スペースシャトル・オービターのフライトデッキとコントロールパネル

宇宙船のコックピットやディスプレイ画面などを創作で設定する際の参考資料として、スペースシャトル・オービターのフライトデッキとコックピット周りについての主要参照先をまとめた。

2011年にスペースシャトル退役がニュースとなったおかげで(というのも変な話だが)、NASA のアーカイブをあまり漁らなくともコックピット全体像などの画像資料は探しやすかったが、肝心のパネルやスイッチ、そしてディスプレイ表示がどうなっているのかといった細部に関しての資料は少ない。

コックピット周辺

各オービターは1990年代末から2000年代初頭にかけて順次グラスコックピット化された(もちろんチャレンジャーは除く)。アナログ計器をマルチファンクション・ディスプレイ(アナログ計器と違っていくつもの情報を1つの画面に表示できる)に換装したこのシステムは MEDS (Multifunction Electronic Display Subsystem) と呼ばれる。

下の画像の左が新しいコックピットで、右が古いもの。一見してディスプレイが増えて現代的になったのが分かるだろう。

The Shuttle "Glass Cockpit": Multifunction Electronic Display Subsystem
  • NASA - Glass Cockpit Fact Sheet
    • NASA のグラスコックピット解説ページ(2000年)。
  • NASA - Glass Cockpit Image Library
    • グラスコックピットの画像をまとめたページ(2000年)。グラスコックピットでの初ミッションとなった STS-101(アトランティス)のコックピット画像などが簡単な解説とともにある。ただしボーイング737の画像も混じっているので注意。

宇宙船のパネルを扱っているサイト『宇宙船パネルマニアックス』でも、シャトルの新旧パネルや HUD について紹介されている。そこに MEDS のディスプレイ(モニター)関連でこういう記述があった。

このモニターだけで環境、電力、ガイダンス、コンピューターの情報等、全て観覧する事が可能です。また、どのモニターにどの情報を表示するかは、パイロットはスイッチを切り替えることにより動作します。5つのパネルに全て同じ情報を掲示する事も可能です。

spacecraft_panel_maniacs_shuttle

以下、その他に資料になりそうな画像をいくつか並べておく。

Space Shuttle Cockpit

Space Shuttle Cockpit | Flickr

ジョンソン宇宙センターにあるモックアップのコックピット。これが旧式のパネルである。

File:STSCPanel.jpg - Wikimedia Commons

グラスコックピット化された機体の飛行前に発表用として作成された画像。窓外の景色は合成で、本来あるべき操縦桿と座席も外されている。


Mind-boggling cockpit of space shuttle Atlantis revealed | Mail Online

アトランティス。

Space Shuttle Endeavour's Control Panels by jurvetson, on Flickr

エンデバー。

A look inside the Space Shuttle Endeavour - PhotoBlog

エンデバー。

NASA - Shuttle Team Reflects on Permanent Power-down of Discovery, Atlantis

エンデバー。




Space Shuttle Era: Power Down - YouTube

アトランティス。これでボタンかと思っていたものが違う種類のスイッチだったことが判明(下2枚)。トグルスイッチの一種になるのだろうか? それから映像中では順次オフにしているディスプレイのことを「CRT」と呼んでいるが、退役よりずっと前に画面は全て液晶になっているはず。「CRT」という呼称だけ昔の名残で使われていたのだろうか?


Boeing: New-Look Atlantis Ready for Date with Station

1998年にアトランティスのグラスコックピット化を担当したボーイング社の当時のニュースリリースより (Internet Archive)。ディスプレイがはめ込まれる前のパネル構造がよく分かる。これは CRT なのか?


NASA - How the Space Shuttle Got "Smarter"

フルカラーでフラット画面になったアトランティス(2000年)と、ディスプレイを新しくしているエンデバー(2005年)。ディスプレイを囲むベルクロはアクリルの保護カバーを貼りつけるためのものだというのが分かる。


Shuttle Discovery cleared for Thursday launch attempt (UPDATED) | CBS Space News

パネル裏側の配線構造が分かる珍しい画像。この L4 パネルには主エンジン制御器の電源回路ブレーカーが配置されており、このとき(STS-133)に電圧降下した原因はここではないかという話の記事より。

