「ハードSFのネタ教えます」サルベージ

「ハードSFのネタ教えます」とは、かつて「いろもの物理学者」こと前野昌弘氏がSF大会で主催していた企画で、ハードSFネタに使えるかもしれない物理学の論文を紹介していくというもの。ご本人のサイトにもそのタイトルを冠したコンテンツがある。

さて、そのSF大会の企画でどんな内容の話が披露されていたのか気になったので、Web上の記録から拾い集めようとしたのだが、現在では多くのページやサイトが消えており、結果として記録の残滓の寄せ集めとなった。

第1回(第??回日本SF大会?)

Web上に記録がなく、詳細不明。

第2回(第36回日本SF大会「あきこん」1997年8月23日)

午後、「いろもの物理学者」前野昌弘氏の「ハードSFのネタ教えます」にゲスト参加。いっし〔ママ〕にいたのは、堺三保、菊池誠、林穣治氏。……前野氏が来ている白衣は、ぼくが貰ったのとそろいの「MAD SCIENTIST'S UNION」のロゴとイラスト入りのもの。……ええっと、「一般相対論に矛盾しない超光速航法」「ニュートリノはタキオンにちがいない」「先進派」〔ママ〕など数題。いずれも、そのうちバクスターが書くだろう、が結論かな?

33 第36回日本SF大会「あきこん」 - HORI AKIRA:マッドサイエンティストの手帳

「先進派」は先進波の誤字。なお、このとき紹介された「ニュートリノはタキオン」説は、2011年の超光速ニュートリノ騒動の際に一部で取り上げられた(騒動とは無関係だが)。

幻と消えた回

以下のように第37回日本SF大会「CAPRICON1」(1998年)でも企画されていたようだが、事情により中止となったらしい。

宇宙のマイナス質量の測定、超光速輸送チューブ、ワームホールによる重力レンズ…これらはれっきとした物理学者達の論文の中で検討されたものです。この企画ではこれらの論文の内容を面白おかしく紹介し、これをネタにどんなハードSFが作れるかをゲストおよび参加者の皆さんと検討していきます。

火星通信 - 第37回日本SF大会 CAPRICON1 ~After Report~

第3回(第38回日本SF大会「やねこん」1999年7月3日)

この回は全然レポートが見つからず、堀晃氏が寝過ごしたことしかわからなかった。

第4回(第39回日本SF大会「Zero-CON」2000年8月5日)

田中哲弥さんと「ハード SF のネタ教えます Part IV」を覗きに行くと、堀晃さんに呼ばれ、飛び入りで企画に参加することになる。毎度のことだが、今回も理屈の上では合っているようでありながら、胡散臭い理論が続出で SF のネタ的には大変おいしい。今回の話題は、高次元宇宙、超光速航法、タイムパトックス〔ママ〕、質量制御など。

駄文14 Zero-CON - 小林泰三の不確定領域

午後3時から、前野「いろもの物理学者」博士の恒例の企画「ハードSFのネタ教えます」にゲスト参加。……これは「トンデモ論文の世界」といった趣向で、正式には「第4回」ということだが、ダイナコンなどでもあったのではないか、ぼくはもっと参加しているような気がする。……話題は当然ながら「光速の300倍」に集中したが、どうやらこれは、報道によってセンセーショナルな話題になったものの、原論文はそれほどのものではないという。(結局ぼくもよくわからんまま…)

1ミリで重なる五次元宇宙の方が相当すごい。「裸天国ではないか」(谷甲州)……とはまた懐かしいCMネタである。

恒例の玉突きタイムトラベルまで……。

参加したのは、他に菊池誠博士(中座)の他、小林泰三、田中哲弥、堺三保、谷甲州の各氏。

163 第39回日本SF大会「Zero-CON」 - HORI AKIRA:マッドサイエンティストの手帳

いろんなネタを聞くことができたのだが、おもしろかったのは膜状宇宙の話。でも、どんな話なのかを文字で書くのは難しいのでパス。もう一つはタイムマシン付きビリヤード。計算可能の単純な系に限れば、タイムマシンでタイムパラドックスを起こすのは難しい(知られている限り不可能)らしい。だから安心して親殺ししてください。ということではないところが難しいのだが。

