スペースコロニー・レファレンスリスト

スペースコロニーの設定構築や考証用の参照先一覧と、いくつかのメモ。

関連主要SF

アイザック・アシモフ,「地球人鑑別法」"To Tell at a Glance", 『変化の風』The Winds of Change and Other Stories 所収, 東京創元社, 創元SF文庫, (1986, 原著1983).
スタンフォード・トーラスを舞台とした、その設定がオチと不可分になっているSFミステリの佳作短編。スポーク内のエレベータ描写などもある。Saturday Evening Post 1977年2月号に掲載されたものの全長版。創元推理文庫→創元SF文庫。
アイザック・アシモフ,「鳥たちのために」"For the Birds", 『変化の風』The Winds of Change and Other Stories 所収, 東京創元社, 創元SF文庫, (1986, 原著1983).
球形スペースコロニー両極付近の低重力地帯で飛行するために両腕につける翼や、それを超える飛行スーツデザインについて。コリオリ効果にも言及。Isaac Asimov's Science Fiction Magazine 1980年5月号掲載短編。創元推理文庫→創元SF文庫。
アーサー・C・クラーク,『宇宙のランデヴー〔改訳決定版〕』Rendezvous with Rama, 早川書房, ハヤカワ文庫SF, (2014, 底本1979&1985, 原著1972).
太陽系に飛来した巨大円筒構造物「ラーマ」が舞台。海外SFノヴェルズ→ハヤカワ文庫SF→改訳決定版。
ジェイムズ・P・ホーガン,『未来の二つの顔』The Two Faces of Tomorrow, 東京創元社, 創元SF文庫, (1994, 底本1983, 原著1979).
スタンフォード・トーラスが舞台。創元推理文庫→創元SF文庫。
ジェイムズ・P・ホーガン,『終局のエニグマEndgame Enigma, 東京創元社, 創元SF文庫, 上下巻, (1989, 原著1987).
この下巻に収録された永瀬唯氏のスペースコロニースタンフォード・トーラス)解説が資料としても秀逸。創元推理文庫→創元SF文庫。
野尻抱介,『サリバン家のお引越し』〈クレギオン4〉, 早川書房, ハヤカワ文庫JA, (2004, 底本1993).
円筒形スペースコロニーが舞台として登場。富士見ファンタジア文庫ハヤカワ文庫JA
あさりよしとお, 『アステロイド・マイナーズ』, 徳間書店, リュウコミックス, 1-2巻 (2010-2013).
第1巻収録作「ゆうれいシリンダー」は小惑星円筒コロニーが舞台。宇宙で人工閉鎖環境を維持する難しさを、良質なジュブナイルに転化させている。第2巻収録の「月は地獄だ」には、スペースコロニー建設の理不尽さを指摘するシーンがある。
カサハラテツロー, 福江純 監修,『スコペロ』, メディアファクトリー, MFコミックス, 全3巻, (2009-2010).
独特の乳房(ウーベル)形スペースコロニーを舞台にした無重力競技(回転軸付近でおこなわれる)を描いている。第3巻には福江氏のあとがきを収録。
星野之宣, J・P・ホーガン 原作,『未来の二つの顔』, 講談社, ミスターマガジンKCDX, 全2巻, (1993-1994).
ホーガンの作品を漫画化したもの。原作と異なった結末はホーガン自身に賞賛された。のちに全1巻にまとまった文庫版も出ている。

