宇宙における放射線被曝について

ちなみに、太陽系を制覇したい(冥王星を目指す)となると、線量は60Svを超える計算となるが、現在の知見では10Sv以上浴びれば造血器障害で死亡すると考えられるので、ヒトの寿命を考えると、どんなに丈夫でも目的地に着くまで生きているのは難しいだろう。

独立行政法人放射線医学総合研究所 藤高 和信・福田 俊・保田 浩志 編『宇宙からヒトを眺めて 宇宙放射線の人体への影響』研成社, p. 30, 2004.

太陽系の果てとまでいかずとも、宇宙を舞台にしたほとんどの創作において、普通なら話が作りにくいので無視されるのが登場人物の放射線被曝である。しかし実際はどうなのか、というのを素人ながら調べてみた。なお冒頭の引用は、2003年に開催された第3回放医研放射線安全センターシンポジウムの講演内容をまとめた本から(まだ冥王星が惑星だった頃に出版された)。

基礎知識

地球上における自然被曝量
  • 地球上で生活していて受ける自然由来の被曝線量は、合計すると年間で世界平均は2.4ミリシーベルト、日本平均は2.1ミリシーベルト。
  • 日本人の平均被曝線量は年間5.98ミリシーベルトで、そのうち2.1ミリシーベルトが上記の自然放射線からの被曝、それ以外はCTやX線検査等の医療被曝と推定されている。
放射線の人体への影響
  • 放射線にさらされるとDNAが傷つけられ、発癌、白内障、心臓病、変性組織疾患、骨髄やリンパ節の損傷、HZE(High−Z and high Energy particles;銀河宇宙線の重粒子)による中枢神経系の損傷などのリスクが高まる。
  • 人体内には損傷を受けたDNAを治したり、あるいは修復不可能と判断されたDNAをもつ細胞を身体から除去するシステムがあるため、被曝量がある程度少なければ気にしなくてよいといえる。
  • 放射線の影響は被曝して短時間後に現れる急性影響と、長い潜伏期を経たのちに確認される晩発影響に分類される。急性影響は原子炉事故等によって短時間で大量の放射線を受けた時に発生し、晩発影響は数年から数十年後に生じる。急性影響の症状は一度に浴びる量が250ミリシーベルト以下では現れないが、3シーベルト以上になると皮膚の紅班、脱毛が起こり、7シーベルトを越すとほとんどの人が死亡する。
  • 中枢神経系への急性影響としては、認知機能の変化、運動機能の低下、行動の変化などがある。晩発影響としては、アルツハイマー病、認知症といった神経障害の可能性が挙げられているが、未だデータが不足しているので確かなことは言えない。
  • 自然被曝以外に生涯で通算100ミリシーベルトを被曝すると、癌で死亡するリスク(確率)が0.5%上乗せされ、通算1シーベルトではそれが5%上乗せされる。
  • 広島・長崎の被爆2世である75,327名について最長62年(中央値54.3年)もの追跡調査が行われており、結果、放射線被曝の影響は子孫に遺伝しないことが分かっている。
宇宙線視覚現象(Cosmic ray visual phenomena)
  • 宇宙放射線が宇宙滞在者の網膜を透過することで、目を閉じているのに閃光を時々感じる現象(眼閃の一種ともいえる)。NASAとESAの宇宙飛行士の約8割がこれを経験しているという報告が2006年に出ている。