あとは、零点振動を足がかりにして進む宇宙船とか、因果律が壊れないような気がする超光速航法とか。

森太郎のサイト - Zero-CON レポート

司会の人はイっちゃっている論文をたくさんもってきていて、それの紹介をしてくれた。 司会の他に何人かパネラーがいて、お互いに色々やりとりしながら話を進めていくのだが、 このやりとりが絶妙で、非常におもしろかった。

ネタとしてもトンネル効果を利用した超光速通信とか、 5次元ソリトン宇宙による重力の減衰効果、 零点振動による慣性の中和など色々なネタが紹介されました。

超光速通信は、最近新聞でも紹介された、 光速の300倍が達成されたという記事に関連した論文からの紹介。 トンネル効果により波の先端が光速を越えて伝達するというものらしいが、 学会ではこの効果によって情報が伝達するかどうかが非常に問題になっているらしい。 超光速ネタでは大事なことであるが、 相対論によると情報は光速を越えて伝達することはないことになっている。 これが光速を越えるとなると大事で、因果律が崩壊することになりかねないのだ。 (因果律とは、原因があってから結果が発生するという順番が変らないというもの。 超光速が実現すると、ある速度で運動している観測者から見ると、 原因と結果がひっくりかえってるようになる。 実際にどう見えるかはまた話がややこしくなるが…)

5次元ソリトン宇宙は超弦理論の研究から派生したものらしい。 超弦は物質と空間が10次元のストリングスの振動によって生じる というものなのだが、時間を含めた4次元以外の6次元がどうして 観測できないのかが問題になっている。 ソリトン宇宙理論では、3次元の宇宙そのものが5次元空間の中のソリトン(孤立波)であると考える。 要は5次元空間のなかの薄い膜のようなものと考えるわけだ。 そして、重力以外の全ての力がこの膜の中に拘束されると考え、 膜が1ミリメートル間隔で並行に同じものが並んでいて、 その中の物質同士は重力の影響を受けると考えると、 どうして、電磁力と重力がこんなにも大きさが違うのかが説明できるのだという。 この膜の間隔をひろげることができれば、重力が弱まることになるから、 重力の中和を実現できることになるという話であった。

零点振動の話は、力というものが、真空の持つ零点振動による抵抗によって生じているのだ と説明する。 なんらかの方法でその抵抗を変化させれば、慣性を中和させることも可能になるという話だった。

どれも実現性ではどっこいどっこいであるが、アイディア次第ではどうでも 料理できそうな素材であった。

Zero-CON レポート 8/5 - ゆうτοπια

「光速の300倍」というのは、おそらくこの話。

第5回『にせ「ハードSFのネタ教えます」』(第40回日本SF大会「未来国際会議:SF 2001」2001年8月19日)

このときは物理学者の菊池誠氏が前野氏の代役(にせもの)を務め、「後野昌宏(うしろのまさひろ)」という名で同様の企画を行ったらしい。内容は、菊池氏が Web で見つけてきた論文を紹介していくというもの。聞き手は堺三保、林譲治、小林泰三の三氏。

例年なら、”いろもの物理学者”こと前野昌宏氏がやっていた企画なのだが、前野氏は洋行より帰朝直後につき欠席。ピンチヒッターとして後野昌宏なるニセモノが登場。舞い上がったんだか、うろたえたんだか、ゲスト紹介をし忘れた模様。わからない話になるとすぐにごまかそうとするのは、いかがなものか。紹介した論文のリストはいずれどこかにアップされるらしい。小林泰三さんの突っ込みの鋭さに感動した。立ち見も出る盛況で、みんなハードSFが好きなんやなあ。

2001.08 - 菊池誠のWEBWEB捏造日記

北野夫妻と昼食をとった後、「にせ『ハード SF のネタ教えます」へ。少し遅れてしまったため、最初のネタを聞き漏らしてしまった。プランクマシーンという単語が聞こえた。なんでも『ΑΩ』に関係のある話だったらしい。その後、異色多世界ネタと、熱死ネタと、エントロピーネタと、2次元時間ネタが続き、最後に塵理論ネタになる。あと3か月早く聞いていたら、「予決定されている明日」〔ママ〕に使えたのに、残念なことである。