スペースコロニーの出てくるフィクションは非常に多いため、ここでは特に挙げておきたいSF作品のみを並べた。その他の作品は、以下を参照のこと。

関連論文等

英語圏の論文は随時調べて追加したい。未入手の文献には備忘のためチェックマーク「✔」を付けている。

以上のうち福江純 (J. Fukue) 氏の論文は、のちに著書『パソコン・シミュレーション スペースコロニーの世界』の下敷きになったもの。

関連書誌

主要なものについて年代順に並べた。加えて、資料としての有用度を独断と偏見により5段階(★の数)で表した。

J・D・バナール, 鎮目恭夫 訳,『宇宙・肉体・悪魔 理性的精神の敵について』 The World, the Flesh & the Devil: An Enquiry into the Future of the Three Enemies of the Rational Soul, みすず書房, (新版2020, 底本1972, 原著1929). ★★★☆☆
英国の科学者 J・D・バナールが27歳で書いた未来論。スペースコロニー(バナール球の基になった案)、テラフォーミング、サイボーグ、精神のダウンロード、電子生命などの概念を述べており、のちに A・C・クラークが本書を "the most brilliant attempt at scientific prediction ever made"(「これまでなされた科学的予測のうち最も華麗な試み」)と評したらしい。邦訳新版には瀬名秀明氏の解説付き。
JD Bernal-The World, the Flesh and the Devil - 原書の内容が公開されている。
ロナルド・ブレイスウェル, 西俣総平 訳,『謎の宇宙交信』 The Galactic Club: Intelligent Life in Outer Space, 佑学社, (1976, 原著1974). ★☆☆☆☆
SETI の解説書で、いわゆるブレイスウェル探査機のアイディアを一般向けに提示した本だが、第14章「宇宙への植民」でオニールの島3号や、2基の円筒間での(円筒の自転を利用した)移動連絡方法などについても図入りで紹介している。無論スペースコロニーという日本語表記はされず、「宇宙植民地」と訳されている。
ジラード・K・オニール, 木村絹子 訳,『宇宙植民島』 The High Frontier: Human Colonies in Space, プレジデント社, (1977, 原著1976). ★★★★★
言わずと知れたジェラード・K・オニールの邦訳書。なお著者名表記は奥付だと「ジラード・K・オニール」、表紙とカバーでは「G・K・オニール」となっている。邦訳版だと冒頭に口絵はあるがすべてモノクロ化されており、本文中の図版については省かれている。
Gerard K. O'Neill, The High Frontier: Human Colonies in Space, Collector's Guide Publishing, Apogee Books Space Series 12, (2000, 底本1976). ★★★★★
『宇宙植民島』の原書改訂版(第3版)。2000年に復刊されたこの版には、ジェラードの息子ロジャー (Roger O'Neill) の前書きとフリーマン・ダイソン (Freeman Dyson) による序文、そして第2部として宇宙研究者らによるその後の関連トピックを記した章が追加され、70分の著者インタビューを収録した CD-ROM も付いている。
Amazon.co.jp: The High Frontier: Human Colonies In Space (English Edition) 電子書籍: Kindleストア - Kindle 版も出ているが、中身はおそらく1976年の初版の内容だと思われる。
The High Frontier : Human Colonies in Space: 紀伊國屋書店BookWeb - 目次が読める。
The High Frontier by Gerard O'Neill An Apogee Books Publication - 出版社による紹介ページ。
The High Frontier: Human Colonies in Space - Wikipedia - カラーイラストが載っている。
The Don Davis High Frontier Artshow | Space Studies Institute - オニールの The High Frontier(初版と第2版)のために描かれた Don Davis によるスペースコロニー関連のイラスト。マスドライバー、マスキャッチャー、SPS、小惑星採掘の絵など。
木村繁, 『宇宙島への旅 地球脱出作戦』, 朝日少年少女理科年鑑別冊 21世紀のサイエンス, 朝日新聞社, (1978). ★★☆☆☆
オニールのスペースコロニー構想を紹介した子供向けの本。この中で建築家の大家好正(おおや・よしまさ)氏によるスペースコロニー案(トーラスを14基繋ぎ合わせたもので、空想度が高い)が紹介されている。なお著者の木村繁は朝日新聞科学部長(当時)にして、『宇宙植民島』を翻訳した木村絹子の夫。カール・セーガン『コスモス』の翻訳者としても知られる。宇宙機エンジニアの水城徹氏によるブックレビューも参考。
ジェラード・K・オニール, 小尾信彌 訳,『スペース・コロニー2081』 2081: A Hopeful View of the Human Future, PHP研究所, (1981, 原著1981). ★☆☆☆☆
4部構成の未来予測本。第1部「予言の技術」はこれまでの未来予測の歴史を概観、第2部「変化の担い手」は今後100年の未来の方向性を予想、第3部「2081年の生活」は架空の未来社会をスペースコロニーの記者の目から描写して解説、第4部「ワイルド・カード」はもう少し飛躍した未来予測。第3部がこの本の半分以上を占めるが、内容はオニールの思い描く2081年(この本が出版された100年後)の未来世界。全編通してスペースコロニーのメカニズム詳細には触れられていない。
2081: A Hopeful View of the Human Future - Wikipedia
『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY RENEWAL VERSION』, 樹想社, (2000, 底本1981). ★★★★☆
松崎健一宮武一貴河森正治永瀬唯、森田繁(敬称略)といった、SF 設定・考証分野で名を知られる(またはのちに知られることになる)スタジオぬえ関連の面々が関わった、『機動戦士ガンダム』関連ムックの復刻版。みのり書房のオリジナル版よりは入手しやすいと思われる。"GUNDAM SCIENCE" の章にある、江藤巌「G・K・オニールのスペース・コロニー計画」が秀逸。
ガンダムセンチュリー - Wikipedia
村田渉,「SPACECOLONY もう一つの地球」,『OMNI 日本版オムニ』, 1982年5月号(創刊号), pp. 22-31, 138-139. ★★☆☆☆
「50億人が移住するスペースコロニーへの熱い期待」という副題が付いている。
新田慶治,『スペース・シャトルの科学 スペース・コロニー時代の幕開け』, 講談社, ブルーバックス, (1982). ★★★★☆
1981年から始まったスペースシャトル計画を紹介する本。「第8章 スペース・コロニーへの道」(pp. 199-230)で、レポート「NASA SP-413」を元にスペースコロニーの構造が詳しく紹介されている。なお第7章ではマイクロ波送電を利用した太陽発電衛星を解説。
江藤巌,「ミッションGALパック ミッション16 スペース・コロニー 人類が宇宙に移住する日」,『メカニックマガジン』, 1983年2月号, pp. 106-111. ★★★★★
島1号から島3号に加え、サンフラワーやクリスタル・パレスといったタイプのオニール提案コロニーも紹介。D・J・シェパード (D. J. Sheppard) によるムーンクリート利用のプレストレス・コンクリート構造案や、小惑星帯コロニーとしてフランク・D・ヘス (Frank D. Hess) の案ディミーター (Demeter)、そして図のみだが MIT のスペースコロニー案も紹介されている。また、文中でオニールの名前ジェラードについて「日本ではジェラルドと書かれる場合があるが間違い」と指摘。
A. T. ウルベコフ, 木下高一郎 訳,『宇宙移民計画 環境と資源を求めて』 Богатства внеземных ресурсов, 講談社, ブルーバックス, (1986, 原著1984). ★★★☆☆
「第6章 未来のスペースコロニー」にて、ダンドリッジ・コール(本書内の表記は「D・コウル」)の小惑星改造コロニー、ツィオルコフスキーやオニールの「空中都市」(スペースコロニー)、ダイソン球、そしてダイソン球の亜種というべきポクロフスキー (Georgii Iosifovich Pokrovskii) の貝殻型生物圏などを紹介。火星や金星などの移動や分解に要するエネルギー計算など、太陽系の天体改造についても触れられている。カバー画(NASA の島3号イラスト)から想像される内容とは違い、オニールのスペースコロニー構想はほとんど解説されていない。SF 的にはリング状物体が生じる重力加速度の解説なども楽しい(リンク先「リングの最適な距離を探る」参考)。
大林辰蔵,『宇宙をめざして スペース・コロニーの建設』, 同文書院, (1984). ★☆☆☆☆
宇宙開発の歴史や天文研究、そしてスペースシャトル計画などをざっくり紹介する本。「5章 21世紀の宇宙社会」(pp. 177-205)の終盤(本書全体の終盤でもある)でようやくスペースコロニー構想が紹介され、宇宙移民の動機は人口爆発とエネルギー枯渇とされている。また、なぜかこの著者はダイソン球を誤解している模様。
スコードロンMINE,「NOSTALGIC FUTURE ケース18 天界の人工島」,『メカニックマガジン』, 1985年5月号, pp. 66-71. ★★★★☆
オニールのスペースコロニー構想ではなく、その前史を概説。ニュートンから始まり、1869年に史上初の人工衛星を描いたエドワード・エヴェレット・ヘイル煉瓦の月」、そこからツィオルコフスキーの宇宙温室構想、ノールドゥンクの車輪型宇宙ステーション、オーベルトの車輪型およびローラー型の宇宙ステーションなどを紹介。ちなみに著者の「スコードロンMINE」は永瀬唯氏の別ペンネーム
大林辰蔵,『宇宙からの発想 ビッグバンからスペース・コロニーまで』, PHP研究所, (1987). ★☆☆☆☆
チャレンジャー号爆発事故や著者の関与した人工オーロラ生成実験(SEPAC計画)の話などがかなり盛り込まれているが、その他の内容は1984年の『宇宙をめざして』とそう大きく変わらない。スペースコロニーについては「第4章 スペース・コロニー」(pp. 85-113)にて取り上げられている。
エド・レジス, 大貫昌子 訳,『不死テクノロジー 科学がSFを超える日』 Great Mambo Chicken and the Transhuman Condition: Science Slightly Over the Edge, 工作舎, (1993, 原著1990). ★★★★☆
主に第2章「ラグランジュのふるさと L5 結社の仲間たち」で、オニールのスペースコロニー構想とヘンソン夫妻(当時)による L5 協会(本書内の表記は「L5 結社」)の設立について描写されている。
不死テクノロジー/詳細 - 工作舎
フランク・クローズ, 久志本克己 訳,『地球の最期 地球と人類を襲う宇宙的危機』 End: Cosmic Catastrophe and the Fate of the Universe, 講談社, ブルーバックス, (1992, 原著1988). ★★☆☆☆
第13章でオニールのスペースコロニー構想とそのメカニズムに触れており(pp. 310-316)、2基の円筒間での移動方法も図入りで紹介。
横尾武夫 編, 『新・宇宙を解く 現代天文学演習』, 恒星社厚生閣, (1993). ★★☆☆☆
演習形式の天文学テキスト。執筆メンバーに福江純氏がおり、「第8章 SFから天文学へ」でスペースコロニーに関する物理演習が載っている。なお、改訂版である『超・宇宙を解く 現代天文学演習』には掲載されていない。
『季刊大林 No.41 ラグランジュ・ポイント』, 大林組広報室, (1996). ★★★★☆
大林組の広報誌。「ラグランジュ・ポイントの宇宙都市『スペース・ナッツII』建設構想」収録。石井信明「ラグランジュの重力平衡点」や石原藤夫「SFイラストに描かれたスペースコロニー ベスト7」という記事も。
季刊大林 | バックナンバー目次
永瀬唯,「GUNDAM UNIVERSE U.C.SCIENCE」, 『MOBILE SUIT GUNDAM THE MOVIES I 『機動戦士ガンダム』劇場用アニメ映画第1作 フィルムコミック』, 旭屋出版, (1996), pp.265-271. ★★★☆☆