宇宙放射線の種類

国際宇宙ステーション軌道の宇宙放射線 - ISS宇宙放射線環境計測データベース - JAXA
銀河宇宙線(Galactic Cosmic Ray; GCR)
  • おそらくは超新星爆発を起源として、太陽系外の宇宙から飛来する高エネルギーの荷電粒子(その大半が陽子)。
  • 約11年周期の太陽活動に伴って量が変化する。太陽活動が極小の時期に最大になって被曝量も増大し、逆に太陽活動が極大の時期に最小になるため被曝量も減る。これはいわば盾となっている太陽風による磁気圏(太陽圏)が、太陽活動の大小に伴って強まったり弱まったりするためである。太陽活動極小期は極大期より約2.5~2.7倍も被曝量が高くなるという話も。
  • なお地球近傍の場合、地球の磁力線の向きのため、地磁気的に高緯度であるほど銀河宇宙線が侵入してくる量が多くなるので、その被曝量は大きくなる。とはいえ低緯度でも静止軌道等のように高度が高いと、そのぶん次に述べる捕捉粒子線が多くなるため被曝量が増えるので注意。
捕捉粒子線(Radiation Belt Particles; RBP)
  • 地球の磁気圏に捕えられた荷電粒子(陽子や電子)で、ヴァン・アレン帯と呼ばれる、地球をぐるりと二重に取り巻く放射線帯に存在する。
  • ヴァン・アレン帯は高度1000km以上にあるため低軌道で過ごすだけなら通常は問題ないが、ブラジル沖上空でその一部が落ち込んでいて「南大西洋異常帯(South Atlantic Anomaly;SAA)」と呼ばれており、この領域は低軌道と交差する。高度300~400kmのISS軌道上では、受ける線量のうちSAAでの捕捉粒子(陽子)によるものと銀河宇宙線によるものが約半々とされている。
太陽粒子線(Solar Energetic Particles; SEP)
  • 太陽フレア(太陽黒点周辺で起こる爆発)やコロナ質量放出(太陽大気プラズマの惑星間への大量噴出)といった突発的な現象(Solar Particle Event; SPE)により、太陽から放出される高エネルギーの荷電粒子。
  • 太陽活動極大期にしばしば発生し、稀に大規模なものが起こる。太陽フレアに伴った粒子放出は持続時間が数時間程度だが、コロナ質量放出に伴ったものは数日間程度続く。
  • 加速された高エネルギー粒子は太陽表面でX線・ガンマ線を発生させる。
  • 太陽フレアが発生してその粒子が地球に到達するまで(つまり宇宙飛行士がシェルターに退避する時間的余裕)は約30分間あり、そのため太陽の状態を常時観測する「宇宙天気予報」が重要になってくる。
  • 大規模な太陽フレアでは一度に被曝する線量が多いため、長期に渡って受ける線量の積算を前提とした線量制限値と比較して考えるのは好ましくない。

二次放射線
  • 宇宙放射線が宇宙ステーションや宇宙船等の壁面にぶつかると、中性子など多量の二次粒子が発生してしまうのだが、これを二次放射線や二次宇宙線と呼ぶ。

Wilson J. W., Miller, J., Konradi, A., Cucinotta, F. A., "Shielding Strategies for Human Space Exploration", NASA-CP-3360 (1997)

地球低軌道上の宇宙ステーションではどれだけ被爆するのか

宇宙飛行士の被曝線量
  • ISS滞在中の宇宙飛行士の被曝線量は、1日当たり0.5~1ミリシーベルト程度。これは地上で生活していて受ける自然被曝量の80~160倍。
  • ISSでは30日間の予測で250ミリシーベルト、1年間の予測で500ミリシーベルトを超えるおそれのある場合には緊急帰還させることになっている。
  • 多くの宇宙機関では、健康リスク上昇の許容範囲を鑑みて、宇宙飛行士が生涯に浴びられる被曝線量(生涯実効線量)を1000ミリシーベルト(=1シーベルト)と定めている。
  • 実効線量の制限値というのは「ここまでは被爆してもよい」という許容値ではないことに注意。放射線防護の分野には「合理的に達成できる範囲で、できる限り低く」という原則がある。放射線被曝によって生じうる害とその他の利益を共に考慮し、被曝線量をできる限り低くしていくという考えなので、被曝線量が低いに越したことはない。
  • ひとつ言えるのは、太陽フレア等を除けば、ヴァン・アレン帯の内側では1日1ミリシーベルト以上の被曝は受けにくいということ。つまり地球低軌道にいる限りは、数年単位で宇宙生活しないと将来に影響は出なさそう。
JAXAの基準
  • JAXA基準のISS搭乗宇宙飛行士の生涯実効線量制限値は、初飛行時の年齢が27~30歳で男性0.6シーベルト、女性0.5シーベルトとなっている。つまりこの年齢で初めて宇宙に上がったとして、何回かのミッションの通算で男性なら0.6シーベルト(=600ミリシーベルト)まで被曝したら、JAXAとしてはその飛行士をもう宇宙へ上げさせないことになっている。
  • 初飛行時の年齢が上がるにつれ制限値も上がる。なぜなら年配者は若年者に比べて帰還後の生存年数が短く、そのぶん統計的に放射線による癌の発症率が低くなるためである。
  • JAXAの生涯実効線量制限値は、確率的影響のリスクを一般の放射線業務従事者と同程度に制限するために設けられ、生涯の癌死亡のリスクが3%程度になるよう決められた。これはICRP(国際放射線防護委員会)の勧告を基にしている。
  • JAXAは宇宙飛行士の線量測定に、個人線量計「Crew PADLES」というのを使っている。