Shuttle Panel L1

Shuttle Panel L1 | Flickr

これは船長席(コマンダー・シート)の隣にある L1 パネル。ジョンソン宇宙センターのシミュレータより。

以下はシャトルのコックピットやフライトデッキ画像を紹介した日本語ページと、その転載元の英語圏ページ。

フライトデッキのパノラマ画像

なお、スペースシャトルの退役を受けて、フライトデッキのパノラマ画像が撮影されている。

コントロールパネル

  • Space Shuttle Cockpit by ~Kouglov on deviantART
    • こちらは、スペースシャトルのパイロットマニュアル(2000年)にあるコントロールパネル(コックピットパネル)図。コクピット周りのパネル分割構造が一覧できる図としては最も分かりやすいが、見てのとおりディスプレイの数が少ない――つまり残念なことに換装前の古いパネルである。解像度もそこまで高くない。
  • Space Shuttle - Historic Space Systems - ここにはかなり大きな画像で旧式パネルの線画がある。非常に参考になりそう。
  • Controls & Displays - Historic Space Systems - こちらのページにはシミュレータから取り外した旧式パネルのアナログ計器類の写真がある。
  • Space Shuttle Flight Deck Poster - Zazzle.co.jp
    • MEDS 換装後のフライトデッキパネル図をポスターにしたもの。拡大するとパネルとディスプレイに振られた番号が分かる。
  • L'avionique de la navette - Capcom espace
    • こちらはフランス語のサイトだが、新旧両方のコントロールパネルの線画がある。サイズが小さいのが惜しい。なお新旧が入り混じったようなパネルの絵があるが、これは MEDS 初期段階の予想図だったらしい。

また、NASA がフリーで提供してくれている3Dモデリング用制作素材の中に、フライトデッキパネルの素材があった。

  • NASA - Discovery Flight Deck Panels
    • STS-103(1999年)のディスカバリーのフライトデッキパネル。ボタンの並んだパネルの写真。
  • NASA - OV-102 Panels
    • コロンビアのフライトデッキパネル。スイッチ、ボタン、インジケータなどが並んだパネルの写真。撮影時期は不明だが、アナログ計器があるので MEDS 換装前のパネルだろう。
  • NASA - ISS Panels
    • ちなみにこれは ISS のパネルである。音声端末ユニットと、キリル文字のキーパネル(ロシアモジュールの設備?)の写真。

ディスプレイ表示

On the bottom left, you have quantity lists for the auxiliary power unit (big diesel generators providing all the electrical power during launch) and the hydraulics. The bottom right shows my tank pressures. Typically the mission specialist and pilot are monitoring these so the commander can fly. On the top left you can see my horizontal situation screen. During this photo, I happen to be executing the fly-around the Cape. You can see the three yellow markers that estimate my glide path in 30-second intervals. I’m about halfway around. If you look at the top right screen, it shows my vertical situation. Check it out, I’m right on the centerline down path, in the box 5x5. My nose is a little low though. Take a look at the center screen. That’s actually being fed from the backup flight system. The Shuttle has five general purpose computers that work simultaneously. During launch, four of them (maybe three, I can’t remember) are strapped together in a mutual voting scheme. In case of discrepancy, the two closest will vote out the outlier. Remarkably, the Shuttle happens to have an independent backup flight system. This is not just another episode of the flight software running on another computer. NASA commissioned an entirely separate set of software from a different contractor. Neither the primary nor the backup knew what the other was doing, to avoid any mutual mistakes. So the backup flight system is pretending to fly the vehicle home just the same. As you can see, it predicted a slightly different flight path, which is why the center screen thinks I am flying too low.

Shuttle Commander Training :: SETH JAFFE

NASA エンジニアの解説(2010年/リンク切れのため Internet Archive)。

What's It Like to Fly the Space Shuttle? We Find Out | Wired Science | Wired.com

自作シャトルシミュレータ(?)のディスプレイ。高度33000フィート(10km)を通過中の主飛行画面 (Primary flight display) とのこと。

  • SPACE SHUTTLE MEDS PROJECT
    • ここは有名な宇宙機シミュレータソフト Orbiter のインターフェースを、現実と同じく MEDS 化するアドオンを開発・配布しているサイト(更新は中断?)。そのため MEDS のディスプレイ表示内容がわかる画像がたくさんあり、参考になる。加えて、現実の MEDS 画面の写真もある。

MEDS の更新

どうやら搭載された MEDS が古い表示形式の欠点を解決していなかったということで、NASA は使いやすさを重視した画面への変更計画を立てていたらしい。この計画は Cockpit Avionics Upgrade (CAU) と呼ばれる。下の論文に当時新しく提案されたディスプレイ画面の表示画像が載っているが、暗緑色の画像が本来の MEDS 表示例、青い画は新提案しているディスプレイ表示例である。確かにこの表示は素人が見ても古くて分かりにくい……。