ガンダムシリーズのフィルムコミック巻末解説「GUNDAM UNIVERSE」のうち、「U.C.SCIENCE」が永瀬唯氏の執筆部分。スペースコロニー、月面マスドライバー、マスキャッチャーなどについて。

永瀬唯,「GUNDAM UNIVERSE U.C.SCIENCE」, 『MOBILE SUIT GUNDAM THE MOVIES IV『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』劇場用アニメ映画第4作 フィルムコミック』, 旭屋出版, (1997), pp.265-271. ★★★☆☆

小惑星植民構想、小惑星輸送などについて。
永瀬唯,「GUNDAM UNIVERSE U.C.SCIENCE」, 『MOBILE SUIT GUNDAM 0080 THE MOVIES VIII WAR IN THE POCKET PART2『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争2』オリジナル・ビデオ・アニメ フィルムコミック』, 旭屋出版, (1998), pp. 223-229. ★★★☆☆

スペースコロニーの生活について。この巻は「U.C.SCIENCE」部分が本文では p. 237 まで(目次では p. 235 まで)となっているが、内容と文体から考えるに、永瀬氏の執筆部分は p. 229 までだと思われる。
福江純,『パソコン・シミュレーション スペースコロニーの世界』, 恒星社厚生閣, (2000). ★★★★★

SF ファンでもある理論天文学者の著者が、円筒形スペースコロニーの物理について式を用いて詳しく解説。ただし開放型では「窓風」の発生が指摘されているため「流体力学的な問題を考える場合は,しばしば密閉型コロニーを想定する」(p. 7)とある。
恒星社厚生閣|スペースコロニーの世界 - 本書に使われているプログラムのダウンロードができる。
ガンダムワールド - 著者本人が公開している本書の第1章が読める(図版はナシ)。
永瀬唯,『宇宙世紀科学読本 スペース・コロニーとガンダムのできるまで』, 角川書店, (2001). ★★★★☆

パワードスーツとスペースコロニーにまつわる SF・科学技術史を、その影響下で成立したガンダムシリーズの設定と絡めて概観する。『Ζガンダム』放映当時の『月刊ニュータイプ』連載記事「ア・ビュー・オブ・ガンダムワールド α時代のガンダム」(1985年4月創刊号〜1986年7月号、初回のみタイトルが「ヒストリーオブガンダム」)と旭屋出版から出たガンダムシリーズのフィルムコミック巻末解説が基になっているらしい。イラスト担当は無記名だが、実際は田中精美氏。なお、最終章にあるミノフスキー物理学の解説は、スペースコロニーとは無関係な上にここだけ完全にフィクションだが、しかし SF 設定の極北といえる。
福江純,『SFアニメの科学』, 光文社, 知恵の森文庫, (2002). ★★★☆☆