国際宇宙ステーション搭乗宇宙飛行士 放射線被ばく管理規程 (2013) : 宇宙医学 - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA
NASAの基準
  • NASAの制限値は、初飛行時の年齢が25歳で男性1.5シーベルト、女性1シーベルトという情報があった。これはNCRP(米国放射線防護委員会)1989年勧告の生涯実効線量制限値が基になっている。こちらも年齢が上がるにつれ制限値も上がる。
  • NCRP2000年勧告では10年実効線量制限値が勧告され、25歳で男性0.7シーベルト、女性0.4シーベルトとなっている。こちらは10年間で区切られているとはいえ、実効線量値の制限が厳しくなっている。なおJAXAの基準はこちらに近い。NASAも現在ではこちらの勧告を採用している気配があるが、調べきれなかった。下に示すように、2009年のNASA文書でNCRP2000年勧告に触れている箇所を見つけたが、2017年に公開された宇宙放射線に関する一般向け文書では前項の値のままだったりする。

Risk of Radiation Carcinogenesis - Human Health and Performance Risks of Space Exploration Missions, p. 136 (2009) - NASA Human Research Roadmap

Space Radiation ebook (2017) - NASA

追記:2023年9月15日版「NASA Spaceflight Human-System Standard Vol. 1」の4.8.2節によると、宇宙飛行士の「total career effective radiation dose(総キャリア実効線量)」は600ミリシーベルト未満でなければならないとされている。この制限は年齢、性別に関係なく適用され、過去に宇宙飛行で受けたすべての放射線被曝に加え、今後のミッションで予想される被曝も含まれる。この線量制限値になっている理由は、各クルーのがん死亡リスク平均値が被曝しなかった場合のベースライン平均値の3%未満に保たれるようにしているからだという。基準のこの内容は2022年に改訂されたらしく、現状のNASA最新基準はこの制限値ということらしい。

太陽粒子線
  • ISS軌道上において太陽フレア1回あたりで受ける実効線量は、過去のとあるフレアを基に計算したモデルだと、ISS內部で5.1ミリシーベルト、船外活動時だと27ミリシーベルトと推定されている。無論これは上限ではないので、フレアの規模によってはもっとずっと大きくなる状況もありうる。

保田浩志, "宇宙で被ばくする放射線の量とそのリスク", 京都大学宇宙総合研究ユニット 第4回シンポジウム (2011)
線量低減対策
  • 単位質量あたりの宇宙放射線遮蔽効果はその材料を構成する原子に依存し、水素が最も高く、原子番号が増加するにつれ低下する。なので遮蔽材として最大の性能を発揮するのは液体水素だが、極低温の液体なので実用的ではない。優秀で使いやすい材料としてはポリエチレン(水素の重量濃度が高い)が挙げられる。
  • 宇宙ステーションの壁面に水もしくはポリエチレンを敷き詰めることができれば、受ける線量はより低くできる。水は二次放射線の発生する割合が金属素材よりも小さく、さらに中性子線の遮蔽効果にも優れている。これはISSにおいてウェットタオルを板状に積み重ねて行われた測定で実証されている。
  • 構造材からの二次放射線は、その材料を構成する原子の質量数とともに増加するため、材料として水素や軽元素を使うことで低減できる。そのため宇宙船をアルミニウムではなく、水素が豊富なプラスチック(有機化合物)で建造できないかというNASAの研究も存在する。
  • 機体壁面内に含水物の遮蔽体があるとか、構造材に特殊なプラスチックを使用しているといった設定を盛り込んでおけば、キャラクターの被曝に対する対策となりえる。
  • 後述するように、放射線防護ベストというものもある。