以下の論文には、MEDS と CAU の上昇中のコックピットディスプレイ7画面の比較(上が MEDS で下が CAU)が載っているが、ここにある MEDS は初期の暗緑色画面ではないので、おそらくアップデートされたものだろうか。なおこの研究の CAU はオービター退役が迫っていたため実際には組み込まれなかったが、研究成果は次世代機のインターフェースに応用される可能性があるという。

Effects of the Space Shuttle Cockpit Avionics Upgrade On Crewmember Performance and Situation Awareness

さらに詳しく

このパネルのこのスイッチはどういう時に使うのかといった、より詳しいことを知りたい場合はこちら。

このサイトはスペースシャトル・オービターの全システムとその構造についての文書を作成・公開することを目標としているらしく、コックピットのあらゆるディスプレイや通信機、スイッチパネルなどが図や写真とともに解説されている。ただし、ここに載っている写真は MEDS に換装後のものだが、図に関しては換装前の古いものである可能性があるので注意(そこまで確認・検証していない)。

各視点のページから辿れる "Schematic" で図解を見ることができる。また、解説がジャンルごとにまとまっており、特に以下のページは図とともに豊富な解説があり参考になりそうである。

フライトデッキやオービター、スペースシャトル全般

書籍

洋書であればスペースシャトルのメカニズム解説本がいくつか出ているようである。

タイトルに "Revised Edition"(改訂版)とあるが、出たのは1988年である。Amazon.com のレビューを読むと、

Because of its publishing date, this book does not deal with the Multifunctional Electronic Display Subsystem (MEDS), or "glass cockpit," that is on the three remaining orbiters. The MEDS system replaced the 32 analog gauges and four cathode ray tube monitors in the old cockpit with 11 state-of-the-art, full-color flat panel displays to reduce the pilot's workload. The first glass cockpit was installed in Shuttle Atlantis in 2000. Since this book was revised in 1988, the MEDS system is not mentioned in it.

The Space Shuttle Operator's Manual-Revised Edition

ということで、MEDS についてはやはり触れられていないとのこと。

追記:この本は1983年に『スペース・シャトル搭乗員ハンドブック』の邦題で野田昌宏氏が翻訳したものが出ていることを知り、入手。1982年に出た改訂前の版の翻訳なので古いが、日本語で読めるスペースシャトルの資料として非常に素晴らしいのでお薦めしておく。旧式フライトデッキ・コンソールパネルの線画が、折り込みページで大きく掲載されていた。

以下は2011年に出版された本。

さすがに MEDS も抑えた内容なのかと思いきや、やはりレビューを読むと、

The only missing, which I really enjoyed in the Saturn V/Apollo manual, is line-art drawings of the control panels. There are many nice pictures of the interior of the Shuttle, but the line-art is just cleaner to look at from a technical aspect. Perhaps the author couldn't include any because of the different configurations the control panels have had over the various iterations of Shuttle cockpits. It also could be an impossibility since the latest generation glass-panel cockpit is color-screen driven and re-configurable during flight!

Good Shuttle Overview with Excellent Pictures

ということで、なんとコントロールパネルの線画図面がなく、グラスコックピットのディスプレイ表示内容も載っていないらしい。ちなみに Wired のサイトで著者自身がこの本の内容を抜粋・紹介している。

最後に紹介するのは日本語のムック。イカロス出版の『コクピットイズム 03』「スペースシャトル最終便。」という巻頭特集記事で、シャトルのコックピットを詳細に取り上げている。

入手して読んでみたらこれは当たり。おそらく日本語でこれほど詳細に(かつ最新情報で)オービターのコックピット周りが解説されたものはないのでは。コックピットの各パネルや MEDS の紹介があり、打上げや大気圏再突入の際のディスプレイ内容も図入りで触れられている。このムック記事を取っ掛かりにして、さらに細かい点が知りたければ次で紹介している本家の英語マニュアルに当たるのが手っ取り早いと思われる。

最後にして最大の資料

この記事をひと通り書き上げてからもさらに探した結果、スペースシャトルのフライトマニュアルが Web で入手できることを知った。辿り着くのに時間がかかり過ぎである。

動画









その他

最後にスペースシャトルとは関係ないが、宇宙船コックピットなどの設定・描写に参考になりそうな資料を並べておく。

以下はインターフェース関連。

ついでに、SpaceX社が開発中のドラゴン宇宙船(有人型)の内装イメージ映像も追加しておく。



最終更新日:2017-05-05