『SFアニメを天文する』(日本評論社, 1993)の文庫版。pp. 25-40「機動戦士ガンダム――スペースコロニー」収録。
福江純,『SFはどこまで可能か?』, 扶桑社, 空想科学文庫, (2004). ★★★☆☆

『やさしいアンドロイドの作り方』(大和書房, 1996)の文庫版。pp. 57-78「第3章 人類が宇宙に住む日はくるのか?」にて、月面基地スペースコロニー軌道エレベータを紹介。
永瀬唯,「デッド・フューチャーReMiX Vol. 68-88 ハイ・フロンティア――世俗化された人類宇宙進化思想」,『SFマガジン』, 2008年2月号-2010年4月号. ★★★★★

元来は神秘主義と結びつく人類の宇宙進化思想から生まれた「宇宙への植民・居住」という概念が、その後の科学技術や文化(黎明期の宇宙開発や SF など)と交錯しつつ現実にすり寄ることで「世俗化」し、いかにオニールの「スペースコロニー」という構想へ至ったのか、さらにそこから生まれた宇宙ユートピアを目指す市民運動(L-5 協会)が米国 SF 界とともに戦略防衛構想の渦に巻き込まれていった過程まで、その周辺事情も併せた経緯を詳述した連載。以下に各タイトルと掲載号を紹介(2008年7、10月号、2009年1、8月号、2010年1、2月号は休載)。

  • Vol. 68 第12章 "島1号 天界の洞窟――ラーマから宇宙植民地へ", 2008年2月号
  • Vol. 69 第12章 "島2号 精霊の地から新植民島へ", 2008年3月号
  • Vol. 70 第12章 "島3号 ローミックの巨大宇宙島", 2008年4月号
  • Vol. 71 第12章 "島4号 ノールドゥンクからフォン・ブラウンへ――ドーナツ宇宙基地の系譜", 2008年5月号。
  • Vol. 72 第12章 "間章 アーサー・C・クラークと宇宙植民思想", 2008年6月号
  • Vol. 73 第12章 "島5号 フォン・ブラウンの夢", 2008年8月号
  • Vol. 74 第12章 "島6号 星の教祖オニール", 2008年9月号(タイトルに「(Ver. 6.5)」という表記があるが誤記と思われる)
  • Vol. 75 第13章 "島7号 ドラッグ、インターネット、宇宙植民――星の伝道師ステュアート・ブランド", 2008年11月号
  • Vol. 76 第13章 "島8号 ネット革命と宇宙植民", 2008年12月号
  • Vol. 77 第13章 "島9号 L-5協会 宇宙農民の夢", 2009年2月号
  • Vol. 78 第14章 "島10号 国民の夢へ", 2009年3月号
  • Vol. 79 第14章 "島11号 ふたつの「ハイ・フロンティア」その1", 2009年4月号
  • Vol. 80 第14章 "島12号 ふたつの「ハイ・フロンティア」その2", 2009年5月号
  • Vol. 81 第14章 "島13号 ふたつの「ハイ・フロンティア」その3", 2009年6月号(表記は「島11号」だが誤記)
  • Vol. 82 第14章 "間章 島の形、夢の形", 2009年7月号
  • Vol. 83 第14章 "島14号 ふたつの「ハイ・フロンティア」その4", 2009年9月号
  • Vol. 84 第14章 "島15号 宇宙のエデンからビーム戦争へ" 2009年10月号
  • Vol. 85 第14章 "島16号 宇宙と政治と軍事とSF", 2009年11月号
  • Vol. 86 第14章 "島17号 宇宙と政治と軍事とSF(承前)", 2009年12月号
  • Vol. 87 第14章 "島18号 墜ちる星 『機動戦士ガンダム』とスペース・コロニー", 2010年3月号
  • Vol. 88 第14章 "島19号 墜ちる星 『機動戦士ガンダム』とスペース・コロニー(承前)", 2010年4月号(最後の図版はキャプションと合わず、ミス)