駄文20 SF 2001 - 小林泰三の不確定領域

偽ハードSFのネタ教えますは、司会が菊地誠さん、ゲストはスタッフもやっている堺三保さん、小林泰三さんに私。この企画も何回も続いている人気企画なのだが、前野昌弘さんがアメリカに行った関係で今回は同じく物理学者の菊地誠さんの登場となった。

最初に紹介されたのはエキゾチック物質関連でわかったようなわからないような話が続く。他にも一つの宇宙に無限の多元宇宙があるという禅問答のような宇宙論とか、怪しい話が続々。しかし、一番の収穫はChaotic strings and standard model parametersという今年の5月に発表された論文だろう。この論文が正しいとすると、我々の宇宙は超知性体によるシミュレーション世界である可能性があるということになるという美味しい論文。突然行方不明になる人は、シミュレーションの計算を続けることによる情報落ちでデータが消えてしまうからなど解釈は無限。あれとかこれとか幾らでも小説に応用できそうな気がする。しかし、この企画でも感じたけど小林泰三さんの理解力ってすごいなぁ。

日記 2001年7月~9月まで - 林譲治の艦船計画

二日目の最後の企画は、「にせハードSFのネタ教えます」を見る。毎年やっているいろもの物理学者さんが今年は出られないので、菊池誠がにせ・いろもの物理学者になって、SF的に面白そうなぶっとび論文(でも真面目なやつ)を紹介するという企画だ。聞き手は堺三保と林譲治さん、小林泰三さん。何か今回は小林さんと会う機会が多いなあ。例によって超光速の論文で始まったが、面白かったのはこの宇宙の中に、無限の多世界があり得るという話と、宇宙は熱的死を迎えず、数個くらいの銀河集団はばらばらにならずにずっと残るという、ちょっと心温まる説。そしてすごかったのが、カオティック・ストリング説という素粒子論の論文。カオスの計算により微細構造定数など20種類もの物理定数が自動的に算出されるというのもすごいが、これすなわちこの宇宙が、何者かの計算によって成り立っていることであるという解釈もすごい。つまり塵理論は実在したというのですね。まあ、何となくすごすぎてトートロジーが紛れ込んでいるような気もするけれど、今のところ本当かどうかもわからない、ひたすらすごい理論ということで、圧倒される。でも小林さんいわく、「わたしこれ小説で書いたところですよ。ずらっと並べたそろばんで計算するという塵理論の話」と落としてくれました。さすがは超ハードSFホラー作家です。

第40回日本SF大会 未来国際会議:SF2001 レポート - THATTA ONLINE

講師(?)はサイバー物理学者、菊池誠さん。つっこみは堺三保さん。内容は菊池さんがネット上であさってきた論文を紹介し、そこに全員でつっこみを入れる、というもの。(ということで良いんだよな) warp drive という言葉が既に物理学会では、特定の移動方法を指す言葉として定着している、という話に始まり……。

「宇宙に超光速移動が可能なレールを敷こう」

「実は宇宙には我々と殆んど変わらない歴史を持つ世界が同時に無数に存在していた!!」

「宇宙は今後、完全に熱死をむかえることなしに、小さく分断されていくであろう」

といった論文が紹介されていく。これが真面目に学会誌に投稿された物理の論文なんですか?。>識者の方々。

そして、極めつけは、イーガンの「塵理論」を地で行く、「この世の物理現象を全て計算によって読み解くことが可能な関数」の理論!!2001年5月に発表されたばかりのホヤホヤの論文。とりあえず話を聞いているだけだと筋が通ってしまうところが凄い。やはり我々は超知性の構築したコンピュータの中に存在するシミュレーションにすぎなかったのか!?(笑)

第40回SF大会「未来国際会議」参加記録 - 異次元を覗くホームページ

現代物理というのは騙されているような気がすることがあるが、 特に怪しげなもの(超光速ドライブ、ワープドライブ、塵理論)を持ち出していた。

量子力学があるので歴史は有限で空間は無限だからどこかにここと同じ世界が無限にある。

プランク長より小さい大きさならばエキゾチックな物質がなくても、超光速移動空間が作れる。

世界は全部計算できる。

などなど。ま、怪しいです。

日記2001年8月 - Phoenix's HomePage

この企画は毎回、世界中で発表されている物理学の論文の中から、ぶっ飛んだというかSFのネタになりそうなものを解説するという企画なのだが、物理論文から光速を越える研究ってのはちゃんとした物理学者によっておこなわれているんだね。「Warp Drive」ってのは既に物理の用語になっているらしい。まぁエキゾチック物質ってのが作れないとダメ何だけどさ:)