子供の被曝について

  • 仮にDNAについた傷が同程度だったとしても、若い頃に被曝したほうが実際に癌を発症する可能性が高い。
  • 同程度の放射線を被曝したとしても、子供の方がDNAに多くの傷がつく(大人より子供の方が細胞分裂の頻度が高いため)。
  • 幼い頃の被曝の影響は年齢が高くなっても消えない。
  • 被曝した年齢が低いほど受ける影響が大きい。
  • ICRPでは、小児期早期の被曝の場合は癌の生涯リスクを標準人の3倍としている。

以上の事実から、科学的根拠はないが、あえて子供が宇宙に出た場合を妄想してみよう(SFではよくあることだ)。乱暴だが大人の宇宙飛行士の制限値をそのまま3分の1にして子供に当てはめると、JAXA基準ベースで男子0.2シーベルト、女子0.16シーベルトが生涯実効線量制限値となる。宇宙生活ではISSと同じ1日1ミリシーベルト被曝するとして、男子は200日、女子は160日しか低軌道の居住施設に滞在できないことになる。子供が数年単位で宇宙生活をすると将来の健康を害しそうである。

月面ではどれだけ被曝するのか

銀河宇宙線
  • 月には大気だけでなく磁気圏もないため、銀河宇宙線がそのまま地表へ降り注ぐ。
  • 月面における線量はこれまでさまざまに計算され推定されてきた。例えば2012年の論文では、月面における年間実効線量のワーストケースは太陽活動極小期の海領域におけるもので、その値は年間約890ミリシーベルトとされていた。なお、これは銀河宇宙線の年間実効線量と二次中性子の年間実効線量を足し合わせたものである。
  • 2018年の研究によれば、銀河宇宙線の推定線量は太陽活動の極大~極小期の中間において、年間の周辺線量当量が約570ミリシーベルトに達するとされている。
  • 周辺線量当量とはサーベイメーター(放射線測定器)で測れる値。実際には自身の体で放射線が遮蔽される効果があるので、成人の場合だとこの値の0.7倍くらいが大まかな実効線量になると考えればよい。570ミリシーベルトの0.7倍は399ミリシーベルトである。
  • ここで子供については、周辺線量当量の0.8倍を実効線量として考える程度が妥当か。570ミリシーベルトの0.8倍は456ミリシーベルト。1年の365で割ると1日1.25ミリシーベルトとなる。上記で仮定した男子0.2シーベルト、女子0.16シーベルトという制限値を単純に当てはめると、滞在できるのは男子160日、女子128日となる(重ねて言うが、SF的妄想である)。
  • しかしもちろん遮蔽がほぼない地表に居続ける状態はありえず、地下の居住地に住まう場合はそこまでひどくならない。
  • ここで、人類は月面の縦穴から続く地下に居住していると設定しよう。太陽活動極小期の銀河宇宙線による実効線量は、マリウス丘で発見された縦穴(直径・深さ共に約50m)の場合、上面では年間832ミリシーベルトだが、穴底では年間92ミリシーベルトまで減少すると推定されている。そして注目すべき点として、縦穴から繋がって水平に伸びる月の溶岩洞内では、線量が縦穴内よりもはるかに低くなり、地球表面の線量とほぼ同じレベルになるという。
二次放射線
  • 月表層に降り注ぐ宇宙線の荷電粒子は月の物質と相互作用して、高速中性子を大量に発生させる(二次中性子)。そして発生した高速中性子はよりエネルギーの低い熱中性子になったり、月の物質と散乱を起こして大量のガンマ線を発生させたりする。
  • 探査機「かぐや」の観測データによると、月面での中性子の周辺線量当量は地域に応じて年間で61~81ミリシーベルトとなり、これは地球表面の20倍以上である。
  • 月表面で受ける被曝線量のうち支配的なのは銀河宇宙線のものだが、地下だとこれが小さく、むしろ荷電粒子と月の物質との相互作用により生成される二次中性子の線量が支配的となる。たとえ月の地下に潜っても、浅いと地面から出るこの中性子などの二次放射線を受ける。
  • 月の物質を約500 g/cm2 使って月地下にシェルターを造ることができれば、二次中性子成分を含めて十分に遮蔽が可能。これは月表層の密度を3.11 g/cm3 と仮定した場合、月地下1.6 m 程度の深さが必要である。
    • 放射線量は遮蔽物質の密度にも依存して減衰するため、物質の厚さ(cm)にその物質の密度(g/cm3)をかけることで得られる物質量(g/cm2)で、放射線遮蔽材の実際の厚さを表現する。
  • 月の物質だけでなく、水やポリエステルを組み合わせた遮蔽材を設置することで、中性子線量を大幅に遮蔽できる。
太陽粒子線
  • 月面には銀河宇宙線だけでなく、太陽粒子線も直接降り注ぐ。
  • 月面での太陽フレアによる被曝線量は、大規模フレアの場合だと一度で銀河宇宙線の年間線量を大きく上回る可能性もある。実際かつての大規模フレアにおいて地球磁気圏外で1シーベルトの線量が記録されたことがあり、地球磁気圏外だとフレア時に発生するX線・ガンマ線による被曝線量が致死量を超える可能性もある。
    • 太陽と反対方向にある地球の夜側では地球磁場が尾のように引き延ばされ、吹き流しのような形をした磁気圏が形成されている。月がこの磁気圏の中を通過するのは、地球を1回公転するうちの約5日間しかなく、それ以外は地球磁気圏外である。
  • 太陽粒子線は高エネルギー成分が少ないため、遮蔽は容易である。通常の場合は10 g/cm2 のアルミニウム厚があればその線量値をほぼ0にできる。そのため太陽フレアの際は、宇宙船の影に身をひそめるだけでも十分に遮蔽効果が期待できる。
  • かつてアポロ計画のミッション中に太陽フレアのイベントが発生しなかったのは偶然による幸運でしかない。
  • 将来に月面でアウトドア作業をする場合の太陽フレア対策として、軽量かつ展開・組立が容易な電磁スクリーンが研究されている。