福江純,『SFアニメを科楽する!』, 日本評論社, (2010). ★★★☆☆

pp. 134-141「『機動戦士ガンダム』『新訳 Ζガンダム』――スペースコロニー」収録。

関連リンク

Space Settlement
NASAによるスペースコロニーについての情報サイト。"Online Space Settlement Books" に豊富な資料がある。
NASA SP-413 Space Settlements: A Design Study
1975年夏にNASAエイムズ研究センターとスタンフォード大学によってなされたスペースコロニー検討、それを基に編まれた文書(1977年)。
NASA SP-428 Space Resources and Space Settlements
オニールが中心となった1977年夏の検討を基に、NASAエイムズ研究センターが出した宇宙資源とスペースコロニーに関する文書(1979年)。その構造、建造場所、資材輸送、放射線対策、食料生産、都市計画、内部環境などに触れている。
Space Colony Art from the 1970s
構想を基に描かれたイラストがまとめられている。
Space Settlement Nexus Sitemap
National Space Society(米国宇宙協会:L5協会の後継団体)のサイトより。スペースコロニー関連の情報が豊富に集積されている。
Space Colonies
スペースコロニー構想についての、オニールの議会証言・記事・インタビュー・討論の記録と、エリック・ドレクスラー (Eric Drexler) による要約、さらに会議での議論をまとめた本の電子化。
Colonies in Space, by T. A. Heppenheimer
T・A・ヘッペンハイマーによる1977年の著書(ハードカバー版)を電子化。スペースコロニーの設計要素と構造について詳しく記述。
Space habitat - Wikipedia / スペースコロニー - Wikipedia
Bernal sphere - Wikipedia / バナール球 - Wikipedia
Bernal Sphere Space Habitat - Updated flyby. - YouTube - CG映像。
Bernal Sphere by GrahamTG on DeviantArt
Island Three - Wikipedia
円筒形の島3号、いわゆるオニール・シリンダー。
Stanford torus - Wikipedia / スタンフォード・トーラス - Wikipedia
ドーナツ形のスタンフォード・トーラス。
Gerard K. O'Neill - Wikipedia / ジェラード・K・オニール - Wikipedia
L5 Society - Wikipedia / L5協会 - Wikipedia
Space Studies Institute
Space Studies Institute - Wikipedia
Public Domain paintings by Don Davis
NASA のために描かれたイラスト(パブリックドメイン)。よく知られたスペースコロニーの絵もある。
"The assembly of the 'Stanford Torus', detailing the proposed 'chevron shields' above the glass 'skylights'."(建設中のスタンフォード・トーラスと、そのガラス天窓上に構想されている「シェブロン・シールド」の詳細。)という説明があるが、これはおそらくホーガン『終局のエニグマ』下巻解説(永瀬唯)にある、V字断面の反射鏡を並べる放射線防御機構のことだろう。ちなみに「シェブロン」とはV字形・逆V字形の図形(山形紋)のこと。
スペースコロニー - Jun's Home Page
Space Colonyってなに??
大阪教育大学天文学研究室のデジタル教材。福江純氏の門下生の卒業研究。
スペースコロニー考 - 美村蔵親のホームページ
20070207174335 - 野尻ボード (0226) 20070208184446 - 野尻ボード (0226) - 野尻抱介氏によるオニール型の問題点など。
スペースコロニーの内部 - 美村蔵親のホームページ
宇宙コロニー内の物体の運動:SFネタっぽい物理学演習:田部勝也 私設 物理/SF研究室
「南中時にコロニーの長軸が正確に太陽を向くような周期で、黄道面に垂直な自転軸で自転」ということは、コロニーがその長軸周りを回転しつつ(人工重力用)、さらに黄道面に垂直に回転する(日照・昼夜維持用)のか……。確かにこれだと常に長軸を太陽へ向けておく必要はなく、反射鏡を調整して昼夜を作らずに済むが、制御が大変そう。
谷甲州研究編 地球外環境の日常生活 それていく話 - 谷甲州黙認FC・青年人外協力隊
スペースコロニーの日常生活とコリオリの力について。
魔のコロニー野球(回転系から見た軌道) - 美村蔵親のホームページ
コリオリ弾道シミュレータ。回転するスペースコロニー内で野球をするとどうなるか。
ロケッターズ - 理論 - (スペース・コロニー)
任意の半径か回転周期を入れると、コロニー内の空気の量や敷地面積の値が出る計算フォームがある。
スペースコロニーの科学 : 紺碧の世界に夜露死苦 その1 序説 その2 形状 その3 ミラー その4 コロニー酔い その5 放物線 その6 放物線2
スペースコロニーに穴が空いたら - Togetter
スペースコロニーにおける気象 - Togetter
スペースコロニーの描写 - Togetter
スペースコロニーで農業 - Togetter
スペースコロニー設定談義 - Togetter
スペースコロニーにおける水圧と外壁 - Togetter
スペースコロニーの慣性モーメント - Togetter
WORLD | 機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]

機動戦士ガンダムUC』の世界観解説ページ。設定考証である小倉信也氏が発案したスペースコロニー建造方法について。ここまで具体的に建造方法を考えて映像にした例は他にない。なお、作中のメガラニカ(コロニービルダー)の発想源となったのは、宇宙でトラス構造体を建造する「ビームビルダー」という1970年代に構想されたシステムである。

Lagrangian point - Wikipedia / ラグランジュ点 - Wikipedia

Lissajous orbit - Wikipedia / リサージュ軌道 - Wikipedia

Halo orbit - Wikipedia / ハロー軌道 - Wikipedia

川勝研究室(宇宙航行システム、月・惑星探査):研究内容 - 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部

3 The Restricted Three-Body Problem

Murray and Dermott, Solar System Dynamics, Cambridge University Press, (1999). より、制限三体問題の章の翻訳。
研究報告8 ラグランジュ・シミュレーション暫定版公開 - 野田篤司ホームページ マツドサイエンティスト研究所

ラグランジュポイントについて - 美村蔵親のホームページ

L4における物体の軌道について - 美村蔵親のホームページ

「スペオペヒーローズ」RPGの部屋 4.宇宙の住宅:コロニー編 - 銅大のRPGてんやわんや

TRPGスペオペヒーローズ』の世界を題材にした読み物。
『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その13:スペースコロニー | Drupal.cre.jp

『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その21:スペースコロニー建設 | Drupal.cre.jp

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その2:スペースコロニーのビフォーアフター | Drupal.cre.jp

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その4:スペースコロニーの衣食住 | Drupal.cre.jp

ジオンの残業 コロニーと自然現象 - 三匹が食う!

Space Colonies Delusion : G_Robotism

スペースコロニー史年表 : G_Robotism (Internet Archive) - よくまとまっている。
伝説のガンダム同人誌 ガンサイト1号(1) : G_Robotism - 実際には太陽質量の影響で、L4,L5は「点」ではなく、この頂点を中心として約89日の周期で公転する「軌道」ということになる。この軌道は約80万kmの長さになる。
エレベータは回る、されど揺らがず ‐ ニコニコ動画

スペースコロニー軌道エレベータに出てくるエレベータは、回転しないと真っすぐ立てないというお話 - スペースコロニーのリム(周縁部)とハブ(中心部)を繋ぐエレベータについての考察動画。
「100年前の大予言 ロケットから宇宙移住まで考えた超人」(2015月5月14日) | コズミックフロント☆NEXT | NHK宇宙チャンネル

100年前の大予言 | NHK宇宙チャンネル - 本編の抜粋動画(解説音声は字幕に変更)。小惑星帯に建造されるスペースコロニーという、ツィオルコフスキーの未来構想が映像化されている。
スペースコロニーのこと考えてみない? 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