ブラウン運動をしている素粒子の動きを乱数ではなくある種のカオスとして扱うと、本来は観測値としてしか求められていない値が計算で求められてしまう、それも一つではなくいくつもというのも興味深いところ、これがなんで興味深いかというと、つまり宇宙が計算できてしまうってことだから。でも今年の5月に発表されたこの論文は素粒子学者にすっかり無視されているらしい。

また、宇宙の宇宙みたいなところの中に、宇宙の観測できる範囲、つまりビックパン〔ママ〕のもやもやが晴れている範囲というのは可算的に無限に取れるのに対して、ある適当に区切った空間の取る歴史というのはせいぜいeの(10の150乗)乗程度らしいので、同じ歴史をたどった宇宙というのは無限にあるそうな。ということで多世界ではなく、同じ世界が存在して、もし近ければそれをそのうち見ることが出来るだろうというのも、なかなか。

にっきなのです 2001年8月 - 藤澤邦匡のサイト

いつもの前野さんがお休みで、菊池さんが代わりにやるのでニセらしい。途中で眠気にまけて意識を失ったりもしたが、面白かった。

ネタは…まあ素人にはわかるはずもないのだが、まずは例年通り、超光速航法のお話。宇宙船をバブルに入れて前を縮めて後ろをのばす(←コレは覚えてたぞ)。今回は、行きは通常空間で行って、その時に後ろの空間をゆがめてtubeを作っておく"Superluminal subway"というものの紹介。行って戻ってくると超光速航法になってる、と。でもこのtubeを保つためにはやっぱりエキゾチック物質がいるらしい…。

面白かったのは"Many worlds in one"という論文。多世界は実在するらしい。我々が認知できる空間には限りがあり、遠くは見ることができない→見えないけど、とてもたくさん世界がたくさんあるはず→ということは多世界と一緒→そのうちに宇宙がどーにかなるので(膨張するのかな?)隣の世界が見れる、ということらしい。もちろん隣の世界と接触したら、影響を与えあうだろうし、第一、隣の宇宙がこっちと似ている可能性は…(笑)。でも、魅力的な話。

あとは、最近発表された論文で、「なんかの数字を決定してみたら、他の数字が全部現実の数字と合っているので、やっぱりこの宇宙は計算されてたんじゃないか」という話とか(所詮私の理解はこの程度)。

SF2001 - 息をするタピオカ

最初は「Warp Drive」。正確には「??????」と言うそうですが、よくわからん。ネタとしては宇宙船を異次元のコクーンで包み込み、このコクーンを超光速で移動させるらしい。その「超光速で移動」というのをどうやっているのかが理解できない。ちゃんと論文を読めと言うことなのだろう。

しかし2つの問題点がある。1つ目はこのコクーンの形成・維持にはエキゾチック物質が不可欠とのこと。エキゾチック物質とは、要は負の質量を持つ物質ですな。ダイエットを目指す人が聞いたら喜びそうな物質ではあるが・・・うーん、厳しい・・・。

2つ目はこのコクーンを形成したが最後、宇宙船は外部との情報交換が出来なくなるとのこと。行き先はコクーンの形成前にプログラムしておかないといけない。これではちょっと使い勝手が悪い。途中下車が不可能ならいろいろとトラブルが起きるのではないだろうか?そう会場からの突っ込みがあると、

「そういうネタのSFを書けば良いんです。」

はい、納得(笑)。

さらにこのネタが2本続く。このコクーンをチューブにして、往路はチューブを造るために光速度以下で航行し(線路を引くみたいなもん)、復路はこのチューブを使って帰ってくる。すると原理上は限りなく出発時点に近い時間に戻れるというもの。おお、凄い!行きにどれだけの時間がかかるかは考えたくないけど。