Analysis of a Lunar Base Electrostatic Radiation Shield Concept - March 2005 Fellows Meeting - NASA's Institute for Advanced Concepts

以上のことから、月の地下居住区で生活している限りは、被爆に関してそれほど考慮しなくてもよいといえる。月面の基地施設およびアウトドアで過ごす場合は、線量計で被曝管理をしっかり行う必要があり、突発的な太陽フレアにも注意しなければならない。

個人的には放射線に並んで「月の塵」および「低重力」も、月長期居住時の健康に対する悪影響が大きそうだが、本題ではないのでここでは触れない。

火星

RADの測定結果に基づくと、火星まで片道253日(キュリオシティが火星到達に要した日数)の旅で、宇宙飛行士は466ミリシーベルトの銀河宇宙線と太陽エネルギー粒子線を浴びる計算になる。往復だとその倍だ。

火星への有人飛行が実現するころには所要日数も短くなっていると予想されるため、研究チーム(およびNASA)は火星まで片道180日で計算している。それだと被曝量は片道330ミリシーベルトほどだ。

火星旅行に大量被曝のリスク | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

火星への往復旅程と火星表面での被曝量については、余裕があればそのうち。興味のある方はこの辺を参照のこと。

木星

エウロパはほとんど大気をもたず、また木星の猛烈かつ巨大な磁場から放たれる放射線の大渦に見舞われている。その量はすさまじく、もし人間がそこに無防備に立っていたなら、10分か20分で死んでしまうだろう

木星の衛星エウロパは発光しているかもしれない、研究 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

木星圏の放射線もきちんと調べたいが、まあそのうち。

CREW HaT

超伝導体のコイル8つを使って宇宙船の外側に磁場を形成し、有害な宇宙線(1GeV以下の陽子)や高エネルギー重イオンの50%以上を逸らすという研究がある。コンセプト名は「CREW HaT」。HaTとは「Halbach Torus」の略で、ハルバッハ配列というものを利用しているらしい。

CREW HaT: Cosmic Radiation Extended Warding using the Halbach Torus | NASA

AstroRad

StemRad社とロッキード・マーティン社が共同開発した放射線防護ベストがある。ヴァン・アレン帯の外に行くとなると被曝量が増えるので、その対策として、特に太陽粒子線を念頭に置いている。放射線遮蔽効果の高い水素を豊富に含むポリマー(ポリエチレン)で構成されているらしい。肺、骨髄、結腸、胃、乳房、卵巣などの感受性が最も高い臓器を覆うことでその中の幹細胞を保護するため、ベスト形状となっている。

iss061e147629 | NASA Image and Video Library

参考


最終更新:2024-03-12