2ちゃんねる』未来技術板における考察スレッドの過去ログ(『みみずん検索』のミラーより)。ろくに読んでいないので有用かは不明。
宇宙環境と居住空間の新しい関係性の構築|JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展 2014 - 作品詳細(PDF)

Space colony 2222 by Ayako Tachikawa - issuu
第6回 科学の甲子園全国大会 筆記競技 問題 / 解答例と解説

2017年に実施された科学の甲子園の筆記問題。第1問(問1-問5)がシリンダー型スペースコロニーの物理問題となっており、コロニーが地球に衝突したときのエネルギーをチクシュルーブ・インパクトと比較する問題がある。

バナール球か、バーナル球か

バナール球
Rick Guidice, Public domain, via Wikimedia Commons

バナール球 (Bernal Sphere) の表記についてだが、原型となった案を唱えた人物は「バナール」と表記されるのに、その名が付いているはずのスペースコロニー(オニール提案の島1号)が「バーナル球」と表記されることがある。さらに、英語話者の発音も異なっている。例えばこちらの動画 Island One - Settlements in Space - YouTube でも人名の "John Desmond Bernal" は「ジョン・デズモンド・バナール」だが、"Bernal sphere" は「バーナル・スフェア」と発音しているのがわかる。なぜ統一されていないのか疑問だったが、その答えとなる文章を見つけた。

居住区画が球形であることから、この配置案は「バーナル・スフェア」と呼ばれることになった。「バーナル」は、英国の夢想的科学者(結晶学者)J・D・バナール。なぜ「バナール・スフェア」と表記しないかというと、「Bernal」とつづるが、アイリッシュであるため発音は「バナール」。しかし、諸外国でも(アメリカでも)「バナール」と呼べるひとが少なく「バーナル・スフェア」の呼称が一般的になっている。

困ったもんです。

永瀬唯,「デッド・フューチャーReMiX Vol. 82 第14章 ハイ・フロンティア――世俗化された人類宇宙進化思想 間章 島の形、夢の形」, 『SFマガジン』, 2009年7月号, pp. 248-251.

また、しばしば「ベルナール球」と表記されることがあるが、そもそも「ベルナール」はフランス語読みの上に綴りは Bernard(英語読みだとバーナード)になるはずなので、こちらは明らかに間違いである。以上を踏まえて、ここでは「バナール球」と表記する。

参考

  • 永瀬唯,「デッド・フューチャーReMiX Vol. 82 第14章 ハイ・フロンティア――世俗化された人類宇宙進化思想 間章 島の形、夢の形」, 『SFマガジン』, 2009年7月号, pp. 248-251.

オニール・シリンダーは2基でひとつ

スペースコロニーはその内部に遠心力による擬似重力を生むため、回転させる必要がある。フィクションによくある描写として、円筒形のコロニーを1基だけ宇宙に浮かべて回転させるというものがあるが、これには注意が必要である。もしもコロニーの自転軸が公転軌道面に対して垂直になっているのなら別に構わないのだが、オニール・シリンダー(島3号)のように、常に自転軸を太陽へ向ける必要がある場合、単基の円筒をただ回転させるだけだと少しまずいことになる。自転軸がジャイロ効果(物体の回転が高速なほど姿勢が安定する)により常に空間の同じ点を向くので、そのまま公転すると軸が太陽へ向かわなくなってしまうからだ。

そこで、系全体の角運動量をゼロにする手順を踏む必要がある。オニールの案では、80 km 離れた円筒2基を並行させて軸基部で力学的に連結し、互いに逆回転させることで角運動量を相殺させている。こうして連結した円筒を、1年間かけて歳差運動(みそすり運動)させながら360度回転させることで太陽へ向けたままにできる。また、回転部分を2分割して互いに逆回転させる(二重反転)案でも角運動量を打ち消せるが、それだと方向転換で中心軸に無理な力がかかるのでは、という指摘もある。

オニール・シリンダー
NASA/Rick Guidice, Public domain, via Wikimedia Commons

NASA のイラストではきちんと2基がペアで並んでいるのだが、日本で最もスペースコロニーという概念を普及させたガンダムシリーズでは、オニール・シリンダーが頻繁に出てくるのにこういった描写が少ない。そのためよく誤解される点なのだが、これは『機動戦士ガンダム』監督の富野由悠季氏が当時「2本を作る予算はない。話の本質じゃない。1本でいく」という方針で制作したのが原因である。とはいえ以下のように『機動戦士ガンダム』放映当時から熱心なファンは気づいていたことがわかる。また、ムック『GUNDAM CENTURY』でも江藤氏の記事でこの仕組みについて触れられている。

島3号は鏡により太陽光線を取り入れる。このため、自転軸は常に大陽を向いている必要がある。ところが宇宙島は2分に一回の高速で自転しているのでジャイロ効果が発生し、その自転軸を一定方向に保とうとする力が働く。宇宙島は地球とともに公転しているので、自転軸は一年に360度変化させてやる必要がある。このエネルギーを計算すると、一本あたり300tもの力が必要となる。マスドライバーやロケット等を用いてこれを行なうのは噴射物質をかなり浪費する。最っとも効率のいい解決法として、二本の円筒を平行に並ベ、その作用、反作用の働きで、自転軸に歳差運動を生じさせるという方法が考えられた。このために島3号は常に2本で一対になっている。

スタンフォード・トーラスのようなタイプの宇宙島では、自転軸が公転軌道面に対して垂直になっているので、このような操作は不要である。島3号においても、二枚の鏡を組み合わせて使えば、同様の効果が得られる。

伝説のガンダム同人誌 ガンサイト1号(1) : G_Robotism

さらに、この回転軸制御機構には名前が付いているらしく、永瀬唯氏が記事で触れていた。

ロスの名前は、この回転区画が常に太陽の方角に向くように、回転モーメントを制御して一年に一回転というゆっくりとしたペースで軸が移動する方法を考案したことで知られる。

この機構は共同研究者の名とともに、「スミス=ロスの腕」として、後述するオニールのスペース・コロニーでも、超巨大ミラーを太陽に向けておくのに使われるとされている。

永瀬唯,「デッド・フューチャーReMiX Vol. 71 第12章 ハイ・フロンティア――世俗化された人類宇宙進化思想 島4号 ノールドゥンクからフォン・ブラウンへ――ドーナツ宇宙基地の系譜」, 『SFマガジン』, 2008年5月号, pp. 206-209.