チューブを2本準備すれば?という話もあった。なるほど、それは正しいかも知れない。方法は考えたくないけど。まぁ、なんですな。「銀河鉄道999」の無限軌道みたいなもんか。

そしてもう一つ。エキゾチック物質がなくても超光速が可能!ただしプランク長未満の長さなら。・・・それって出来るのか?いや、というか、無理やん!すると作り方を以下のように紹介された。

「まず小さい物を作るための機械を作る。それがさらに小さい機械を作り、そして出来た機械がさらに小さい機械を・・・ということを繰り返せば出来ます。」

いや、そりゃ確かに原理的にはそうだけど、プランク長より小さいマシンって思いっきり不確定性原理の虜やん!しかも原子一個の大きさもないぞ!何をさせるんだ?!そんな機械に。

「ナノマシーンなんてもう古い!これからはプランクマシーン(その場で名付けられた)だ!」

・・・・・はぁ・・・・・。しかもプランクマシーンをワープであちこちに送り込んで、何をどうするのだろう・・・?

次行こう、次。今度は「多世界解釈抜きで平行宇宙を」っていうネタ。その名も「Many worlds in one」。

我々の宇宙には果てはない。しかし観測可能範囲はある。この観測可能な範囲を一つの世界とすると、宇宙全体にはいくつの世界があるか?というお話。世界の中心は任意に採れるんだから、世界の数は無限にある。では我々の世界とまったく異なる歴史はというと、現時点でeの10乗の150乗個くらいらしい。どうやって計算したのかは、これもまだ論文を読んでいないので不明。もちろん観測可能範囲は広がっていくので、歴史の数も変化する。どうやら増えるらしい。

しかし!世界は無限で、歴史の数は有限であるので、似たような歴史の数は無限にある。そういうことらしい。しかし、それって地球のすぐそばを座標中心にとった世界がほぼ無限にあるような気がするのは気のせいか・・・?観測可能範囲外に同じ様な世界があるという話に通じるのだろうか?ちゃんと論文を読んで確かめてみたいものである。

次は「余計なお世話だ!」っていうネタ。

どうやら宇宙はビッグクランチにはいたらないだろう。すると宇宙は永久に広がり続けることになるが、重力で束縛されて一体の塊となって存続できる天体の質量下限はどの辺か?というもの。どうやら太陽の10の14乗倍の重さ、つまり100兆倍くらいらしい。銀河系の重さが太陽の1兆倍程度なので、銀河数十~100個くらい。銀河群とか銀河団とかいうレベルだと残る。

で、この話のミソはそうなった時に天文学者は何を観測すればいいのか?というもの。遠方の天体は遙かに離れてしまい、広大な何もない宇宙空間に「ぽつんぽつん」と銀河群とか銀河団が浮かんでいる。そういう遠い天体はまともに観測できないかも知れない。しかし!自分の銀河群に属する天体は観測可能だ。その中に面白いテーマを見つけよう!・・・・・って余計なお世話やん!だいたいそんな先の天文学者のことを心配する必要があるのか?わからんネタだった。

えー、そして「ひも理論」の拡張版。

「10次元はもう古い。今のトレンドは11次元」

だの、

「これを13次元に拡張するとうまく行く」

だのという景気のいい話が続く。パラメーター増やしたらうまく行くのは当たり前やん・・・。こういうのはダークマターと一緒で、パラメーターいじりに過ぎない。そんなのは単なる数字いじりであって科学じゃないと思うんだけどなぁ・・・。次元に拡張にはちゃんと意味があるんだろうか?論文にするつもりなら、もうちょっと一般の人にわかりやすい内容を目指さないと。

最後のこれは凄いぞ!「順列都市」に出てきた塵理論が現実かも知れないというネタ。

量子論の領域というのは波動関数の支配する世界である。この波動関数はグラフにすると図の様に描ける。普通はこの関数のグラフはまぁまぁガウス分布的に与えるのだが、今回のネタで凄いのは仮想的な時間軸を仮定し、ある関数に従って時間ステップを刻みながら計算していくと、どんな数値を入れてもちゃんとガウス分布的な波動関数になるという。どうやらカオス的な振る舞いがガウス分布を呼ぶようだ。つまり我々がシミュレーションでやる手法を使えば、どんな初期値で計算を始めてもちゃんと最後はガウス分布的になる。

しかも!これだけで驚いてはいけない。この理論を使うと、クオークの質量を始め、ヒッグス粒子の質量や電磁相互作用係数などの値がダイレクトに出て来るという。つまりは何かい?我々の世界はよくやるシミュレーションの手法で本当に全てが記述できてしまうということかい?

