにベゾスは2018年の国際宇宙開発会議(ISDC)にて、米国宇宙協会(NSS)が主催するジェラード・K・オニール記念賞を受賞したが、このときターシャがプレゼンターとして直接この賞を贈呈している。米国宇宙協会はL5協会NSI(National Space Institute;フォン・ブラウンが設立)が合併した組織である。

この受賞後に行われたベゾスの対談というか公開インタビューにて、インタビュアーがオニールからの影響について尋ねた際、「あなたはプリンストン大学当時、彼のゼミを受けていましたが……」と話を切り出したのだが、そこでベゾスはオニールの影響を大いに認めたものの、当時のゼミの話については触れなかった。このときの受賞を伝える他の記事を読んでも、ベゾスがオニールの直接的な教え子だと明言した話は見当たらない。そのようなエピソードがあれば、オニールの名を冠した賞を受ける際にベゾス本人が多少は言及しそうに思えるし、それが記事で伝えられてもおかしくないが、どうやらそんな話は出なかった模様。

とはいえ、ベゾスは高校時代に出版されたオニールの著書The High Frontier(邦題『宇宙植民島』)を何度も読んだと語っており、また高校の卒業時には学年総代として、地球保護の観点から軌道上に宇宙植民地を築くことについてスピーチしたこともある。たとえ直接オニールに会っていなかったとしても、その思想の流れを汲む者であるのは間違いない。

The High Frontier: Human Colonies In Space (English Edition)

The High Frontier: Human Colonies In Space (English Edition)

宇宙植民島―1990年完成!“第二の地球”計画 (1977年) (プレジデントbooks)

宇宙植民島―1990年完成!“第二の地球”計画 (1977年) (プレジデントbooks)

なお、オニールのスペースコロニーに代表される宇宙植民思想の流れについては、かつて永瀬唯氏がSFマガジン連載記事にて大変詳細な解説をしているので、興味のある方はそれを参照されたい。

【追記】そして、ベゾスの語ったスペースコロニー構想について火星植民派であるイーロン・マスクのコメントが……(苦笑)

参考

宇宙の覇者 ベゾスvsマスク

宇宙の覇者 ベゾスvsマスク

Xプライズ 宇宙に挑む男たち

Xプライズ 宇宙に挑む男たち