永瀬氏は昔の記事(別名義)でも、ヘルマン・ノールドゥンクとハリー・ロス&R・A・スミスの研究に続けて、ヘルマン・オーベルトの宇宙ステーション(『宇宙への設計』で発表)を紹介する際にこう書いている。

回転速度は約2分で、内部では1Gが得られる。常に太陽に正面が向くよう、2基の車輪がトルク補正用のロス・スミスの腕で連結されています。

スコードロンMINE,「NOSTALGIC FUTURE ケース18 天界の人工島」,『メカニックマガジン』, 1985年5月号, pp. 66-71.

ということで未確認だが、おそらく1948年のロスとスミスの研究でこの機構に言及されているであろうことが推測できる(そして、それをオーベルトが取り入れた?)。確認するにはロス&スミスの論文およびオーベルトの著作を読まないといけないので、今後の課題としておく。

付け加えると、円筒のように細長いものが宇宙空間でその長軸を自転軸にして回転するというのは、そもそも制御しなければ無理なことで自然には起こらない。宇宙空間で物体がそのように回転するとき、ちょっとした外乱があると、何もしなければ歳差運動をはじめてしまい、そのうちにとんぼ返りするような回転(フラットスピン)になる。これは、慣性モーメント(フィギュアスケートで腕を広げると回転が遅くなるアレ)が小さな回転軸から、最も安定する、慣性モーメントが最大になる軸に角運動量ベクトルが移るためである。フィクションでは、クラーク『2010年宇宙の旅』とその映画版『2010年』(1984, ピーター・ハイアムズ監督)にて、木星圏で放棄されていた宇宙船ディスカバリー号が、船内の人工重力用回転ホイールの影響により、船全体がフラットスピンに陥っている描写がある。現実にも、米国初の人工衛星エクスプローラー1号(1958年)にて、細長い形状の長手軸を中心に回転させることで姿勢制御(スピン安定)を狙ったところ、ひどい回転に陥ってしまったという事例がある。これがきっかけで、回転体の運動についての工学的理解が深まるという経緯があったらしい。また、円盤形の軸を中心とした回転は安定するので、その面でシリンダー形よりはトーラス形コロニーの方が理にかなっている。

なお、2015年にウェーブ社より発売されたスペースコロニーのプラモデルキット『スペースセツルメント』には、デザインした宮武一貴氏の設定集(全12ページの中綴じ冊子)が付属している。このスペースコロニー案はオニール・シリンダーを基本としているが、単基シリンダーのため、コロニー外壁面に姿勢制御用ジャイロホイールを何個も並べ(クラスター化)、これを恒常運用することで安定した回転を得るという設定になっている。設定メモを読むとハッブル宇宙望遠鏡リアクションホイールがヒントになっている模様だが、恒常運用ということは、ひょっとしたらリアクションホイールではなくコントロール・モーメント・ジャイロ (CMG) かもしれない(ISS の姿勢制御方法)。

参考

開放型円筒形スペースコロニー内部の大気循環

オニール・シリンダー内の大気の流れについて検証した研究がある(Matsuda 1983)。それによると、陸部で熱せられた大気が窓部で冷やされ下降することで循環が起きるそうで、これを "window-wind" つまり「窓風」と命名している。地表付近では窓部から陸部へ向かって回転に対して順行する向きへ、上空では逆行する向きへと風が流れ、この風は数百 m の厚みを持った層の中を循環するらしい。

松田は、陸部地表の温度は一定で、窓部の表面よりもわずかに高いとし、また、放射による熱の移動は無視して、熱伝導だけを考慮してシミュレーションを行った。

それによれば、軸に垂直な断面内には、陸部と窓部の温度勾配によって3つの循環が現れる。1つの陸部と、植民島の自転と逆方向に隣合わせる窓部が1セットとなり、その上空に1つの循環が対応する。その厚さは約 600 m で、陸部と窓部の境界線上では常に陸部向きの風が吹く。循環より上空は平衡状態に近く、大局的な運動はみられない。その様子を図7に示す。この循環を松田は、"window-wind" と呼んだ。

一方、回転軸を含む面内には、陽壁と陰壁の温度勾配によって緩やかな大循環が現れる。陽壁は太陽光によって暖められているから、接触した空気は上昇し、回転軸付近に集まろうとする。かたや陰壁は宇宙に放射して冷えているから、接触した空気は地表へと降りていく。その結果、回転軸付近の大気はゆっくり陰壁方向へ、地表近辺の大気は陽壁方向へと移動する。上空大気の典型的な移動速度は、断面循環の百分の一程度。そして、陸部や窓部にも軸方向の温度勾配があれば、断面循環とほぼ同じ厚さの、軸方向の循環が現れる。その様子を図8に示す。

西森一夫, "宇宙植民島の熱収支問題について", 物性研究, Vol. 58, No. 1, pp. 8-33, (1992).

西森一夫, "宇宙植民島の熱収支問題について", 物性研究, Vol. 58, No. 1, pp. 8-33, (1992).