というわけで、我々の宇宙は誰かが計算しているものなのかも知れないことがわかった。もしかしたらどこぞの連中の計算機で動いている「オートヴァース」なのかも。

とすると凄いよなぁ・・・普通シミュレーションをやる上ではちょっとだけパラメーターの数を減らして、つまり簡単化して行う。こういうことを考えていくと、実は我々の世界はどこぞの世界でちょっとだけパラメーターを減らしてシミュレーションされたものである。しかもその大元の世界もちょっとだけパラメーターを減らされてシミュレートされており、さらにそれをシミュレートしている世界も・・・

でもこの論文、あんまり反響はないらしい。イーガンは読んだのだろうか?

で、今回の締めのお言葉 by 菊池さん。

「私はこれが専門じゃないのでよくわかりません。」

「そういうネタのSFを書けば良いんです。」

「そこに重力レンズの人(私のこと)がいるので聞いてみましょう。」

SFの部屋 にせ「ハードSFのネタ教えます」 - ASTRO FICTION

『にせハードSFのネタ教えます』は面白かったらしい。あとで菊池さんに聞いたところでは、『順列都市』の塵理論を正当化する理論があるとか。現在の宇宙は不確定のようでいて、実は決定論的なカオスとして進行している。これは現在の宇宙の話で、ビッグバンの頃の高エネルギー状態では成立しない。

この理論にそって計算すると各種の物理定数がピタリと出てくるそうで、もしかしたらえらい大発見かもしれない。カオスの研究者の間では話題になっているのに、素粒子の研究者の間では知られていないとか。

台風直撃だ! わくわく - 野尻ボード (0064)

SF大会最後の宇宙企画は「にせ『ハードSFのネタ教えます』」。この企画は特に宇宙に限ったものではなく、毎年恒例の人気セッションだ。いつもは「いろもの物理学者」こと前野昌弘氏が、SFネタになりそうな物理学論文を紹介するのだが、今年は前野氏が大会に参加できないので、変わって菊池誠氏が、「それって本気?」と言いたくなるような論文を紹介する。パネラーは、菊池氏と堺三保氏、林譲治氏、そして途中から小林泰三氏が参加した。大量の立ち見がでる盛況で、菊池氏と堺氏による、ボケとツッコミが変幻自在に交代する話芸も冴える。

今回の目玉は、イーガンの塵理論をも説明するという論文「Chaotic strings and standard model parameters」(http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/abs/hep-th/0105152)と、実は並行宇宙は、我々のいるこの宇宙の中に存在するのだと主張する「Many worlds in one」(http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/abs/gr-qc/0102010)の2つだろう。どちらも私には短い文章で説明できる自信はないので、リンク先にある原論文を読んで欲しい。その難解な論文を、「私にもわかりません」と言いつつ、笑いもがっちり取った上で説明し、なんとなく分かった気分にさせる菊池氏の能力は大したものだと再認識する。

第40回日本SF大会SF2001レポート 宇宙関連企画レポート 松浦晋也 - SFオンライン55号

上の引用文中における論文へのリンクが切れているが、おそらく以下だろう。それぞれURLにある番号とプレプリントの番号が一致する。

また、「チューブ」「Superluminal subway」というのは以前も名前だけ出てきていた「超光速輸送チューブ」のことなのかと推測するのだが、これは「クラスニコフ・チューブ」のことなのかもしれない。

さらに、2009年のTwitter上における会話からすると、NECの南善成氏による「フィールド推進」(UFO特許のアレ)についても触れられていた模様。

2002年以降

2002年以降にこの企画が開催されたかどうかは不明。


※本記事は、かつてWebサイトに掲載していたコンテンツである。2023年3月でサイトを廃止したので、再編集した上で本Blogへと移植した。