T. Matsuda, "Meteorology in a Space Colony", Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 52, No. 6, pp. 1904-1907, (1983)

窓風の風速は文献によって値が異なり、9 m/s とか十数 m/s だとか 17 m/s だとかあるが、これはそれぞれ仮定した条件が少しずつ違うためである。ただ、どれも内壁面に人が住むことを前提とした温度条件を仮定しているので、それほどバラつきは大きくない。おおよそ十数 m/s になるものとして考えると、気象庁の表現を使えば「やや強い風」から「強い風」のあたりだ。さらにこの循環に伴い、窓部と陸部の境界付近では上昇気流や下降気流が発生するらしい。

松田論文によれば、陸部と窓部の境界線に吹く風の速さは、 (⊿T/T0)V になる。⊿T は陸部と窓部の温度差、T0 はそれらの平均気温、V は宇宙植民島地表の周転速度(中略)である。

西森一夫, "宇宙植民島の熱収支問題について", 物性研究, Vol. 58, No. 1, pp. 8-33, (1992).

つまり地上部では上昇気流、窓部では下降気流となる。一方の窓岸ではつねに(海風ではなく)窓風 (Window-Wind) が吹くことになる。(中略)

風速は、窓と陸の温度差からきまるロスビー数βによっている。β ∼ ⊿T/T0 だから、温度差を 30K とすれば、β = 0.1、従って窓風の典型的な風速は 17 m/s ということになる。かなりな強風である。(中略)

コロニーの気象学には、その他、様々な問題が存在している。たとえば、上空の温度分布。(中略)コロニーの中心軸に冷却パイプを通して、大気の温度分布を調節するというアイデアもある。

via: 松田卓也, 中川敬三, "高速回転気体力学とスペースコロニーの気象学(ナビエ・ストークスの方程式の解)", 数理解析研究所講究録, Vol. 477, pp. 101-116, (1983).

窓風は窓部と陸部の温度差によって生まれるので、この差を増大させればさらに強風が吹くことになり、逆に減少させれば風が弱まることになる。陸部の地下に大気冷却機構を設けることで窓部と陸部の温度差を小さくし、窓風を弱めることができるという提案もある(西森 1992)。

また、拡散や大気循環だけでは短時間で解消できない二酸化炭素濃度分布の不均衡を、「窓風」により解消できる可能性があるという研究も見つけた(宮嶋 2011)。

3年ほど前から大規模なスペースコロニー内の環境制御に興味を持ち文献収集を行ってきました。構造や力学的検討を行った論文はいくつかありますが、内部の環境について検討したものはほとんどありませんでした。存在するそれらの論文は1970年代のものばかり。30年以上経た今、現在の計算技術を用いてその環境を模擬します。

via: 宇宙航空環境医学研究室 スペースコロニー

空間を考慮したスペースコロニー内の人工生態系のシミュレーション
2010年。
宮嶋宏行, "スペースコロニー内の人工重力下における大気循環の解析"
2011年。学会発表の予稿集に収録された会議論文。via JASMAC-25 予稿集 11月28日講演
スペースコロニー内の人工重力下における大気循環の解析
2011年。JASMAC-25(日本マイクログラビティ応用学会 第25回学術講演会)発表資料。
スペースコロニー内の人工重力下における大気循環の解析(動画)
2011年。上の発表用に用意された、開放型シリンダースペースコロニー内部における48時間分の大気の動きがわかる Flash 動画。

付記

スペースコロニーという構想について触れる際、日本では『機動戦士ガンダム』から始まるガンダムシリーズへの言及を避けては通れない。日本ではガンダム以外の SF アニメでもたまに舞台として出てくるほどには馴染みのある概念になっているようだ。しかし『機動戦士ガンダムUC』の設定考証担当として知られる小倉信也氏は、「スペースコロニーって、実は考え方そのものが古いんです。世界中で、こんなにスペースコロニーを熱く語っているのは日本だけですよ」とインタビューで語っている(ここでいう日本というのは文脈的にガンダムのことだろう)。

確かに少し調べてみれば分かるが、世界的にみてみると、現在では学生向けの設計コンテストや教材の対象になることはあっても、学術的な研究対象となる、すなわち論文が出ることはほとんどなくなっている。米国の L5 協会も別の組織 (NSI) と合併して米国宇宙協会 (NSS) となっており、もはや往時の勢いはないようだ(現状をみるに、L5 協会に属した人々がのちにシンギュラリティ、つまり技術的特異点の信奉者となっていったのは皮肉だが納得がいく)。そういったことを考えると、2000年にもなって福江純氏の『スペースコロニーの世界』が出版された日本の状況というのは、やや特殊なのかもしれない。

また、検索してみると分かるが、宇宙空間に浮かぶ居住用人工構造体を表す語としては、英語圏では "space colony" よりも "space habitat" や "space settlement" という呼称がよく使われているようだ("space colony" といった場合は天体上の居住地に対しても使われることが多い)。

余談だが、福江氏は先の本を出す前の1990年代に、自身のスペースコロニー解析結果を英語論文にまとめて JBIS(英国惑星間協会誌)へ投稿している。そしてこの過程でアーサー・C・クラークにも論文のコピーを送っており、のちに返事をもらっている(この時なんとクラークの住所が分からないのでスリランカ宛に送ったらきちんと届いたというのだから凄い)。この返事の中でクラークは、ダンドリッジ・M・コールの著書 Beyond Tomorrow(1965)にある小惑星コロニーのイラスト(描いたのは Roy G. Scarfo)が『宇宙のランデヴー』に直接影響を与えたことに自ら触れており、スペースコロニー文化史的に貴重な証言となっている。

Dandridge M. Cole, Roy G. Scarfo , Beyond Tomorrow: The Next 50 Years in Space, Amherst Press, (1965).

なお、福江氏の論文掲載は残念ながら掲載誌側の都合により見送りとなったという。その後2010年には、鼎談イベントで『機動戦士ガンダム』監督である富野由悠季氏から直接「スペースコロニーは作れません」と言われてしまう福江氏なのであった(富野氏はそれ以前からスペースコロニー否定派であるが)。

ともあれ、スペースコロニー自体は SF の舞台として非常に魅力的なので、今後ともフィクションの世界で廃れることはないと信じたい。というよりも、個人的にはフィクションの中でのみ生き延びていく概念なのではないかと考えている。